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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第一章 ~『転生』~
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ユーシャ『勇者』

 アスガンティアの葬制(そうせい)は簡単なものだ。


 遺体の前で追悼して、それを埋葬して、終わり。


 レーゼルのような領主家に連なるものだと、後日に領民に告知され、領葬として『太葬(たいそう)』が行われるが、あってもそこまでだ。


 各々で思い出したら黙祷を捧げるくらいで、その後に何かする事はない。



 生者が死者に出来る事はない。


 それは、死者が生者に何も出来ないのと同じくらい当たり前で、子供のユーシャでもわかる事だった。




――なのに、何度も思い出す。




 あの分かれ道で、レーゼルと別れた。


 その後、リリアと合流して斧と盾を預かり、崖の上からレーゼルを見ていた。


 戦うアイツを見ていた。


 それがオレの役目だった。



『何もせずにただ見ているのが、オレの役目だった』。



 首を抑えて、苦しみだしたアイツを、ジッと見ていた。


 印を確認して、盾を落とす。


 すぐに翻した。


 残っていたくなかった。


 アイツが、『1人で』やり遂げるのを見たくなかった。


 信じていたから。


 疑っていなかったから。


 一切。


 微塵も。


 これっぽっちも。




……だから、あの結果には後悔しかなかった。




 2人とも約束を破った。



――アイツは帰って「来る」って言ったのに、帰ってこなくて、


――支えてやるって言ったオレは「逃げた」んだ。




 戦士の死を侮辱するような事はしない。


 アイツは全力で挑んだ筈だから。


 戦って、散った。その結果は受け止める。


 貴族は死ぬのが仕事、何て言われるくらいだ。


 前線の騎士を望んでいたレーゼルは、遅かれ早かれザックス兄と同じような結末になるような予感があった。


 それも含めて、支えるつもりだったのに……、



『オレは逃げた』。



 レーゼルの指示とか、そんなのは関係無い。



 オレの後悔はそこにしか無いから。


 オレの間違いはそこにあるから。



……だから、何度も思い出す。


……だから、



――次は、間違わない。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 子供が何かに憧れを抱くのは当然で、その名前や称号を自分も冠したいと願うのも、不自然では無いだろう。



 ラック・ユーシャがそうだった。



 幼い頃から冒険譚が好きで、同じ様に騎士譚に憧れるレーゼルと知り合ってからは、競う様に負けじと本を読み漁った。



……それだけだ。


 それだけで終わる話だった。




――ある男がアスガンティアに転生しなければ。




『大多数に対し、共通の認識を与える名称を持った事象は、実在の条件を満たす』




 ユーシャは、アスガンティアで『勇者』と認められた訳では無い。


 当然だろう。


 目を見張る、将来を感じさせるような実力を有していたとしても、まだ幼い子供だ。


 功績も無く、人脈も薄く、世界を知らない。


……だが、ある男が認識した。



――『ユーシャ』の名は『勇者』から倣ったものだと。



 アスガンティアの想念では無い。


 その男が居た世界。


 ある世界の認識が、勇者(ユーシャ)に条件を課す。




『常人には有り得ぬ気付きで難事を逃れ』


――シャリアの淹れた紅茶の睡眠薬に気付き、




『幸運を味方につけ苦境を越える』


――誰にも悟られずに領主館から脱出。守兵の交代時間の間隙を縫って外壁をも突破した。




『偶然に導かれて戦う力を手にし』


――見知らぬ民家に『何故』か置いてあった弓を入手して、




『仲間の為に尽くす者だと』


――西の街壁へ辿り着く。





勇者(ユーシャ)とは、それが出来る者の事だと』






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 ユーシャの目の前で、『赤』の街壁結界が張られた。



「――何で⁉︎ くっそ! あとちょっとなのに!」



 これ以上の接近は難しい。


 見つかれば摘み出されるだろう。


 仮に接近出来ても、街の外に出る手段が無い。



(……何か無いか?)





