『名前』
寝台が騒がしくなった所為だろう。
「……ふわぁ〜。寝ちまったか、今何時だ?」
ユーシャも目を覚ました。
「おそよう、ユーシャ。21時過ぎだ。任務失敗だな」
「うげ、やっちまったか。ごめん」
「早く直して下さい! 殿方がいらっしゃいますから!」
「あたし平気だよ?」
「ダメです!」
「起きたばっかりで、身体が熱いから着たくない〜」
「あ、動かないで下さい! ずれちゃいます」
「きゃはは! くすぐったい〜!」
……心頭滅却。きゃいきゃいする2人を、視界に入れないように精神を保つ。
「……なあ、あの娘誰だ?」
……そういえば、この2人は今まで寝てたから知らないのか。
「……あの、目に毒なイベントが終わったら紹介するよ」
「わかった。それじゃあ、続き読むか〜」
ユーシャが、被ってた本のページをパラパラと捲り、再び読書を開始した。
……俺も何か読みたいな。シャリアに取ってきて貰うか?……いや、自分で探したいからいいか。
終わる迄ゆっくり紅茶でも飲んでよう。
「…………終わりました……」
「きゃはは! 負けちゃった!」
「……お疲れ様、シャリア」
本当にグッタリしている。
子供とは言え、リリアはドワーフだ。腕力は人間の成人に匹敵する。相手にするのは骨が折れるだろう。
「ユーシャ、リリア、紹介するよ。ついさっき俺の専属侍従になった、ソシエ・シャリアさん」
「……あの、アーリス様。『さん』は付けないで下さい」
「あ、ごめん」
貴族面倒い。敬称の使い方も勉強せねば。
「ソシエ・シャリアと申します。ソシエとお呼び下さいませ」
相変わらず、美しいカーテシーで挨拶するシャリア。
「ソシエちゃん!」
「……え?」
とてとてと歩いて接近。そのままシャリアの手を取って上下にブンブン振る。
「あたし倭人族のリリア! よろしくね!」
「え? あの……はい。宜しくお願いします?」
リリアの勢いに、シャリアが押されている。ちょっと混乱気味だ。
「俺はユーシャ。よろしくな、ソシ……エ? あれ、さっきアーリスはシャリアって……何だよ、ソシエ幼名じゃん。成名じゃダメなのか?」
「領主一族にシャリルって一字違いがいるでしょ? 紛らわしいから、って成名の使用が制限されてんのよ、この娘」
「ああ、そういう事か。……ん〜、残念だけどしゃーないのか、今はシャリアでいいのか?」
「駄目よ」
「……え? 何で⁉︎」
「シャリアって呼べるのはアーリスだけなの♡」
とても、とても意味深な言い方をするナスタ。
赤面するシャリア。
きょとんとするリリア。
ニンマリするユーシャ。
「……へ〜〜、ほ〜〜、ふ〜〜ん。じゃあ仕方ないなぁ、うししっ」
何が「うししっ」だコイツ……!
……かくいう俺も赤面中で反撃出来ない。すれば相手の攻勢を許すだろう。ここはグッと堪えるしかない。
「……ソシエちゃんもアーリスと子供作るの?」
別方向からとんでもない一撃が来た。
……核弾頭かこの娘。
「えっ/// あのっ! 私はっ「そうよ〜、リリアも負けてられないわね!」」
「あたし、負けないよ!」
グッと、ガッツポーズ。体育会系のノリで可愛いが、種目がヤバイ。
「リリアは真っ直ぐね〜、良い子良い子」
「えへへ〜///」
「……なーんだ、もう決まってるのか。つまんね〜の」
揶揄う気まんまんだったユーシャが、両手を頭の後ろで重ねて、不満げにぼやく。
リリアとナスタは、そのまま将来設計を本格的に見据え始めた。何人とか名前とかの単語が聞こえ、ユーシャもそちらに合流した。
……一方、俺とシャリアは避難を開始。
もはや手のつけられない3人から距離をとって、静かに茶をしばく。
美味え。
「…………アーリス様は……何人欲しいですか?」
……避難先にも刺客が居るとか、聞いてませんが。
「あの……シャリア?」
「あの、何人でも大丈夫ですから! いっぱいして……⁉︎ 違います⁉︎ 誤解なさらないで「落ち着け」」
自分に精霊使った方がいいんじゃないかこの娘?
あんまり挑発しないで頂きたい。
……揶揄いたくなるじゃん。
むずっ、と湧いたそれを紅茶と一緒に飲み干した。
きゃいきゃいと騒がしい3人。
「その辺にして紅茶でも飲めお前ら……シャリア?」
「はい、畏まりました」
会話の間隙を縫って紅茶を勧める。
楚々と準備するシャリア。さっきの暴発から大分立ち直った。
「あ〜実りのある時間だったわ。リリアといっぱい名前考えたわよ」
「ばっちり!」
起きたばかりだからだろうか。
充電MAXでいちいち元気すぎる。
「数だけは出たなぁ、候補は少ないけど」
……何だそりゃ?
ユーシャが謎の感想を漏らす。
「……今から候補があれば、幼名決めるのに迷う事は無さそうだな。結局何人分作ったんだ?」
リリアが元気に手を上げて答える。
「30!」
「励みすぎだろ⁉︎」
どんなペースだよ!
〈カチャッ!〉
食器がぶつかる独特な音がした。シャリアが動揺したらしい。
「……30人……⁉︎ アーリス様! 私「シャリアは早く2人の紅茶を用意して」」
天然のボケに真面目に応じる純粋。
寧ろ突っ込みが30人欲しいよ。
「はぁ……まあいいや、それで? どんな名前なんだ?」
「リリア!」
……それは、あなたの成名だ。いきなり不安になった。
「リリム、リリエ、リリア、リリス、リリア、リリス「ちょっと待て! ナスタ⁉︎」」
「な〜に〜?」
本案件の監督者を招集する。責任を追及せねばなるまい。
「リリアが3人いたんだが……」
「違うでしょ」
「え?」
「4人「五月蝿いよ?」」
「リリアが好きな名前なのよ? 否定出来ないじゃない」
「限度があんだろ!」
そりゃ、成名に選ぶくらいだから思い入れもあるだろうが……、
「……ダメなの?」
リリアがしょんぼりしている……が、ここで折れると、未来の子供の幼名は、全てリリアになりかねない。
「……その時に俺と考えような?」
「は〜い!」
問題を先送りにした。
まだ10歳だし、成長してもこの発想のまま、という事はあるまい。
取り敢えず、さっき2回出た『リリス』を脳裏焼付でキープしておく。
[ーーーーーーーーーー!]
…………引き攣った。
「……どうしたの? 変な顔して」
「いや、しゃっくり……かな?」
……もう治った。
何だったんだろう?
……よくわからん。




