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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第二章 ~『原点』~
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『フローゼル』

 泣きながらお説教するシャリアを懸命に宥め、ようやく一息ついた所で、丁度お昼になった。



「いま何か作りますね♡」



 好きなだけ説教して、スッキリしたのだろう。


 一転してシャリアの機嫌がとても良くなった。なんか語尾にハートが付いてる。



「ふんふふ〜ん♫」



 鼻歌まで聴こえる……相当に溜め込んでいたらしい。



(……考え甘いな〜、俺)



 あの時の精霊耳栓は、己の役割を果たすという責任感ではなく、他に何も出来ないという無力感の発露だったようだ。



(存分に慰撫せねば……!)



 俺の渾身の力作、展望露天風呂で喜んで貰おうと思う。



「シャリア〜?」



 隣室のシャリアに声を掛ける。



「もうちょっと待って下さいね〜」


「……はい」



 間が悪かった。料理が出来るまで待とう。




 そんな感じで、大人しくシャリアの手料理を待っていると、



「お邪魔するよ……と、起きていたのか。おはよう、アーリス」



 ランフェスが来訪した。



「おはようございます。御迷惑をお掛けしました」


「……その様子だと、ナスタ嬢にしっかりと絞られたようだな」


「私じゃ無いわよ?」


「……?」


「ソシエに全部任せたから」



 ランフェスが笑う。



「成る程、我々が行うよりも、遥かに効果がありそうだ」


「猛省してますので、勘弁して下さい」


「ならばいい……寧ろ、私の方からも謝辞を述べたい」



 ランフェスが頭を下げた。



「本当に済まなかった。私の見通しの甘さが、君を死地に追いやるところだった」


「あ、いえ⁉︎ 違いますから! 大丈夫です」


「そうよ、マークスも言っていたでしょう? あの状況を予測出来た者は居ないし、出来ても対処が難しかったのだから、犠牲無く討伐出来た事実で満足なさいな」



 俺とナスタでフォローしまくる。



(原因俺だし!)



 ナウゼルグバーグの想定外のパワーアップは、俺のマナによるものだ。


 保身から暴露する訳にもいかず、ランフェスの誤解を是正出来ない。


 発端も原因も俺なのに、謝罪とか本気で居た堪れない。



「過去のあれこれより、次の住まいの方がよっぽど気になるわ。資材はどう?」



 ナスタがスパッと話題を移す。ナイスだ、便乗しよう。



「なんか、予定では今日かららしいですけど、どうなんですか?」



 俺からも不安げに問いかけると、ランフェスも意識を切り替えたらしい。


 対面の椅子に座って、こちらの懸念を払拭する様に、進捗を語り出した。



「順当だ。紋章陣の設置も完了している」


「アーリスの希望の分、追加があるの」


「……規模によるが、賄えると思う。どこだ?」



 ランフェスに問われ、得意満面に説明する。こう言うとなんだが、まるで童心に返ったようだ……子供だけに。



「……この程度であれば、問題はないが……興味深いな」


「やっぱり、外の入浴って無いんですか?」


「……聞いたことが無いな。特に女性は、自身の夫以外に肌を晒すことを嫌う……が、2階のこの位置で、この手法なら見られる事は無い……か、……ふむ、興味深いな」



 ランフェスが何か悩み始めた。アスガンティアの風習で考えると、やはり難しいだろうか?



