『駆け引き』
マナプレートに青色が出始めた。
「お、青くなって来た!」
ユーシャが少し興奮気味に叫ぶ。
それと同時に、順調に変化していた色が、ここに来て伸び悩み始めた。
「ナスタちゃん、がんばって!」
リリアが両手で拳を握ってエールを送る。
しかし、応援虚しく、青は中程で完全に止まってしまう。
《ーーーーわっ!!》
「うひっ⁉︎」
ナスタがいきなり大声を上げた。驚いて飛び上がる。
「ここまでね、これ以上は負担が大きいわ」
しれっと、何事も無いように供給を止めた。
(……先に説明して頂いても宜しかったのでは?)
《うっさい。いいから早くふらふらしなさい》
ひどい。
額に手を当てて俯いて、目を半眼に閉じる。
「……ッ⁉︎ アーリス! 大丈夫⁉︎」
多少の睡魔も相まって、割と迫真に近い演技になったらしい。
気付いたリリアが、俯いた俺を心配する。
「……平気、ちょっとフラッとしただけだから」
「負担の無い程度で良かったのだが……」
「この後寝るんだから、構わないわよ」
何と無慈悲な物言い。
「……まさか本当に、マナプレートで青まで到達する程補充出来るとは……やはり想像を越えるな、君は。ありがとう、これでかなり楽になる」
気怠げな表情のまま、ランフェスを見遣る。
「足りたみたいで良かったです」と返して、そのまま背もたれに寄りかかり、上を向いて腕で両目を隠す。
ランフェスの表情は確認した。
柔らかな微笑の割に、視線は鋭い。
(……バレてる?)
《……最初が「うひっ⁉︎」だったし……》
(俺の所為かよ⁉︎)
《何であんたって、いちいち声出して突飛な反応するの?》
(いや、驚くだろ! というか、ナスタが驚かしたんじゃないか!)
《身体をちょっと、ビクッとさせるだけで良かったのに……「うひっ⁉︎」だなんて予測出来る訳ないでしょ?……それで?「うひっ⁉︎」って何よ?「うひっ⁉︎」って》
(そんなに追求しないでいただけます⁉︎)
先生、ここに精神専門のいじめっ子がいます。
「アーリス、もうお布団行く?」
……もう1人ヤバイ娘がいました。
耳元でなんちゅう台詞を囁きやがるか。
(……俺、成人まで我慢出来るかな?)
《……お布団行こ♡》
(やめーや)
ナスタも結構いい声なんだよ。洒落にならん。
「そうだな、仮眠して調整しよう。……3時間と少しで、一度起きられるか?」
「……それぐらいなら、俺が起こすよ。このまま本読みたいから」
「3時間じゃ寝た気がしないし」と言って、ユーシャが目覚まし役を買って出る。
「任せよう。では、アーリス、19時頃にまた来る」
ランフェスがマナプレートを回収して退室した。
「アーリス。あたし、不浄箱借りるね〜」
と言って、リリアがマナ石を持って衝立の裏に移動した。程なく結界が張られる。
「……本格的に眠そうね、あんた」
(お芝居じゃ無くなってきたな……)
真面目に気怠い。
《結構抜いたから、疲れてもしょうがないわよ》
(………………)
《初めてだったんでしょ?》
……マジ勘弁なんだが。
「おまたせ〜、アーリス、一緒に寝よ?」
(………………)
頼むぞ、本当に。
「……って、本当に一緒に寝るのか⁉︎」
「……? うん」
「将来のお嫁さんなんだから、別に構わないでしょ?」
「えへへ〜///」
「いや、照れてないで⁉︎ ……ユーシャ!」
駄目だ。俺1人じゃ太刀打ち出来ない。
この場のもう1人の男子にヘルプを要請する。
「ごゆっくり〜〜」
まさに、『ノシ』といった感じで、投げやりに手を振りながら、既に読書なユーシャ。何て使えない奴。
あれよあれよと、寝台まで連行されてしまう。
(だから、リリア腕力強い!)
《倭人族だからねぇ……》
「……ぃよいしょっと!」
掛け声は可愛いが、やっている事は豪快だ。
頭1つ違う俺を担いで寝台に下ろす。
「ぬぉっ⁉︎」
〈ボフンッ!〉
いい音と共に身体が沈む。そこに……、
「え〜い!」
リリアがダイブしてきた。
「んなっ⁉︎」
思考の処理が追いつかない。
咄嗟に下に回り込み、両腕を広げて受け止める。
〈むにょん〉
けしからん効果音で着地するリリア。
「いたた……ちょっと打っちゃった」
と言って、自分のおっぱいをさする。
(あかん、この娘マジやばい)
《将来が楽しみね〜》
(そこまで生き残れるか不安なんだが……)
理性メーターの残量が足りない。
開き直って寝てしまいたいが……、
「ん〜しょっ、と」
俺の上に乗ったまま、ぶるんっ、とリリアが上着を脱いだ。
(なん……だと?)
《……服を脱ぐ音じゃ無かったわよ……今の》
「なぁ、アーリス〜、こっちの本って続き無いの?」
「知るか! 今忙しい!」
《齧り付きじゃないのよ!》
「黙れ! 俺は男だ!」
「いや、性別関係ないだろ?……ん〜、こっちにするか」
「アーリス、お待たせ〜」
「よし、来い!」
《寝ろ!》
ナスタが何かしたのか、急速な酩酊感に気付いた時には、既に昏倒していた。




