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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第一章 ~『転生』~
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ナスタ『事後処理 2』

「ナスタ、出て来て下さい」



 シャリアの控えめな声が、アーリスの耳に届いた。


 主人を起こさないように、と精霊の耳栓まで用いて配慮している。



(すごい入れ込みようね……ちょっとまずいかしら?)



 情愛は好ましいが、2人とも若すぎる。何か手立てが必要かも知れない。


 そんな事を思いながら、アーリスの外に出た。




――見張り塔の医療室。




……もっと粗野な印象があったが、思いのほか清潔感がある。


 部屋の四角に据えられた4つの寝台。使っているのはその内の1つだが、室内にはソシエとランフェスの姿しかない。



「ナスタ、おはようございます」


「おはよう、ソシエ……と言っても、別に寝てないわよ?」


「ふふっ、気分の問題ですから」



 アーリスの無事が確認出来たせいか、少しはしゃぎ気味だ。



(実際、馬鹿みたいに回復早いわね、こいつ)



 呼吸でマナを回復する、なんて離れ業の所為で、寝台の上のアーリスはもう全快していた。



「……本当に回復が早いな。色々と処理に奔走してから来たとはいえ、まだ2時間程度なのだが……」


「ナウゼルグバーグから『奪ったマナ』で、私が治癒を早めたわ」



 すかさずアピール。



「ソシエが外傷を治してくれたから、大分楽な仕事だったわ……ありがとう、ソシエ」



 次いで矛先変更。



「いえ、ご無事で本当に良かったです」



 喜色で頰を染めて、アーリスの寝顔を見ながら嬉しそうに笑うシャリア。



(……まずいわね、本当に)



 シャリアは12歳。アーリスより早く成人を迎える上に、異種族は早熟だ。性欲の発現は早い。


 加えて、情愛は身体を求める。シャリアにとって、アーリスは最早無二の存在に等しいだろう。伴侶の相手でもある。……おそらく、その欲求は強い。


……でも、アーリスはまだそれに応えられない。中途半端な解消は、返って欲求を育てる。



(やっちゃったかしら? ……まあ、いいわ。後で考えましょう)



 当面の問題は、今後のアーリスの扱いだ。ランフェスの考えを確認して、場合によっては『脱領』も視野に入れる。



「今後のアーリスの動きを聞かせて貰える?」


「ああ、少し待ってくれ」



 やおら、ランフェスが床に手を当てて、結界を張った。



「……待たせたね、始めようか」



 室内の椅子に腰掛けて、ランフェスが予定を語る。



「まず、アーリスには、今暫く身を隠してもらう」


「……妥当ね、『()げ替える』んでしょ?」


「その通りだ。領民への広布が完了してから、騎士団としての活動を開始する」


「広布の内容は?」


「明日の正午、ナウゼルグバーグで『戦死』したレーゼルの領葬、太葬を実施する、と」


「……戦死、ね」


「領民の情報操作は、可能な限り徹底した。レーゼルを直接知る者は、西側に集中している。警戒配備を理由に流通も遮断したから、他の地区が知るのは信号弾の色だけだ」


「西側はどうするの?」


「取り込む」


「………………」


「直接面識のある子供達は騎士団の末端に組み込み、それを理由に保護者を黙らせる」


「……未成人が大きく稼ぐ機会を、領主が保証する、か……ここの領主は領民の信が厚い。反発されるような理由も無い……わね。子供達の動きも見やすいし」



 悪く言えば、保護者の口を報酬で縛り、子供を監視下に置くという事だ。



「……ナスタ嬢は話が早いな、好ましい」


「世辞はいいわ。それで? 事情を知るそれ以外の大人たちはどうするの?」


「真摯に説明して、御理解頂いたよ」


「………………」


「………………」


「え、マジ? もっと黒く無いの?」


「……ナスタ嬢は、私の事を誤解しているように思えるが……」



 ランフェスが不満気にぼやくが、



「いいから、説明なさいな」



 先を促す。こいつに『真摯』とか本気で似合わない。



「……調べて判った事だが、レーゼルの行動範囲はとても限られたものだった。商店街の一部店舗と西街門の近郊。それらに繋がる通りくらいだ。今のアーリスを見て、レーゼルを連想する者は、思いの外少なそうだったのでね、『領主勅命の依頼状』を持たせて使いを回らせた」


