十の権利・その後 『青』の創造神
19/07/22 段落 修正
20/01/05 ちょっと修正
――『レーゼル・フロード』――
名を与えた事で、彼はその名の身体を得た。
(どうにか事無きを得ましたね)
何とか、あの個体に対する唯一神の依頼を全て達成することが出来た。
1つ、極限まで追い込み『死』を自覚させる事。
1つ、目的を与えずに転生する事。
1つ、特性に『身代わり』を付与する事。
(……退屈しのぎに戯れる事はありますが、限度があるでしょう)
自我崩壊の危険を冒してまで『死』を自覚させる必要など無い。自世界と異世界の差異で混乱し、自壊する恐れのある個体には必要な措置だが、あの惑星の住人には不要だ。そのまま転生すれば、勝手に環境に適応する。
目的は明示しなければ、此方の意図しない行動をとる可能性が生じる。目的と報酬があれば人は動く。比較的容易に操れる。何も指針を示さないなど論外だ。
特性の『身代わり』も戯言にすぎる。あんなもの、何の役にも立たない。他者の代償を引き受けるなど何の益になるというのか。
(……少なくとも、彼の魂の得となる事は無いでしょうね)
唯一神の指示をそのまま遂行すれば、あの魂は何も為さないまま失われただろう。
(唯一神がそれを望まれるとは思いません……)
あの惑星の住人は貴重だ。科学技術に特化していながら、非科学的事象にも造詣を有する……相対する事象を受け入れる土壌を獲得した例外種。異なる世界でも発揮される環境適応力など、安易に使い潰して良いものではない。
だから、依頼を踏襲した上であの魂を損なわず転生させるべく動いた。
死を自覚させた後に『救い』、目的を『何をしても良い』とすり替え、特性を1つ追加して『釣った』。
(救わねば、そのまま失われてしまう……役に立たない特性では、転生者が働きません。調整個体として選定した意義が損なわれます)
この点に関しては、自身の判断に誤りは無いと断言できる。
(……しかし)
『目的を与えるな』との指示だけは先が読めない。
転生個体として選ばれた以上、何らかの役割を被る筈。
(己の為す役割も目的も告げられず、与えられた特性の片方は『身代わり』)
彼は至るだろう。それに気付かないほど無能では無い。
(せめて、その対象が彼にとって価値を見出せるものであれば良いのですが……)
そして、その対象が彼の魂の終わりに訪れるものであればいいと思う。
(……………?)
ふと、『赤』から揺らぐ様な気配を感じた。
ーーーー不満。
無貌の像から表情を伺う事は出来ないが、それに類する気配を感じる。
《……何かあったのですか?》
《……いえ、何も》
(……珍しいですね)
人間が好きな彼女は、人間で『遊ぶ』。
権利の行使とは、突き詰めればその人間の『欲』そのものに等しい。
今回は10もの権利が与えられた。彼女であれば、その人間の全てを暴き、弄ぶだろうと思っていたのだが……。
(直前で虚偽を封じられたのが要因でしょうか?)
あれは創造神側にとっては枷にしかならない。
人間に伝達すべきで無い事象や知識が存在する。それらが流れないように、虚偽を混ぜて回避するのが常だが、それを封じられた。
(……弄ぶ間も無く、やり込められたのでしょう)
人間は小狡い程強かに、そして貪欲に知識を欲する。限られた時間と条件は、時としてそれに拍車をかけ、こちらを上回ることすらありうる。
(その点で言えば、彼は従順でしたね)
一問一答を避けたのは追求を逃れる為だ。複数の問いの中で1つでも回答すれば、当面の理解を得ることができる。
先に身近な物を連想させ、それに当て嵌めて説明すれば、勝手に自身で補正し、納得する。
どちらも嘘は吐いていない。語らなかっただけだ。
追求されれば、虚偽を封じられたこちらに逃げ場は無かった。
……で、あれば?
(『赤』が担当した者の中に、権利を用いて真理を追求し、神域に近づいた者がいる?)
確認すべきだろうか。内容次第では世界に与える影響が大き過ぎる。
《無用の懸念ですよ》
こちらが行動する前に『赤』に遮られた。
《少々乱暴ではありますが、手は打ちました。あの魂は成人前後で輪廻に還るでしょう》
《……それ程ですか?》
他の担当の内容に触れるのは禁忌だ。詳しく聞く事は出来ないが、今の返答でおおよその検討は付けられる。
つまり、成人するまでに排除する事が望ましい程の影響力を持った個体が、あの世界に転生したのだ。
《心配は要りませんよ。さあ、楽しみましょう?》
《……本当に趣味が悪いわ、あなた》
転生者の行く末など楽しむものではない……が、再開の約束をした彼の人生には関心があった。
『赤』の言う通り、自身の享楽を否定出来ないまま、『青』は下界を覗んだ。