 どれだけ幸運に恵まれようとも、限界はある。


 1人で出来ることなど高が知れている。





――だから、





「ユーシャ、こっちだ!」





――勇者(ユーシャ)には助力がある。





「ソギルのおっさん! 何で⁉︎」


「いいから急げ! こっちに抜け道がある」


「マジかよ⁉︎」



 ソギルの後を追い、西街壁沿いに北へ移動する。



「作戦は失敗した。ナウゼルグバーグの靄が想定外の規模で展開された」


「……それで結界かよ……アーリスは?」


「戻れていない。ギルドの連中も外だ」



 ナウゼルグバーグの靄から領民は守られたが、アーリスとその護衛は、街壁の外に取り残されてしまった。



「……抜けられるんだよな?」


「ああ、大人は無理だが、子供のオマエなら行ける」


「なんだよ、それ?」


「街壁の一部に穴が()いてんだよ」


「――なっ⁉︎ 塞がなきゃダメじゃないか!」


「ガキの頃にレドルが()けさせたんだよ……」


「……レドル?」



 ユーシャが、知らない名前に首を傾げる。



「俺の昔の狩人仲間だ。今はギルドの外部で食いつないでるらしいな。色んな領をほっつき歩いて回ってる変わり者だよ」


「……フロード出身なのか? その人」



 ユーシャの問いに頷いて、ソギルは続けた。



「悪戯好きと言うか、破天荒と言うか……欲求に忠実な奴でな。夜間の狩りがしたいとか言って、無理矢理ジーグのやつを脅して空けさせたんだ」


「……ジーグさん、とばっちりじゃんか」


「昔っから頭が上がんなかったからなぁ……、いまだにレドルの顔を見ると青ざめやがる」


「……そんな昔の穴を、何でまだ塞いで無いんだよ?」


「指示したのはレドルだが、()けたのはジーグだからな。報告して怒られるのが嫌らしい」


「……この街の治安は大丈夫なのか……?」


「安心しろ。門兵の1人は優秀だからな! 滅多なことにはならねぇ」


「その自称優秀な方が門にいないみたいだけど……」


「ぬかせよ……予感がした」


「え?」


「いやな予感だ。だから準備して置いた」


「……おっさんの感は当たるからなぁ」



 ソギルが足を止める。


 なにかの倉庫の裏手、木箱をいくつか脇に退けて道を開く。



「ここだ」



 ユーシャが覗き込むと、確かに子供が通れそうな穴が外まで続いていた。



「……何でこの先は結界が無いんだ?」


「何で街壁にまで結界を張るんだよ? 壁があるだろうが。マナの無駄だ」


「……穴空いてるじゃん」


「言うなよタコ助。文句があるならレドルに言え。それに、いつもはしっかり塞いである」



 ソギルがユーシャから背を向けて、木箱の中を漁り始めた。



「何してんの?」


「オマエの装備だ。弓は持ってんな……矢筒と矢と、後は……これだ」


「……ローブか? すげぇボロっちいけど……」


「俺がガキの頃にサギゥの皮で作った物だ。……ユーシャ、サギゥの皮の特徴は?」


「いきなりかよ……マナの流れを遮断する。だからマナ石の入れ物とかで需要が高い」


「正解だ。これを被れば、ナウゼルグバーグの靄が多少マシになるかも知れねぇ」


「本当か⁉︎ すげぇじゃ「もう1つ理由がある」」



 ソギルが、ユーシャに装備を渡しつつ告げる。



「オマエは誰にも姿を見せるな」


「……何でだよ?」


「ランフェスはレーゼ……いや、アーリスにナウゼルグバーグを『喰わせる』つもりだ。オマエが手柄を取るのはマズイ」


「……どういう意味だよ?」


「わかんなきゃ後で聞きに来い。……アーリスの立場が不安定になる」


「――ッ⁉︎ ……わかった。誰にもバレずにアイツを助けてくる」



 ソギルの言葉に了承を返して、ユーシャは手早く装備を整えていく。



「……なあ、ユーシャ」


「何だよ?」


「オマエは、あのアーリスとかいう奴と、どんな生き方するつもりだ?」



 街壁の穴の縁に手を当てて、ユーシャは答えた。



「……待ってても帰って来なかった。だからオレから行くんだ」


「………………」


「レーゼルとの約束は果たせなかった。だから、次は間違わないように、レーゼルが最後に助けたアイツを、今度こそオレが支えるんだ」



 ユーシャは親指を立てて、「一緒に騎士団もやるしな!」と言って笑うと、そのまま穴に飛び込んでいった。



「……タコ助が、ガキが良い顔でほざくんじゃねえよ」





 ソギルは懐から煙草を取り出して火を付けると、「楽しそうで何よりだ」と呟いて、木箱に腰を降ろした。

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