『街へ』
夜着を脱ぎながら寝台の横へ。
急いで狩りの装備を身につけていく。
その最中で、毛布を深く被ったリリア見て、ちょっとホッとした。
あの夜着を着たリリアを、ランフェスに見られるのは、なんとなく面白くない。
……え? あれ? 独占欲か? これ?
びっくりだ。
自分の感情の変化を擽ったく感じながら、ユーシャの方を確認。顔に本を被ったままだ。
(……まだ寝てる?)
《ええ、ぐっすりよ》
「2人は?」
「このままだ。危険は無いが、それでも戦場だからね。ソシエに睡眠薬を淹れるように指示していた」
「成る程」
俺も出来れば戦場に子供は連れて行きたくはない。
この2人は戦う力があるだけに、起きていれば同行したがるだろう。
このまま寝かせて置いた方がいい。
「了解です。そのソシエは?」
「君よりも先に起きていた。西の街壁までの道の確保を任せている」
着替えながら状況を確認していく。
「すまない。君の侍従だが、今は指示させてもらった」
「大丈夫ですよ。……武器は?」
俺の剣はもう無い。あの崖に落としたままだ。
「馬車に用意してある」
「わかりました。……行きましょう」
行動開始だ。
部屋の外、例の広い通路に出ると、肌寒い夜気に襲われた。
(寒っ)
《私はあんたの中に居るから平気よ〜》
(変わってくれ)
《無〜理〜》
にゃろうめ。
誰もいない通路を黙々と進む。
最早気にしない。巡回時間とか調整したんだろう。この時間なら起きている人数もたかが知れてる。ランフェスなら余裕だ。
「アーリス、こっちだ」
「……使えるんですか?」
「巡回時間を少し弄った。問題無い」
案の定だった。
領主館の内側、龍脈塔を支柱に各棟を繋ぐいくつかの連絡路がある。
東居住棟から西の街壁へ向かうのであれば、南居住棟を経由するよりも断然早い……が、吹き抜けだ。見られるリスクが跳ね上がる。
(考えない考えない)
《いい子ね〜》
領民に会わない方がいい。理由は考えない。今は従う。それでいい。この2人がそう言うのだ。情勢を把握しきっていない俺は、意見など出来ない。
「……蜘蛛の巣みたいだ」
領主館の内側に巡らされた連絡路を見て思う。
「アーリス、この道だ」
ランフェスが先導する。その後をついて行く。
ーー『龍脈塔』。
目の前に馬鹿でかい円柱の塔がある。
領主館は四方が壁に囲まれた監獄さながらで、景観のけの字も無い。
それを少しでも補おうとしたのか、内壁と龍脈塔の壁面には、草花が飾られたり、壁画や彫刻が施されたりしている。
……正直、かなり良い。時間があればじっくり眺めたい所だ。
(……平気だよな?)
《……中に入らない分には大丈夫よ》
ナスタの懸念。
『素力変換の特性を持った俺が、龍脈塔に入ったら、何が起こるかわからない』。
外周ぐるりは大丈夫そうだ。アウトだったら別ルートで、タイムロスがデカイ。
吊り橋に似た通路を、早足で進む。
龍脈塔を右に眺めながら、下へ。
程無く一階、西居住棟の前に到着する。別名『女性棟』だ。因みに北が『男性棟』。
西居住棟の一階は、女性使用人達の私室が並んでいる。2階は侍女達の私室。3階は領主一族の私室だ。俺の私室もこの棟の3階にある。
本来なら男性が入る事は出来ない棟。3列にずらりと並ぶ私室の間を真っ直ぐ横に抜けて、突き当たりの壁でランフェスが立ち止まった。
「……ここだな」
ジャラリと懐から何かを取り出し、壁に当てたように見えたが、後ろからではわからない。
ぼんやりとした光の後に、『壁が空いた』。
「……え⁉︎」
「非常用路だ。領主の許可無しでは使えない」
裏口的な何かはあるだろう、と黙ってついて来たが、壁が開くとは思わなかった。
開いた向こう側に、西内壁門。その手前に、寝る前とは意匠の違う侍女服を着たシャリアが居た。
「お待ちしておりました。アーリス様」
「ソシエ、通れるか?」
「はい。こちらです」
ランフェスの問いに淀みなく応じて、門の横の通用口へ向かう。
(ひ〜、遠い)
《出るだけで大変ね、ここ》
マジで住居としての利便性をまるで考えてない。エレベーターとかエスカレーターが欲しい。
(……似たようなのはあるんだよなぁ)
南東施設棟の1階食糧庫から、その上にある2階の厨房に材料を上げる時に使うやつだ。
(……次の家は絶対バリアフリーにしよう)
ナウゼルグバーグとの戦いが終われば、俺は領主館を出る。新しい邸宅も手配済みだろう、きっと。
(金は山程あるんだ。バレない程度に豪快に使ってやる!)
《使い過ぎは私が監視するから、お好きになさいな》
そんな事を話しながら、せっせと足を動かして外壁に向かう。
「……こちらです。外に馬車を隣接して置いてあります」
外壁の通用口。ここを抜けると街だ。
「アーリスは少し待ってくれ。向こうを見てくる」
ランフェスが先に行った。
「シャ……ソシエは良く眠れた?」
危ない、気をつけねば。
くすっ、と笑って「長耳族は睡眠が上手ですから」と口にした。
「そうなの?」
「はい。他の種族に比べて、睡眠時間の調整が可能です。3日以内なら後でまとめてとれます」
(……長寿だからか)
時間のサイクルが人間の3倍なのだろう。
1日が24時間ではなく、72時間だと考えるとしっくりくる……ような気がする。
「アーリス、今だ」
「はい」
ランフェスに並んで急いで通用口を抜ける。
……街に出た。




