『家名』
昼食後の歓談タイムで、建設についての詳細を確認する。
「建設って、結局何やるんですか?」
俺の家は、ナスタが作るらしい。
……意味がわからないんですけど?
「……説明してもいいが、見ながらの方が早いだろう。君の邸宅の目処がついたら、一度バドムに戻らなくてはならなくなった」
「何かあったんですか?」
「ワールズから紋話が届いた。難事では無いが、私の案件だ」
ワールズはランフェスの専任執事だ。フロードが人手不足なのに、北のバドムは余裕があるなんて事は無いだろう。長期こちらに滞在する代わりに、執事を置いてきたらしい。
「君との今後のやり取りは、カールネスが担当する」
「……え⁉︎ 忙しいんじゃ無いですか⁉︎」
領主の専任を動かすのは、とても気がひける。
「私も暇という訳では無いのだが……まあいい。君の騎士団の扱いは、余人に預けられるものでは無い。将来、領主の直下の権威を与える予定の組織だ。迂闊に動かれても困る」
「……そうですね。……と言うか、そっちも何すれば良いか分かんないんですけど……」
当たり前だが、騎士団の運営なんぞした事がない。
「業務はこちらで用意する。人員を割り振り、それを処理してくれ……そう不安そうな顔をしなくてもいい。子供の騎士団だ。子供に出来ないような仕事を要求するつもりはない」
顔に出ていたらしい。苦笑混じりで指摘された。
「……そろそろ、いい時間だな。馬車を手配してある。移動しながら話そう」
「……本当に、いつもいつも何時手配してるんですか……」
「今回は偶然だ。もともと、こちらで少し打ち合わせをするつもりだったからね。私の次の予定に合わせて呼び出しておいたものだ。君が目覚めていなければ、建設計画の修正が必要だったが……」
ランフェスが言葉を区切って、合間で喉を潤す。
「起きているのであれば、このまま行こう。可能なら、君絡みの案件を全て処理してから、バドムに戻りたい」
「……俺は構いませんけど……」
寝ていたから、みんなのスケジュールを把握してない。
「……? どうしたの?」
「いや、他の人の都合は大丈夫なのかと……」
「……平気に決まってるでしょ? 主人の予定に合わせられないとか、それ、従者じゃないから」
……それもそうかも。
「……おっと、移動する前に……」
ランフェスが黒い紙を取り出し、テーブルに置いた。
「これに、君の紋章を写してくれ。右手の甲を当てて、マナを通せばいい」
マナを通せ、と言う単語でドキッとする。大丈夫だろうか?
(……ナスタ、これ平気?)
《あんたは手を当てるだけにしなさい。マナは私が動かすから》
(やっぱ、あかんのか……)
《……今度余裕のある時に練習させたげるわ。あんたの場合、マナが多過ぎて普通の人と感覚が違いすぎるの。マナプレートが一瞬で赤になるとか、尋常じゃないのよ?》
……まあ、仕方ないだろう。
寝ている間も、当然呼吸はしている。
まるまる2日分。
相当に溜まっているはずだ。ビギナーが操るにはハードルが高いだろう、きっと。
甲を紙に当てて、後はナスタに任せる。
軽く熱を帯びたと感じた所で、《もういいわよ》と、ナスタから合図が届いた。
手を離すと、俺の紋章が紙にくっきり残っている。……面白いな、これ。
「何に使うんですか?」
紋章と言うより、小さい魔法陣のような模様を眺めながら、ランフェスに問いかける。
「……点状か……ん? ああ、君の『当主』の登録に使う」
(……当主……そうだった、家名!)
俺は領主の系譜から外れるから、『フロード』の領名は使えなくなる。
1から新しく家族というか、系譜を作る事になるので、領名から家名に代わる。
誰でも家名を名乗れる訳ではなく、領主に願い出て了承を得なければならない。細かい申請の条件があった筈だが、詳しくは知らない。ランフェスが動いているのだから、多分クリア済みなのだろう。
「何がいいかな〜?」
「……何がよ?」
「家名。フローゼル・アーリスはどう見ても女の名前じゃん」
「「「………………」」」
3人が顔を見合わせて、沈黙した。
「いや! いい名前だと思うよ! でも、俺男じゃん⁉︎ だから「いや、そうじゃなくて」」
「はえ?」
「家名って、確か自分で決められないわよ?」
「なぬ⁉︎」
ランフェスが溜息を吐きながら、ナスタの発言を肯定した。
「君は本当に貴族に疎いな……ナスタ嬢の言う通り、家名は『初代の幼名の末尾にスを付けたもの』にせよ、と定められている」
「………………」
「あんたのフルネームは『フローゼル・アーリス・フローゼルス』になるわね」
「何処のお姫様だよ⁉︎」
余計に酷くなった。
嘆く俺とは裏腹に、周囲は爆笑している。
「くくくっ、……いや、すまない。だが、似合っていると思うぞ?」
「ぷふふ〜っ! 元々かなりの女顔じゃない。女装でもすれば完璧ね!」
「うるせーよ、そこ!! うう、シャリア〜〜」
タチの悪いイジメっ子2人から逃れるべく、後ろに控えているシャリアに泣きつく。
「……シャリア・フローゼルス…………やだ、まだ早いです///」
「「「………………」」」
1人だけ別の空間に居た。
見れば判る。そっとしておいた方が良さそうだった。
「……移動しましょう」
「そうだな」
「行くわよ、ソシエ」
時間の経過と共にポンコツ化する、自分の侍従の扱いに軽く頭を痛めつつも、
(……急速に打ち解けてる、って事かなぁ? まだ、12歳なんだし、夢見る女の子ってこんな感じなのかね?)
と、シャリアの変化を微笑ましく見ていた。




