ナスタ『事後処理 3』
シャリアがカップを片付けている間に、ランフェスに尋ねる。
「……この後、何人予定してるの?」
「私の考えでは、後2人だ」
「種族は?」
「…………黙秘する」
「はぁ⁉︎」
ランフェスが訳のわからない事を言い出した。
「この2人には、『出会って』もらいたいんだ。余計な先入観は与えたくない」
「…………いいわ、いつ頃?」
「すまないが、それも断言出来ない」
「遅らせて、アーリスの負担が大きいわ」
「……何か問題が?」
「欲求の処理が出来ないのよ」
ここで、思案気に表情を変えたランフェスが、シャリアに紅茶のお代わりを頼んだ。
時間を稼ぐ為だろう。
「…………馬車の中ではそんな素振りは無かったが……」
「あんたならアレで我慢出来る?」
「無理だな」
(この……!!)
「……そうか、身体は兎も角、アーリスは成人済みか」
「精神との乖離が出てるのよ、シャリアに頼んで精霊で誤魔化してるの」
「……マナの負担が大きいな。とは言え、私も子供の性欲を処理する方法など知らないのだが……」
「…………でしょうね」
詳しかったりしたら、逆に距離を置きたい。
「内容が内容だ。公に出来る話題でも無い。……もっとも手軽なのは薬物に頼る事だが、成長期の投薬は身体への影響が大きい、最初から除外すべきだろう」
「そうね」
「……残念だが、力になれないな。外的に刺激して、成長を促進するくらいしか思いつかない」
(……私と同じところに落ち着くか)
五精族に身体は無い。遥か昔に捨ててしまったから、肉体を介した欲求は、知識でしか持っていない。
ただ、それらが満たされない『苛立ち』のようなものはわかる。
ナスタは未だに諦めきれず、追い求めているからだ。
……何にせよ、初めての主人だ。得体の知れない物を抱えている不安はあるが、不満のようなものは不思議と無い。
(むしろ楽しいのよね〜)
困らせたくなる。揶揄いたくなる。
……その上で助けたくなるのだ。本当に不思議。
「……仮に、成人前にあの2人の間で「接収する」」
「アーリス新宅の維持は君達に一任する形になる。乳母や、世話をする為の要員をそちらに割く事は出来ない」
(……でしょうね)
フロードの貴族が足りない。再三ランフェスが口にしていた文句だ。
アーリスの護衛を外部に委託。
護り手もバドムから呼び寄せた。
子供の騎士団の発足を領主が容認。
その維持費も大部分がアーリス頼り。
……アーリスの視点から見るだけでも、異常と言えるほどに余裕が無い。
子育ての人員手配など、期待出来る状況では無いだろう。
「……いいわ、妙な相談をしてごめんなさいね」
「この状況は、ある意味私が作り出したものだ。……そうだな、医師と『艶本』の手配なら請け負うが?」
「――えん⁉︎」
こいつなりのユーモアだろうか? とんでもない単語が出てきた。
「…………お願いしていい?」
「…………確認させて貰うぞ? 手配するのは『医師』の方か?」
「本の方よ。艶本は要らないから、いろんな種類を雑多に取り揃えて頂戴」
「……ふむ、まあいい。それぐらいなら請け負おう」
……思う事がある。
アーリスはおかしい。記憶力が異常だ。
『本がまるまる一冊、おそらくは一字一句違えずに脳に収まっている』。
(仮に、レーゼルが愛読していたとしても、限度があるし……)
無造作に散らされた語群の数や、大陸図が細部に至るまで克明に記憶されている点が、レーゼルの知識では辻褄が合わない。
(レーゼルは騎士を目指していた子供。勉強熱心とは思えないし、何より偏りが無い。あの本棚の、数少ない騎士以外のものを、手当たり次第って感じなのよ……でも、アーリスで考えると、時間が足りない)
アーリスがアスガンティアに転生してから、まだ1日しか経っていない。正午辺りからは自分が四六時中ついていたし、本を読んでいる時間など無かった。
(……試してみたいのよね〜、この記憶力が『どこまで』あるのか)
「お待たせ致しました。随分とお話しが弾んでいますね?」
シャリアが帰ってきた。紅茶をランフェスに渡しながら、内容を探ってくる。
「ああ、たった今、ナスタ嬢から艶本の発注を受けてね」
「――いっ⁉︎「ええっ⁉︎」」
何言い出すのよ!
「確認なのだが、成人規定内の物と規定外の物、どちらが良いだろうか?」
「真顔で聞くな!!」
何考えてんのよこいつ⁉︎ 話題の追求を避けるにしても、他に手段があるでしょ!
「……御覧になるのはアーリス様でしょうか? 言って下されば私のを…………///」
「「………………」」
赤くなった顔の下半分をトレーで隠しながら、小声で大胆な発言をするシャリア。
事態が如何に深刻であるか、ランフェスにも伺い知れたのだろう。頰を垂れる汗が一つ。
……そう、目下の問題はリリアよりもシャリアだ。
この娘が本当に男殺しで、所作と発言に『誘い』がありすぎる……まだ12歳なのに、だ。
一体どんな教育――って⁉︎
「…………『何か』あったの?」
シャリアの前で滅多な事は言えない。暗に伏して小声で聞く。
「…………私では断り難い相手で、妻が指導したが……」
「……そう」
断り難い相手からシャリアを、おそらくは『性具』として身請けする話があり、ランフェスが妻に所作の一部だけを指導させた……と、
(長耳族の婚姻はどの家も慎重になる。容易に嫁ぎ先は見つからないだろうけど……)
もし、最初から断る算段を立てていたとしたら、あの構想がさらりと出てきた事にも、ある程度納得がいく。
領主一族から離れて、一から家を起こすのであれば、乗っ取りなどを考慮する必要は無い。
仮にアーリスが『どんな人格であろうとも』、監視下に置ける自領の中なら助けられる。
(……何かあるわね、この娘)
ランフェスがここまで手を尽くす娘。
他では見ない黒髪の長耳族。
当人の努力だけでは無い。教育にも相応の資産を投じているだろう。
(……探りを入れるのも、恐らくは危険ね。引きましょう)
適当に発注して、話を変えた方がいい。
「規定内でお願いするわ」
「ナスタ⁉︎」
「誤解よ、欲しいのは私なの」
「ええ⁉︎」
「ふむ、好みはあるかな?」
「んな⁉︎」
(乗ってんじゃ無いわよ⁉︎)
とっとと切り上げたいのに、この馬鹿が突っ込んできた。
「……流通の多いやつでいいわ」
「わかった」
(全然わかってないわよ……)
振り返れば自業自得のようなものだが、どっと疲れた。
「……それで、届け先なのだが」
(まだ続けるの⁉︎)
「君たちの次の住居の話をしよう」
タイムテーブル確認したら、30時間でした。
……1日に50話とか、無計画すぎる(^_^;)




