『配慮』
一頻り騒いで疲れたのだろう。
静かになった。
そして、俺も疲れた。
「明日が早いから、俺はそろそろ寝るけど、2人はどうする?」
「う〜ん、俺はまだ寝れるな」
「あたしも〜」
ナスタに聞くと、ユーシャは2時間半くらい、リリアは5時間近くの睡眠だったらしい。
元気一杯のリリアは寝れるのか? と思ったが、ドワーフは睡眠が長い。活力と体力は別だ。まだ回復が足りないのかも知れない。
(いざとなれば、ナスタがマナ抜きすればいいよな?)
《……あんたにしか出来ないわよ》
(へ? そうなの?)
《契約しないと、生物の体内のマナは弄れない。私じゃ、あの2人の体内のマナは動かせないわ》
(ほ〜ん……)
確かに、外からマナが弄れるなら、五精族がいちいち契約する必要も無いか。
「……外出が制限されていますので、就寝前の入浴が許可されておりません」
……マジで徹底してんなぁ。そろそろ気分は囚人だ。
「その為、私の精霊で皆様を清めるように指示されています。必要なマナは既に支給されていますが、どうなされますか?」
……出来れば風呂に入りたかったけど、状況的に無理だよなぁ……妥協せざるを得まい。
アスガンティアの全域がなのか、フロード領の特色なのかは知らないが、ここの住人は風呂好きらしい。
前の世界と同様、全ての邸宅に大きさは違えど、浴室があるようだ。
領主館の施設棟には、棟のワンフロアを丸ごと使用した浴室ならぬ浴場があって、それが各階に1つずつ存在する。
1階から、男性、女性、領主一族用となる。領主一族は男女別に分かれていて、1・2階のに比べると間取りは半分だが、使用人数がそもそも違うので、狭いと感じる事はない。
寧ろデカイ。今俺が占領している貴賓室の倍以上はありそうだ。
そして、ここからは当然遠い。
湯冷めするので、就寝は3階に残ってる私室を使っていたくらいだ。
誰にも見つからず往復するのは不可能だろう。
(……あれ?)
ふと、湧いた疑問。なんで気付かなかった?
ランフェスは、見舞いの対応で貴族の業務を増やしたくないと言った。
……館内関係無いじゃん?
(館内の人間からも俺を隠す理由……?)
《………………》
……思い浮かばないな。情報足んないのか?
(『印』見られるとマズイ理由が他にも《あんたは考えなくて良いわ、それ》)
(? ナスタわかんの? 暴動はもう関係無《だから、考えんな!》)
(……ナスタ?)
かなり強く留められた。びっくり。
《あんたは届く。考えれば辿り着く。私もランフェス側よ。あんたは今領民に会うべきじゃ無い。それだけ、今は私達に従いなさい。あんたが危険なの。いい? 考えないで》
(…………わかった。洗浄が終わったら、意識飛ばしてくれ。時間あると考えそうだから)
《めんどくさい奴ね〜、いいわ。引き受けましょう》
ランフェスとナスタの懸念事項らしい。
……面倒そうなので放って置こう。考えない考えない。一休み一休みっと。
「シャリア、俺はもう寝るから洗浄頼む」
「畏まりました。では、そちらにお願いします」
椅子から降りて、シャリアの示す場所に移動する。
狩りから帰って来た時に、他の侍女にされた事があるから、不安は無い。
「《洗浄》」
両手を突き出し、いかにもなそれっぽいポーズで唱えるシャリア。
紋章の光と共に、水の円盤が俺の足元に現れる。
(……すげえ、本当に優秀だな、シャリア)
水の円盤がそのまま上がって、身体の汚れを落として行くのだが、速さが段違いだ。他の侍女だと、もっと時間が掛かる。
渦巻いた水が首まで来たので、目と口を閉じる。
「あの、アーリス様? 開いたままで大丈夫ですよ?」
「うん、知ってる。気にしないで」
実害は無いが、気分の問題だ。
「……終わりました」
「ありがとう。それじゃあ、夜着に着替えてくる」
シャリアから夜着を受け取って、衝立の裏で着替えと不浄を済ませる。
着替えて衝立から出ると、夜着を持ったリリアとシャリアが順番待ちしていた。
「……薄くない?」
夏でもないのに薄手の夜着だ。
「いえ! 違います!……その、ランフェス様から支給された夜着が…………これなんです///」
慌てて自分の選定では無い、と赤くなって否定するシャリア。
……あの男、アクセル吹かしすぎじゃないかな?
若干10歳前後の少女達に渡すには、不適切なチョイスだと思われる。随分と扇情的で、胸部を主張するデザインをしている様に見えた。
「……あたし、入るかなぁ?」
「「………………」」
懸念の声に、俺とシャリアが固まった。
目の前で、リリアがさらりと広げた夜着は、やはり予想通り、胸を持ち上げる様なライン取りで刺繍されていた。
そして、その刺繍部分から生地が垂れていて、端に紐が付いている。
……初めて見る形状の服だが、想像はつく。
袖を通した後、胸をその垂れた生地で『持ち上げて』から、端の紐を首に掛けて結ぶのだろう。殺意が高すぎる。
(……何考えてんだ、ランフェス。子供に渡す夜着じゃないだろ……)
《貴族の間じゃ、結構フォーマルなデザインよ? それ》
(マジで⁉︎)
思い返せば、女性の夜着を見る機会などそうそう無い……というか全く無い。流行など知る由も無いのだ。
《サイズの調整が簡単だし、見るからに楽そうでしょ?》
(楽そうなのは認めるが……)
実践を想定した性教育を少女に施す世界だ。夜着は勿論、肌着や下着なんかも、『落とす』為の創意工夫がされていて不思議じゃない。シャリアの下着もかなり攻めた物だったし、
……実際、破壊力相当高い。
首に掛かった紐を解いたら、はらりと……ってマズイ。メーターが危険値だ。
「んじゃ、俺はもう寝るから……」
即、撤収行動に移る。敗戦の確定した戦場に長居出来ません。
2人に道を譲って寝台にダイブ。
(ナスタ、頼む)
あんなもん見たら睡魔も撤退余裕だろう。
姿が見えないので、ナスタに代行を頼む。
《……いくわよ。『おやすみ』》
前回と同様の酩酊感。
すぐ側で、本を被って寝ているユーシャを尻目に見ながら、俺はそのまま就寝した。
「アーリス起きてくれ!」
ランフェスの焦りを含んだ声が、耳に届いた。
直ぐに飛び起きる。
「何時ですか⁉︎」
寝過ごしたのかと時間を確認する。
決行は4時の予定。それに合わせて、俺も準備に1時間の余裕を見て、3時に起きるつもりだった。
[02時41分]
「ナウゼルグバーグが来た。直ぐに支度を頼む」




