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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
序章 ~『十の権利』~
3/216

十の権利・前編

19/07/13 本文 段落 修正

20/01/05 修正&統合&レイアウト変更

 思考の海に沈もうとした所で、いきなり話しかけられた。



《貴方の番です》


(うぉ!)



 先程とは違う声に驚く。


(つーても、どう答えろと……)


 未だに身体は動かせない。起きて話が出来るなら、とっくにやっているだろう。



《そのままで構いません。先程から強い猜疑を抱いているようですので、そこから是正しましょう。貴方の肉体は失われています》



 こっちの人も『お前はもう死んでいる』主張らしい。


(いや、死んだら考えらんないでしょーよ)


 ばかばかしい。と、内心で突っ張ると、声が応じた。



《一つ消費し、その疑問を解消しましょうか。思念は魂で行う事です。脳は思念を肉体に通し、固定する為の機関に過ぎません》


(……はい?)


《貴方の世界は幽霊・心霊などの肉体の無い存在が思考し、感情を持つ事を『あり得る』と容認しているのではありませんか?》


(そりゃ……そーかもだけど、それはあくまで空想とか想像とかの話でーー)


《名は力を持ちます。大多数に対し共通の認識を与える名称を持った事象は、実在の条件を満たすのです。幽霊は実在しますよ》



 だから『思考出来る=身体が有る』にはならないと、自称創造神様はのたまった。


(はぁ……)


 暴論に近い。と言うか暴論だった。『幽霊って表現があるからいるのだ!』とか真面目にぶっぱする相手に、どう反論すれば良いか悩む。



《……頑なですね。別の視点から証明しましょうか。今の貴方に、名はありません》



……何言ってんのこの人?



《思い出せますか?》


(んなもん、親から貰った大事な名前が…………?)


《無いでしょう?》



……いや待て、何で思い出せない?



――自分の名前、親、兄妹、友人、俳優、偉人――



 自分の周りだけでなく、広く一般的に周知されている誰もが知っているような名前まで、範囲を広げて脳内を探る。


……しかし、教科書に載っているような名前でさえ、思い出す事は出来なかった。



《これから貴方を別の世界に転生します。新生であれば無用ですが、別の身体に魂を移す際は配慮が必要となるのです。出来るだけ『個』を特定する要素を排した魂でなければ、移した身体に適合せず、発狂します》


(……いや、待って)


《もっと簡潔に述べましょうか? 魂に色を与えるような名前、器となる身体は転生の邪魔です。最初に削ります。つまりーー》


(……待てって!!)


《…………》



 話に全く付いていけない。考えるのは魂だから身体の有無は関係ないとか、転生するのに名前は邪魔だとか、いきなり言われても理解出来ない。



《正直な所、十の権利が無ければ貴方の理解を得る必要などないのですが……》



 加えて、今更気付いた。



《十の権利は当人が破棄しない限り、必ず行使して貰わなければなりません……面倒な事です》



 自分の意識の上では、昏睡状態の筈だ。思考しているだけで、声に出してない。にも関わらず……、


(……会話してる)


 手品師や占い師が大衆心理を突いて、当て推量でそれっぽく受け答えするような次元じゃない。


(発声していない人間と会話?)


 出来るわけがない。


……なら、何故成立する?



《ああ、そちらの方が早かったですね。失敗しました。発声手段の無い人との対話など、貴方の常識の範疇に存在しないでしょう》


(……発声しなくても『手話』とか、『筆談』とか、他にも手段はあるぞ?)



 意図的にキーワードを入れて試してみる。



《ええ、他にも意思疎通を行う手法は存在するでしょうね。ですが、それは身体を必要とするものではありませんか? 『手話』も『筆談』も、身体の無い貴方には不可能でしょう?》



……確定だ。当て擦るように両方出してきた。完全に思考を読まれてる。


(電極でもぶっ刺して、脳波から推測するとか?)


 荒唐無稽だ。一般市民に? 何の為に? あり得ない。もう身体が無い? それもあり得ない。


(考えろ! なんか方法有るだろ!)


 あの海外の大学が研究したとか……最近TVに出てた……何かの賞貰ってたあの人が……っ! あークソッ! なんで名前が出てこないんだよ!



