『新居設計』
ナウゼルグバーグとの戦いの後、あまりの疲労から何もかもが面倒臭くなり、ナスタに全てを丸投げした後、予想以上に爆睡してしまったらしい俺。
目が醒めると、丸2日ほど経過していた。
「何を言っているのか、わからねーと思うが、俺にもさっぱりだ」
「……アーリス?」
「にゃんでも無いです。作業を続行します」
「よろしい」
先程、見知らぬ場所で「いい加減に起きろ!」と、ナスタに叩き起こされた後、マイホームの図面確認&作成の仕事を振られた。
急ぎらしい。
碌な事情説明も無い。
……酷く無い?
「ナスタさん、バリアフリ〜「却下よ戯け」」
バリアフリーとは何ぞや? と問われ、これこれと説明している間に、却下の裁定を賜わった。
防衛上、「有り得ない!」だそうだ。
(そんなんだから、居住性が後回しになるんだよ!)
ぶちぶちと内心だけで毒突く。
「……そーいや、ナスタ? こっちの人間って、『飛べる』の?」
「……は?」
「ジャンプとか、空中遊泳、単独飛行みたいなの。2階の高さまで飛べる奴いる?」
「……人間が有翼族みたいにって事? 出来る訳ないでしょ? 有翼族以外の異種族も当然無理よ? 馬鹿じゃないの?」
……連打で否定された。
「ですよね〜」
まあ、わかってたけど。
アスガンティアの住居は、大きさは違えど、前の世界の考え方と差異が無い。
家、巣穴などの、生物の住処。これらに共通する点として、『安心』出来るか否かが問われる。
……例外のある生き物も居るし、用途を重視する場合もあるけど、基本的に安心出来なければ、住居・住処としては欠陥になるだろう。
2階やら3階やらの高さを、平気でポンポン飛び回れるような種族が居たら、前の世界と同様の建築様式で、安心なんぞ出来る訳がない。
もし、人族の飛翔を当然とする様な世界があれば、その建造物の様相は変化していて然るべきだ。
アスガンティアにはエルゼンが居るけど、どこぞの山の上に集落を構えていて、下界には降りてこないらしい。
(……制空権を主張する様な種族が、近くに居ないのは良いけど、異世界なのに自由に空を飛べないとか……夢と浪漫が足りない気がします)
ふつふつとした不満があるが、飛翔の類いを警戒する必要が無いのは本当に助かる。
(マイホームなら、やりたい事は有るんだよね〜)
私には、夢がある。
『2階に屋外浴場が欲しい!!』。
前の世界で実現しようと思えば、多額の費用を必要としただろうが、そこはそれ、素力変換様である。
費用は充分にござる。
なれば作るしかあるまい。
ナスタに色々聞きながら、構想をまとめていく。
(……中央の浴場の上でいいかな?)
アスガンティアの水は、紋章術で浄化が可能だ。つまり、入れ替える必要が無い。当然排水も不要。上下に循環させる方法を考えればいいだけだ。何て楽ちん。
まず、2階の浴場のど真ん中に、円柱をブッ立てる。
円柱の天辺をくり抜いて浴槽にする。
螺旋階段で柱沿いに上がれる様にして、手摺りも付けとく。
円柱の下部に隙間。真ん中に、お湯を吸い上げる為の管を通す。
下の浴場から、管を使って上にお湯を送り、噴水の様に覆う形で噴き出させる。
こうすれば、上がる時に周りから見られる心配もない。
円柱の浴槽にがっつり浸かった所で、お湯の供給を止めれば、景色が望めると言った寸法だ。
アスガンティアの住居の高さは2階まで。それ以上のものは、領主館、見張り塔、各種防壁と、時計塔くらいしかない。
高所の覗きは、気にしなくてもいいかも知れないけど……、
(家の嫁達の裸見ていいのは、俺だけだから!)
