『得手』
ナスタに色々レクチャーしている間に、街壁に到着した。
最初にランフェスが、次いでシャリアが馬車から降りる。
「アーリス様」
先に降りたシャリアが手を差し出す。
「……ありがとう」
……まだ慣れない。当然のように行われる奉仕。優しい先導。……気恥ずかしい。
(……別に慣れなくてもいいかな?)
この奉仕を『当然』だと感じるようになるのは、何か違う気がする。
俺はいつまでも照れるくらいで丁度いいかも知れない。
「アーリス! こっちだ!」
ランフェスの呼ぶ方に向かう。
……多くの人が居た。
兵士の群れ。
肌を粟立たせるの空気。
前の世界も含めて、初めての経験だ。
ーー『戦場』。
その入り口に、俺は入った。
「アーリス、時間が無い。2人だけ紹介しよう。今回の作戦指揮を担当する『マークス』。フロードのギルド長だ」
(いきなり大物じゃねーか!)
人の年齢を当てるのは苦手だが、ランフェスと同じくらいの世代に見える。20〜24辺りじゃないだろうか?
その歳でギルドのトップに居る人物。間違い無く優秀だ。
「初めまして、アーリス様。フロードのギルド長を務めております、マークスです。今回の指揮を拝命しました」
「初めまして、アーリスです。……マークスさん、で良いのでしょうか?」
ギルド長の方が良いのかな?
適切な呼び方がわからん。
「……成る程、貴族慣れしていない御方だ。呼び捨てで構いません。マークスとお呼び下さい」
笑いながら指摘された。レーゼルは狩りばっかりで大人との付き合いが薄いから、こういう時に困る。……10歳じゃ仕方ないけど。
(……これから学んでいく)
何もかも『ここから』だ。
「隣に居るのが外部登録者の『レドル』。ナウゼルグバーグの討伐経験者だ」
「……オレは『初めまして』じゃないんだが、憶えてなさそうだな」
「……え⁉︎」
知らない、記憶に無いぞ⁉︎
「……レドル、控えてくれ」
「ハハハッ! すまんな。『リーズ・レドル』、外部弓兵だ。よろしくお願いしますよ、アーリス様」
「……アーリスです。よろしくお願いします」
……駄目だ、さっぱり出てこない。いつ会ったんだろう?
「気にしないでくれ、6年前だ。憶えてないだろう?」
レーゼル4歳じゃん! 記憶に無いよそんなの!
「……まったく、マークス。頼む」
「はい、参りましょう。アーリス様、こちらです」
先導するマークスについて行く。
「あの……いつお会いしたんでしょうか?」
レドルの隣を歩いて聞いてみる。
「当時ザックスの周りをちょろちょろしていたちっこい子供が、アーリス様だったんだが……どうだ?」
「あ〜、納得しました」
レーゼルの兄、ザックスはその頃よく兵士の調練等に参加していた。
度々連れて行かれましたね。ええ、記憶にございます。
騎士オタクの起源の1つである。
「でっかくなったな〜、やっぱり剣か?」
「……いえ、弓にも興味あります。何かコツってありますか?」
社交では無く、本気で剣より弓の方が好みだ。
後方から状況を見定めて狙い打つとか、格好いいし。
接近戦は……何か出来そうにない。判断力と反射神経に自信が持てぬ。
「線に重ねて放つ、だな」
「……はい?」
「構えた弓の矢から、標的までを一本の線で結ぶ」
「はい」
「その線を自分の後ろと、標的の先まで真っ直ぐに伸ばす」
「ああ……成る程」
だから、線に重ねて、か。
「弓から矢を放つのでは無く、後ろに引いた線の先から、標的の更に先を穿つんだ」
「精神論ですね」
「……気にいらんか?」
「いえ、すごくいい感じです」
含蓄のある話だったと思う。
「…………変わった子だな」
「……そのようですね」
先導していたマークスも聞いていたらしい。
「……変わってますか?」
「悪い意味ではありませんよ。精神論を説かれて、満足する子供は少ないです」
「弓の構え方、矢の放ち方、風の見方、狙う急所、直接的な技術を請う子供の方が、圧倒的に多いんだよ」
「あ〜、わかる気がします」
子供は総じて直情的な生き物だ。行動のすぐ後に結果を欲しがる。精神論とは相反する年齢で、その有用性を理解するのは難しいだろう。
「技術など直ぐに磨ける。乱暴に言っちまえば、弦を引っ張って離せば、それだけで矢は飛ぶんだよ」
「精神の熟成の方がより困難で、資質を問われる」
「構えも要らんくらいだ」
「射る、と言うのは技術じゃない」
「そんなもん学ぶより、線を引く方が余程重要だ」
「心構えです」
絶好調の2人。若干引く位語り始めた。
「あの! お二人共、得手は弓なんでしょうか?」
「当然だ! カッコいいからな!!
「当然です! 格好いいですから!!」
「わかります!」
「……頼むから急いでくれ」
ランフェスが隣で頭を抱えていた。




