『邸宅視察』
ナスタが作った俺の家に、早速入ってみる事になった。
「……これ、崩れたりしない?」
おっかなびっくり。当然だろう。みんなは平気な顔して入って行くが、俺から見れば積み木に等しい建築方法だった。
接合部がどうなっているのか、まるでわからない。
「……釘? そんなの折れるじゃない。危ないわね……マナで繋ぐ方が遥かに頑丈でしょ?」
事もなげに言われたが、視覚から得られる安心感の重要性について、誰かナスタに説明してやってほしい。
(……押したら壊れたりしないかな?)
試すのも怖いんだが……。
「……見事だ。ナスタ嬢には驚かされる事が多いな」
「建築は何度か見てたことがあるの。すごくまどろっこしかったけどね」
「……現在の手法は効率が悪いと?」
「仕方ないのよ。精霊は命令に忠実。命令されなければ動けないんだから」
「……成る程、あの早さの違いはそこか」
「指示が無ければ動けない者と、そうでない者の差よ。どちらが上とは一概に言えないでしょうけど……」
ナスタとランフェスが話しながら、正面の階段に向かって行った。
「アーリス様は、どちらに向かわれますか?」
「ん〜〜」
既に図面は脳裏に焼付済みだ。
まだ建具の類いが付いていないので、正面の玄関扉すら無いが、2階にせり出したテラスの様な出っ張りの下を通り、入り口に入ると先ず、天井まで突き抜けた広い空間がある。
目の前には正面階段。上がりきったところに中央通路があり、その先の部屋が俺の私室だ。2人が向かったのは多分其処だろう。
そして、その中央通路の左側が浴室で、右側が寝所になる。
「……浴室が見たいな」
「かしこまりました。お伴します」
今はただの通路だが、図面で見れば、この中央の通路は後で四方が扉で囲われ、関所みたいな縦長の部屋になる。
……それは、まあ別にどうでもいいが、浴室の対面の向かった先に、どでかい寝所があるとか……何を目的として配置したのか一目瞭然だ。
(やる気があり過ぎる……!)
更に、この設計の主線を引いたは、シャリアさんだと仰る。
(……この娘、実は凄くエロいとか?)
妄想が捗りそうなところで、領主館のレイアウトを思い出した。
(そっか……そういえば、領主館の浴室も私室に近かったな……)
あれは多分、湯冷めしない為のものだ。これも同じ考えの配置だろう。
……ピンクなのは俺の脳味噌の方だったらしい。猛省せねば。
「おお〜! 空が見える!」
注文通り、屋根の無い浴室だ。
「……あの、アーリス様? 雨天の時や戸締りはどうするのですか?」
「上の方に、紋章陣でブラインド作る予定〜」
「……ブラインド?」
「木の板を横に滑らせて塞ぐのですよ」
「ああ! なるほどです」
雨天のお風呂もそれはそれで……とか、思っていたのだが、「開きっぱなしは駄目」と、ナスタとランフェスからNGが出てしまったので、妥協して考えたものだ。
風呂円柱の方も、木材であれば組み方次第で上下に動かせるらしい。毎回マナが必要とか言ってたけど、問題ない。気にしない。全力だ。
「おお〜、早く入りて〜!」
「……外で入浴なんて恥ずかしいですけど、アーリス様がお望みなら……が、頑張ります///」
「いや、そんな頑張らんでも……慣れれば、そんなに気になるものでもないよ? 覗き対策も完璧だから」
「…………はい///」
……やっぱり、恥ずかしいのだろうか?
前の世界では、当然の文化だったから、シャリアに意識を合わせるのが難しい。
(……『湯着』も検討するか?)
湯着は水着と同じ様なものだ。高額の物……紋章術が付与されたものは、『水が抜ける』らしい。
小耳に挟んだ程度だから確かではないが、流水を妨げず、着用感が無くなるとか話してたような……アスガンティア人も、中々に色々考えるものだと思う。
「……アーリス? 何処だ?」
「こっちです! 浴室に居ます!」
ランフェスが探しているらしい。こっちから行こうか? と、迷う間に向こうが先に動いた。行動が早い。
「……見事に天井が無いな。本当にやるのか?」
「勿論です!……あっ、そうだ。伸縮の柱の横に、穴開けられます?」
「穴?」
「お湯をそこからも出したいんですけど……」
と、簡単に打たせ湯の説明をする。
「……そんな事も考えていたのか」
「いけるわよ? 他はいいの?」
「ん〜、砂風呂は要らない。サウナは一部屋潰せば後でも作れそうだし、足湯も特には……」
「待て、何の話だ」
帰りの馬車で話すつもりだったが、機会が巡った。いま説明してしまおう。
「…………何とも奇抜な発想をしたものだな」
「……厳しいですか?」
ランフェスが顎に手を当てて、検討する。
「……需要はありそうに思える。目新しいし、興味を引くだろう……ただ、建築の規模が大きい。それに、ジャグジーと言ったか? 確かに君の紋章陣の複製は出来ないだろうが、1人で全て作るつもりか?」
「……複製出来ない?」
どういう意味だ?
「あんたの紋章は『点状紋章』って言って、ちょっと珍しいものなのよ。一般的な紋章は『線状紋章』」
ランフェスが、俺の紋章をコピーしたさっきの紙を取り出して広げた。
「君の紋章は、全てが点の群れで構成されている。この紋章で作られた紋章陣には、同様の特徴が出る。複製しようと思えば、職人はこの点を全て追わなくてはならない」
「うげっ⁉︎」
嫌すぎる。聞いただけで、うんざりする作業だ。
「点状紋章は『職人殺し』とか言われてるのよ。物にもよるけど、複製には年単位の時間が掛かったりするわ」
「専有したい、という君の希望は叶うだろうが、その分生産の負担がのし掛かるぞ?」
「うう〜〜」
内職の日々は避けたい……が、流布してしまえば、あっさり追い抜かれるだろう。
「…………やります」
覚悟を決める。将来の安寧の為だ。
「当人にその意志があるのであればいいだろう。幸い騎士団の方も、君から離れて動ける体制だ。今ならばまだ自由が効く。生産に注力する時間はあるだろう」
(……すまん、副団長諸君。団長は内職に勤しむ事になった)
給料でも弾んであげようと思う。
「しかし……こんな方法があったとはな……」
(……あれ? 何かデジャブった)
ナスタも似た様な事言ってた様な……、
「……ランフェス、五精族の代表として、この事業に全力を賭す事を『フロード領』に要請するわ」
「ナスタ⁉︎」
領に要請とか、なんかナスタが凄い事言った。
「……応じよう」
「ええ⁉︎」
応じちゃったよ! 何で⁉︎
「この事業の成功は、フロードも得る所が大きい。この内容であれば、領主の説得も容易いだろう。……まったく、君達はよくよく私の仕事を増やしてくれるものだ」
いや、そんな意図は全然無かったんですけど……。