「………………」



 脅迫と変わらないじゃないの。



「……その依頼状の内容は、……いえ、やっぱりいいわ」



 きっと碌でもない内容だろう。



「聡明だね。以上から、レーゼルとアーリスの切り替えに懸念は不要だ。アーリスを受け入れる体制は整えた。仮に問題が発生しても小事なものだろう。領主の権限でどうにでもなる」



 誰よ……こいつに権力持たせたのは。



「次に移ろう。ナウゼルグバーグ討伐の功績として、アーリスにフロード領主の勅命で、自由騎士団の設立を認可する」


「……件の弓兵は見つかったの?」


「ああ、予想通りだったね。確認すればすぐだったよ。早速見つけ出し、交渉しておいた」


「……誰なの?」


「残念だが、口止めされている」


「……あんたがしたんじゃ無くて、されたの?」


「ああ、条件が他言無用だったのでね。名を明かすことは出来ない」


「……ふ〜〜ん」



――弓を得意とする子供。

――ランフェスの予想の範囲内に居る人物。

――2時間以内。すぐに確認がとれる場所に居て、

――ランフェス相手に交渉で条件を突きつけそうな子。



(……ユーシャね)



 周囲の素力を流して睡眠を長引かせる事は出来る。


……が、眠っていない者を眠らせる事は出来ない。


 ユーシャは本を被っていた。寝ているかどうかはわからない。それは、起きている可能性が否定出来ないのと同じだ。



「……ナスタ嬢「わからないから安心なさいな」」



 プッと、笑いながら「わからない者の台詞では無いな」とかランフェスがぼやく。



(何でこんなに楽しそうなのかしら?)



 子供のような無邪気さを感じる。



「ランフェス様、備え付けの物で宜しければ、どうぞ」



 いつの間にか、シャリアが紅茶を用意していた。



「ああ、いただこう…………美味いな、此処には大した銘柄は置いていなかったと思うが……」


「淹れた娘が優秀なのよ」


「……ふむ、なるほど。これは一本取られたな。思えばメルシアが侍従として鍛えた娘だ。……アーリスには勿体無かったかな?」


「――――ッ!!」



……シャリアが身体を強張らせた。



(わざと言ったわね、こいつ)



 紅茶を運んで来たトレーを、指が白くなる程に強く握り締めて、沈黙に堪えるシャリア。


 その沈黙を澄まし顔で流して、紅茶を愉しむランフェス。実に小憎たらしい。



(……堪えて来たのね、いままで)



 彼女が望み、得たものは少ないのだろう。自身の欲の発露は、周囲への依存の度合いで上下する。


 ランフェスは『測っている』。


 いま、シャリアがどの位置にアーリスを置いているかを。



「……ダメよ、ソシエはアーリスに必要な娘なの。幾らマナを積まれても譲らないわ」


「――ナスタ⁉︎」



――『好都合』。



 この娘の信頼は欲しい。餌に食い付いた感はあるけど、使わせて貰うわ。



「私はフロード領とは関係無いもの。主人が最優先」


「……いい答えだな、それでいい。……ふむ、ナスタ嬢に任せた方が良さそうだな、ソシエ?」


「は、はい⁉︎」


「君の主人はアーリスだ。以降、我等領主一族に尽くす必要は無い。主人の品格を落とさぬように、客人を持て成す程度の意識に収める事だ」


「……はい」


「気落ちする必要は無い。これは、私の意地の悪さとお節介だ。君の淹れた紅茶を咎めるものではないよ。……ご馳走さま」



 ランフェスが飲み干したカップをソシエに返す。



「はい、私の主人はアーリス様の他にありません。生涯を賭してお仕えします。……ナスタ、ありがとうございます。あの、嬉しかったです///」


「……いいのよ、ただの事実なんだから」


(まずい。信頼は得られたっぽいけど、シャリアの覚悟完了しちゃった?)



 アーリスだけでなく、シャリアの欲求の方も考えなくちゃ……。

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