絶対に油断はしない。断固阻止だ。
「ナスタ〜、紋章術でこの管からお湯を上に送れる?」
「……出来るけど、相変わらず面白い発想するわね、あんた」
「どの辺が?」
「外で入浴とか、聞いたこともないわ」
「……マジで? 温泉とか無いの?」
「……おんせん?」
「地面掘ると、お湯が出てくる様な場所無い?」
「……あんたの居た世界って、どれだけ『奇抜』なの? 地面にお湯が埋まってる訳ないでしょ?」
「………………」
(温泉って、何だっけ? 火山?……じゃないな、多分。お湯で済まなそうだし……地熱で温まった水脈が噴き出たものかな?)
どうなんだろう? でも、水脈はある筈だ。無いと雨水とかの逃げ場がない。
アスガンティアは精霊で水が作れるので、井戸のような物はなく、貯水も不要。水の為に地面を掘る必要が無い。
(にしても、土の精霊が居るんだから……て、そうか、話せないのか)
精霊さんは情報源に出来ない。
地面を隆起させるとか、穴を開けると言った精霊術があった筈だが、水脈に届かなければ意味が無い。
(……アスガンティアの地面の下、未開拓か?)
『石油王』の単語が散らつくが、見つけても使い方が分からん。
(石油って、プラスチックとかビニールの原料だったよな? 欲しいけど……)
石油を活用する術を、何一つ知らない俺。
(見た目あんな怪しげなもの、迂闊に掘り当てても、良からぬ噂になりそうだし……)
諦めるしかなかった。残念。
「……つっても、儲ける手段は必要だよな」
「何の話?」
「俺のマナ。ナウゼルグバーグ産だって誤魔化すのも限界あるだろ?」
「まあね……なんかある?」
「ん〜……」
異世界もので、『稼ぐ』手段のバリエーションは豊富だ。
散々読んだ。
……でも、覚えてない。
浪費オンリーで、生産に貢献しないマイ・ライフ。
やる気もなければ、興味もない。
イッツ・エコロジー。
……超使えねぇ。
「……無いな〜」
「……そう? 振れば出てきそうな感じがするけど」
「やめれ」
細胞が死ぬ。
そんな漫談をナスタと交わしていると、
「……ん? ……帰ってきたわね」
ナスタが何かに気付いたように、ドアの方を見遣った。
「……シャリアか?」
「ええ」
起きた時から姿が無かった。聞けば、買い出しに行っただけだそうだ。
「………………全然来ないぞ?」
待てども帰ってくる気配が無い。
「……今階段に着いた所」
「そんなのどうやって「風の動きでわかるわ」」
「………………」
洒落にならない。何だそのセンサー。
「……どんくらいの距離いけるの、それ」
「距離と言うより、範囲ね。この建物の周りにある通りの向こう迄なら余裕よ」
「どうやってんの?」
「風を流して、その乱れで判断してるわ」
そうやって話している所で、
「ナスタ、帰りま……アーリス様!!」
シャリアが帰ってきた。俺を見るなり、涙目になりながら詰め寄ってくる。
「シャリア⁉︎ どうした「何でお逃げにならなかったんですか!!」」
「え⁉︎ 何が「ナウゼルグバーグです!!」」
「いや、あの時は「すごく心配したんですよ!!」」
「いや! だから「体当たりされた時とか、あんなに痛そうで……」」
「あの、シャリア「死んじゃったらどうしようかと……」」
「……はい「無理はなさらないで下さい、ってお願いしたのに!!」
「はい、ごめんなさ「何で何度も立ち向かったんですか! 逃げて下さいよ!! うぅ……」」
「…………」
終わりそうになかった。
(あの、ナスタさん?)
《諦めろ、あんたが悪い。ランフェスの分も預かってるんだけど……》
(うげ⁉︎)
《……シャリアに全部任せた方が、効果ありそうね。こっちに逃げてないで、たっぷり説教されなさい?》
……四面楚歌。
「聞いてますか⁉︎ アーリス様!!」
「はい! すみませんでした!!」
その後、20分近く、延々とシャリアのお説教を受ける羽目になった。
軽く検索したら、
火山性温泉
非火山性温泉(深層地下水型)
非火山性温泉(化石海水型)
の、3つが出てきました。
アーリスは否定してますが、名前を見ればわかるように、火山も一応正解みたいです。