「アーリス様、お待たせ致しました。遅ればせながら、ランフェス様、いらっしゃいませ」


「……ああ、先程は世話になった」


「……? 先程?」



 シャリアが配膳しながら答えた。



「はい、昼食の買い出しの合間に、アーリス様の時計の購入をお手伝いしました」


「時計?」


「これだ」



 ランフェスが懐から包みを出して、配膳を避けてテーブルに置いた。



「開けてみるといい」


「………………」



 サプライズなプレゼントに、ちょっとドキドキする。


 紙で包まれただけの簡素なものだが、折り方が丁寧なので、ずっと上品に見えた。


 その紙を破かないように、慎重に剥いていく。



「……おお!」



 思わず声を上げてしまう程、微細な装飾の施された懐中時計。


 銀色で、彫りが深い。指でなぞると感触が楽しい。



「貰っちゃてもいいんですか?」


「受け取って貰えないと困るな。裏に名前が彫ってある」



 言われて、くるりと裏返して確認してみる。



「…………え?」



 裏面は平たく、黒一色だ。


 アスガンティアの時計は、マナで駆動する。ネジ巻き式とかは無い。


 部屋の調度品とかに付いてる時計は、マナ石より小さい『クズ石』に入れたマナで動いているが、個人で携帯するものは、紋章をこの黒い部分に刻んで、固有登録みたいな事をして、自身のマナで動かすらしい。


 この黒一色は当然の仕様で、不思議ではない。問題は、その下側の名前。



『フローゼル・アーリス』



(……誰?)



 とても可愛らしい『女の子』の名前が金字で彫ってあった。



「……昨日、レーゼルの領葬が行われた」


「……え?」


「レーゼルは男児なので、太葬は12時となる。領民への公布も既に完了していた為、日程の変更は業務の妨げにしかならない。……君の目覚めを待つ事は出来なかったんだ」


「………………」



 そんな重要なところで、俺は寝過ごしたらしい。



《……私がやったわ》


(……ナスタ?)


《あんたは、たぶん参加したかったんでしょうけど、レーゼルの領葬に『その身体』のあんたが加われる訳がないでしょ?》


(………………そうだな)



 レーゼルの葬儀に、『レーゼル』が参加する訳にはいかないだろう。例えそれが、上辺のものであっても、だ。



《……ごめんなさい》


(……? どうした?)


《「どうした」って……私が勝手にやったのよ? 怒らないの?》


(……ナスタがやったのは、意地悪じゃなくて、気遣いだろ? 怒るような筋合いが無いぞ?)


《――ッ! あんたって、本っっ当に誑し! 信じらんない!!》


(なにゆえ⁉︎)



 なんか、いきなり顔を真っ赤にしてプリプリ怒り出した。



《あんたが気にしてないならいいわ! いいわね⁉︎》


(なんだよ⁉︎ 構わんから、落ち着け)


《もう! もう!!》



……ナスタが壊れた。



「……アーリス? ナスタ嬢と何か?」


「気にしないで下さい。俺にもよくわかんないので」



 放っておこう……暫くすれば、元に戻るだろう。



「……ならばいいが、続けるぞ? 領葬は終了した、君の幼名も改めなければならない」


「……はい」



 ちょっと寂しいが、確かに、レーゼルの幼名を使い続ける訳にはいかないだろう。



「その幼名は、『現フロード領妃』に願い出て、考えて頂いた名だ」


(……おぉう……)



 内心で呻く。


 幼名は母親の担当だからと、ナーシャルにわざわざ考えてもらったらしい。不満など訴えられよう筈も無い。



「私から見ても、素晴らしい幼名だと思うが、どうだ?」



 ランフェスがいい顔でのたまう。



「……はい、いい名前だと思います」



 見れば判る。


 これは『()()()ドとレ()()()』を合わせた幼名だ。


 単体で見れば、俺も気に入ったと思う。


……問題は、これにアーリスの成名を加えると、どこからどう見ても『女姓名』にしかならない事だ。



「そうか! 気に入ってもらえて良かった。まさか、『領妃より直接賜った幼名』を、『無下にする様な者』は居ないと思うが……それでも少し不安があったのでね。私の杞憂に過ぎなかったようだ」


「ははは……」



 こやつめ。


 要所でわざとらしく、アクセントを変えて言い放つランフェス。


 懐中時計の裏面に彫り込んで、トドメとばかりに退路を絶っておきながら、良くも吐かしおるわ。



「さあ、冷めてしまう前に、ソシエの料理を堪能しようか」


「……いただきます」






 こんな感じで、俺は男でありながら、異世界で女性名を使う羽目になってしまった。

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