『魔法』
到着間近の揺れる馬車の中で、装備を衣服の留め金に固定していく。
(……矢筒は邪魔だな)
走り回るのには重いし、ぐらつく。
「……外すのか?」
「はい。走るのに邪魔になりそうなので、3矢で行きます」
「お手伝いします」
「うん、ありがとう」
「まあ、君がその装備を使う事態にはならないだろう。今回の『外部登録者』に討伐経験のある者が居たからね」
(……ギルドの外部登録者、か……)
ギルドとは、世界各地に支部を設けた、自治権と自衛権を有し、組織行動を許された武装集団である。
依頼の難度に応じてポイントが貯まり、一定値を越えるとランクが昇格する。魔法などの特異技能があると、その力量や有用性を加味して査定に色が付き、最初から高ランクでの登録が可能となる事もある。
……異世界物やらゲームやらでは、こんな感じでサラッと描かれる事が多いが、実際にこんなもんの自治を許す国は存在しないだろう。
経歴と能力のみで作戦行動を許可。
現場に全てを一任し、報告だけで良否判断。
教養、思想、信仰、礼節すら度外視した昇級。
門戸は幅広く、年齢、性別、所属、出生、種族すら精査せず無造作に開かれ、必要なのはただ実力のみ。
……ぶっちゃけ、脳筋の暴力団と大差が無い。
遊んでいる分には、「お〜! いよいよプラチナランクか!」とか興奮して堪能していたが、現実にこんなギルドが自身の生活圏にあって、安心する民衆はまず居ないだろう。
柵の無い治外法権に武装済みの集団。怖すぎる。
更に世界各地とか……存在を容認した国家元首やら政治家は、後世まで『無能』『害悪』の称号付きで名を残すに違いない。
……語り継ぐ国が残っていれば、だが。
こんな組織に対して、国が取り得る対策は2つ。
『潰す』か、『取り込む』かの2択になるだろう。
制御出来ない武力は、その国、その地域の脅威にしかならないからだ。
統制出来れば良いが、こんな『群』としか言いようのない集団を統率出来る人材は、普通存在しない。
仮に居たとしても、個人ないし一部集団が保有して良い軍事力では無い。
国家としての脅威の可能性が拭えない以上、『共存・共栄』は有り得ず、潰すか取り込むかになる。
取り込んだのか、自身で発足したのかは判らないが、フロードにあるギルドは、国営ならぬ領営の『業務斡旋所』と言えるような場所だ。
派遣社員として登録するようなイメージだろうか?
依頼に対して適切な要員を、外部登録者から選出、そのギルドの所属要員からリーダーを決めて、業務を処理するらしい。
素晴らしい現実主義。
……実に浪漫が無い。
(……異世界なのに『ステータス・ウィンドウ』も『ギルド』もリアルとか!)
《……どうしたの、いきなり?》
(何でもない!!)
この憤りがわかるのは、この世界で俺だけなのだ。
アスガンティアのやる気の無さに、憤慨せざるを得ないだろう。
まるで異世界らしくない。
(……マナも使用制限かかっちゃったし、無双出来ないじゃん!)
まさか、異世界で経済的制約が課せられるとは……特性は魔法とかの方が良かったかも知れない。
…………魔法か。
(なぁナスタ、『風』って何が出来んの?)
《………………》
前に聞こうとして、聞きそびれた。
(……あれ? ナスタ?)
返事がない。どっか行った?
《……………………よ》
(お、居るじゃん。……何? 聞こえないんだが……)
《……風を起こせるだけよ》
(…………だけ?)
《ーーッ! ……そうよ! 笑えば⁉︎ 5属性で『1番使えない』って言われてるわ! 当然よね? 風だけじゃ『何も出来ない』もの!!》
(………………)
《だから誰も契約しないの!『使えない』から!『役に立たない』から!! だから(落ち着け)》
《何よっ!……残念だったわね〜、神に奏上したから絶っっ対に解約なんて!(落ち着けって!)》
《…………っ……なによ……》
(聞くけど、どんな感じで風起こすの?)
《……何がよ?》
(ん〜、押すのか、流すのか、かな?)
《……? 意味わかんないだけど……》
(……説明むずいな、風を作る手段なんだけど……団扇なのか、川なのかで伝わる?)
《……団扇って、扇ぐって事よね? 無駄じゃない。その例えなら、私が作るのは川の方よ》
(……その上限は?)
《上限?》
(風速)
《……そんなもの、『マナが続く限り幾らでも上げられる』んじゃないの?》
(………………)
ーーーー『化物』。
……考えてみれば、気付ける訳が無い。
人間にとって、マナは有限で貯蔵するものだ。
節約が念頭にある者に、『風』は使いこなせない。
異種族は最初から属性が決まっている。
エルゼンの種族特性は飛翔能力。風の属性で飛んでも不思議ではなく、不自然じゃない。
そして、そこでおそらく頭打ちだ。他に回すマナは残っていないだろう。
自分達よりマナを有した種族が、『その程度』で終わる属性だと帰結する。
だから、誰も可能性を追わない。探求しない。
翼の無い人間が、飛べる筈など無いのだから。
有翼族が居てしまうが故に、前の世界のような情熱は生まれない。
加えて、フロードには『風害』が無い。
ナスタの様子から、フロードだけに留まらず、アスガンティア全土の気候かも知れない。レーゼルの記憶にも豪雨はあるが、台風は無いのだ。
(……あ〜……どうすっかなぁ……)
知識の譲渡は容易い……が、ナスタは自分の意思を持っている。
俺と言うマナ供給源も存在する。
……その気になれば、
『ナスタは圧倒的な支配者になれる』。
俺の中で、こと戦闘に於いて最も有用性を見出せる属性は『風』だ。
簡単な話で、『風は見えない』。
それを操る手段を有した時点で、『絶対先制』の権利を獲得したも同然なのだ。
全ての攻撃行動が『不意打ち』になる。
見えないから躱せる訳が無い。
見えないから防げる訳が無い。
更に、ナスタが作るのは『風の流れ』だ。
マナが続く限り、永続した波状攻撃が可能になる。
火? 水? 土? 木? 鼻で笑える。
全て風で吹き飛ばせる物ばかりだ。
(……駄目だな)
打ち拉がれるナスタには悪いが、渡せない。
意思のある『天災』の誕生は見過ごせない。
せめて俺が、ナスタの手綱をしっかり握れるようになってからじゃないと駄目だ。
……とは言え、泣きそうな程に悔しがる相棒を、見過ごすつもりもない。
(……ナスタ)
《……何?》
(お兄さんが、風の対戦闘用の使い方を教えてあげよう)
《……はぁ?》
つーことで、つらつらと子供騙し的な使い方をリークしてやる。
《……エグい。良く思い付くわね、こんなの》
(そーか?)
《……ありがと、ちょっと溜飲下がったわ。確かにこれは『他の属性じゃ出来ない』もの》
俺の助言で、ちょっとは元気になったらしい。
良かった良かった。