《本当に頑なですね……やむを得ません。発狂の恐れがあるので、好ましい手段ではありませんが……》



 次の言葉は、周囲からではなく『自分の中』から響いた。






――【貴方は死んでいます】――






 強制的に、無理やり、感情も無視して自覚させられた(・・・・・・・)


(――ぅあ……あ! ――あぁ⁉︎)



――無意識に否定していた『死』の認識。



 それが文字通り弾けた。同時に、堪え難いほど強烈な欲求が膨れ上がる。



――叫びたい(喉が無い)


――泣きたい(眼が無い)


――走りたい(脚が無い)


――暴れたい(体が無い)


――――たい(――無い)


――――(――無い)


――――(――無い)


――――(――無い)


――――(――無い!)


――――(――――!)



 生前、当然のように行なっていた動作。

 意識せず満たしていた欲求。

 それら全てが既に失われている。

 その事実を一語で植え付けられた。



(……う…………あ……)






    【 死 】






 恐怖が、生前でも体感したことの無い程のそれが、


 渦巻いて、掻き乱して、塗り潰して、壊していく。

 掻き乱して、塗り潰して、壊して、渦巻いていく。

 塗り潰して、壊して、渦巻いて、掻き乱していく。

 壊して、渦巻いて、掻き乱して、塗り潰していく。


(……イ……………ャ……ダ……)


 微かに残った理性の砦。

 そこに目掛けて押し寄せる何か。

 パンクする。パンクした。

 もう、押し止められない。

 砦にヒビが入る、理性が潰される。



 悲鳴をあげ、


 絶叫し、


 苦悶に呻き、


 慟哭で喉を焼く、




――嫌だ。


――保たない。


――耐えられない。


――欲しい。


――身体が。


――見えない。


――話せない。


――動けない。


――何も出来ない。


――何も残せない。



(こんな……)



 価値が無【違います】



(――あ?)


 拍子抜けするほど、あっさりと全てが消えた。


(え?)


 今まで確かに渦巻いていたものが、掻き消えていた。


(へ?……嘘)


 空白だ。混乱も激昂もしていない。あれ程吹きすさんでいたのに、完全に凪いだそこにポツンと自分がいた。



《一つ消費しますよ》



 恐怖も、疑心も、情動すら消え失せた無風の意識の中で、神様の声が優しく響いた。



《我々は創造神として、あらゆる物を作り出すことが可能ですが、魂だけは例外なのです》


(何で?)



 自分でも驚くほど冷静……と言うか、素直になっていた。今まで散々信用せず、疑ってかかっていた神様の主張を、当たり前のように受け入れている。



《……さあ?》


(はい⁉︎)


《唯一神ですら創り出せぬものが、その下位に当たる我々に成せる道理がありませんので……》


(あ、神様にも上下あるんだ……)



 上が出来ないから下も出来ません。と、主張なさる。



(現代社会では通用しないだろうなぁ〜。上に言ったら「ふざけんな!」とか返されそう)


 まぁ、俺は社会人になる前に、死んだみたいだけど……って、


(さっきまで全く受け入れられなかったのに、すごいな、女神セラピー。俺、何か植えられて無い? 洗脳とかじゃないといいけど……)


 切に願う。本当に。



《安心してください。洗脳ではありませんので》



……凄くいい笑顔で言っていそうだ。



《……光あれ。そして、光が生まれました》



……いきなりだな。


(どっかで聞いたよな……天地創造だっけ? アニメかゲームで見た……かな?)


 名称絡みが片っ端からデリートされた弊害で、知識の底が抜けてる。いまいち確信が持てない。



《光の対となる闇が浮かび、陰影となって張り付きました。そこで初めて、モノは輪郭を得ました。存在が観測され、名を得ました》



 真面目に聴く。世界の起こりを神様から直接語られるとか、二度とないだろうし。



《最初の名は大地。一つに纏まり、大きくなって、あらゆる角度から神の眼を楽しませましたが、動きのない事に飽いた神は、水を注ぐ事にしました》



 飽きたからやったとか随分と衝動的だな〜とか思ったが、神話とか脈絡も無く突拍子も無い事平気でするから、こんなもんかと思い直した。



《溢れる水を留める為に空で覆い、彩りを欲して種を蒔きました。くるくると回し、いつまでも飽きる事なく見続けられるそれを、神は星と名付けたのです。……わかりますか?》


(……え?)



