『昇華』
衝立の向こうのナスタから、呼び出しを受けた。
2人を起こさないように、静かにそそくさと移動する。
到着して覗き込んだそこには、親指立てた笑顔のナスタと、耳の赤くなったシャリアが居た。
(……ナスタさん、どの様な説明を?)
不安過ぎる。聞かずにはいられない。
《うん、座れ》
怖いです。答えになってねーし。
大人しく不浄箱に座る。貴族の使う物なので、かなり綺麗で装飾もしっかりした物だ。ちゃんと椅子として使える。
……気持ち的にもぞもぞするけど。
着席すると、目の前にシャリアが跪いた。
「あの、シャリア? ナスタがどんな説明したか知らないけど、無理にとは言わないから……」
そう言って、断れる余地を示したつもりだったが、返って決意が固くなったらしい。
キリッ、と顔を上げると、服の前を開いて下着を露わにした。
「ーーーーッ⁉︎」
咄嗟に両手で口を塞いで、驚きを塞きとめる。
(んなーーーーっ⁉︎)
胸中はパニックだ。慌てて視線を逸らすと、
「……見て下さい」
シャリアが何か言った。
「その……興奮して頂かないと、効果が判りませんので……」
(そういう⁉︎)
試練過ぎる。
《ほら、シャリアが身体張って頑張ってるんだから》
(そんな簡単に……)
《時間無いの! 2人が起きちゃうでしょ?》
……それはマズイ。こんな所見られたら言い逃れ出来ん。
シャリアも恥ずかしいだろうし、ちゃちゃっと終わらせよう。
申し訳ない気持ちで一杯になりながら、シャリアを見る。
(……やば)
何と犯罪チックな光景。
侍女服の前を開いて胸元を露わにし、跪いた少女が居た。
肌はやはり焼けたのでは無く、元々のようだ。胸の谷間の向こうまで色が続く。
レース編みに似た拵えの白い下着が眩しい……って違う!
(ナスタさん! シャリアに精霊! 早く!!)
十分興奮してるので効果は測れる……というか限界が近い。口を塞いで喋れないので、ナスタに指示を飛ばす。
「……シャリア、その下着、ちょっと捲れる?」
「「ーーーーッ⁉︎」」
(ナスタ⁉︎ 何を「慣れなさい」)
(え?)
「視覚から得られる性衝動に慣れるの。毎回シャリアに頼めるとは限らないんだから、慣らして耐性を付けていくのよ」
(無茶だろ⁉︎ 興奮するなってのが無理!)
「だから、慣れろ。……シャリア?」
「……は、……はぃ……」
消え入るような返事。当然だろう。見てる俺も恥ずかしい。
意を決して、シャリアが下着に指を掛けて……ボタンを2つ外した。
(飾りじゃ無いのかよ⁉︎)
縫い止められた物かと思いきや、フロントホックのような物だったらしい。
……目が離せない。釘付けである。
「……いいわ。そのまま精霊を使って」
シャリアが、ゆっくり両手を広げて近寄ってくる。
胸元は開いたままだ。
ボタンが外れて、開いた下着の隙間に…………見えた。
(わーーーーーーっ⁉︎)
《うっさいわね。将来の相手に……》
(いや、まだ決まった訳じゃ無いだろ⁉︎)
《決まったわよ?》
(いつだよ⁉︎)
《さっき。あんたはソシエじゃなくて、『シャリア』の主人になった》
(同じだろ⁉︎)
《全然違うわよ。幼名では無く成名の、生涯使う名前の主人になったの》
(………………あっ!)
《シャリアが自分の意志で望み、あんたが尊重すると了承した。まさか「勘違いだから無効」何て言わないわよね?》
(……マジかよ…………シャリアが?)
俺は自覚が無いまま、シャリアを2人目に決めてしまったらしい。
そして、今自覚した。
視点が切り替わる。
侍従の娘から、将来の相手に。
(……待て俺、想像すんな。メーターが振り切る)
心頭滅却。
煩悩退散。
色即是空。
シャリアの両手が俺の頭を優しく捉えた。
(……空即是色ぃ〜〜っ、近い〜〜ッ!)
無駄な抵抗だった。目の前にシャリアの顔がある。
真っ赤っかで、もういっぱいいっぱいなのが見てとれるが、こっちも同じだ。
リリアが天然なら、シャリアは純粋。系統の違う美少女が、半裸に等しい姿で、こっちを潤んだ目で見てる。
何だ? この美少女ゲームみたいなシチュエーションは。
《……才能あるわね、この娘》
(何の⁉︎)
《男を駄目にする才能》
(意味わかんねえよ⁉︎)
「……行きましぅ///」
極度の羞恥で語尾チェンジしてしまうシャリア。
淡く水色の光が視界の端に灯るのが見えた。
「《昇華》」
シャリアが唱えた途端、効果が出た。
(うおっ!……すっげぇ、これが精霊か!)
欲求を抑えるのでも、消すのでも無く、そのまま高めて弾けさせられた。まさしく『昇華』だ。
期待以上の効力に感動する。
「凄いよシャリア! 効果があった、ありがとう!」
「本当ですか? お役に立てて良かったです!」
主従2人で手を握って感動を分かち合う。
「……アーリス」
そこに水を差すように割って入るナスタ。
「? どうした?」
「下」
「下? ーーッ!!」
言われるまま視線を下ろして、大袈裟に外してしまう。
「……え? …………はわっ⁉︎」
気付いたシャリアがそそくさと着衣を直す。
「…………あの……」
「……すいません。もう一回お願いします」
「……はい///」
食欲や睡眠欲と違って、解消すれば暫く発生しないという訳では無い。
切っ掛けがあれば容易に再燃する。
ナスタの言う通り、ある程度耐性の方も考えないとマズそうだ。