 不意打ちだ。こっちに振られるとは思ってなかった。


(わかりません)


 正直に答える。



《神は魂の器である命を創っていません。永い時を経て、自然に命が産まれ、魂が芽生えたのです。我々は魂の創り方を知りません》


(…………)



 今ならその言葉に偽りが無いのが判る。



《我々から見て、魂とはそれだけで価値のあるものなのです。似たような……命の無い器ならば創れるでしょう。ですが、私に『貴方』は創れません》



 周囲の『青』が、一際輝くのを感じた。



ーー圧倒される。






     『神性』






 他の表現が思い付かない。


 俺は今、唯一無二の権能を目の当たりにした。


(……参ったなぁ)


 泣きそうだ……眼があれば間違いなく号泣していただろう。




ーー俺は救われた。




 最早疑いようもない。周囲の『青』は神そのもので、ほぼ消失の寸前まで行っていた俺を、救いあげてくれたのだと。



(……崖から突き落として脅かしといて、後から「バンジーでした」みたいなマッチポンプ的な何かを感じずには居られないが……)


《酷い言われようですね》



 御不満らしい。それ程間違っていないと思うが……、



(……有難う御座います)



 本心から礼を言う。実際、本当に危なかったのだから。



《礼は不要ですよ。さあ、権利を消費しましょうか。何か聞きたいことがあればどうぞ。……ああ、その前に権利の2つを私に下さい》



 どういうことだろう?



《貴方に特性を与える為に1つ。そして、謝罪として貴方の希望する特性を与えます。その為に1つ。計2つです》


(……謝罪?)



 何のだ? 寧ろ感謝しか無いんだけど。



《貴方の理解を得るにあたり、不要に手順を重ねて権利を浪費してしまいました。僅かに不満もあるようですし……》



 バンジーを根に持っているらしい。別に構わないけど、貰えるものは貰っておこう。



(わかりました。2つ譲ります)


《……私の方の2つは、最後にしましょうか。では、どうぞ》



……さて、頭を切り替えよう。



――『十の権利』――



 文字通り十個の権利でいいだろう。2つを神様にあげて、残りは八つ。俺をはたいて小突いて1つ、立ち直らせるのに1つ。残りは六つ。



《……根に持ってますね?》



 持ってません。突っ込まんでいただきたい。


 今、この場で神様に聞いておくこと、聞いておきたいことをリストアップする。



[転生について]

 どういった形で転生するのか?

 転生後の種族は?

 転生先の環境は?

 転生先での生活の保障は?


[世界を導くとやらについて]

 具体的な方法は?

 手段は?

 目的は?



……君達と表現していたのだから、他にも居るだろう。



[他の魂は俺以外にどれぐらいいるのか?]

 目的は一緒か?

 敵対の可能性があるか?



(あと何かあるかな。あ〜紙とペンが欲しい)


 列挙したはいいが、纏まらない。端から少しずつ崩れてしまう。



《どうぞ》


(……おお!)



 実際に紙とペンが渡された訳では無い……が、脳は無いけど、脳裏に焼きつくようになった。便利すぎる。


(これ……すげえ! 有難う御座います!)


 神様の不思議パワーに感謝しつつ、作業を続ける。


(ネガティブ系も考えるか……)



[死んだ後どうなったか?]

 元の世界に戻ることは出来るか?

 転生後に死んだらどうなるか?



(ん〜〜、こんな感じ?)


 つらつらと並べた羅列を眺めながら黙考する。


(あ、あと……)



[神様について]

 何故、自分達でやらないのか?

 今後、支援は期待できるか?

 また会えるか?



(…………こんな所かな?)


 他に思いつかなくなった所で、今度は選定に思考をずらす。権利の数に限りがあるから、全部は聞けないだろうし、選定している間に、また何か思いつくかもしれない。


(……1つ1つ検証してくか)


 即断即決出来ない自分の頭に歯がみしつつ、更に深く掘り下げる事にした。

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