『異種族のハーレム』
領主管轄の施設に入れるとは思わないが、確かに碌でもない事になりそうだ。
俺も四方が壁で囲まれた、監獄みたいな所で余生を送りたいとは思わない。
資産的にも、このプランは余裕だとナスタの言質も得た。
種馬扱いが物凄くもやもやするが、子作りは重要だ。前の世界で『少子化』が問題になっていたから、何となくわかる。人口とは、そのまま原動力だ。無ければ何も動かない。
(……異種族のハーレムか……)
創作であれば『大変結構』とブックマークするだろうが、ここは現実で、アスガンティアだ。
当然だが、好感度MAXで登場する訳がない。
異種族だから、人間の俺より総じて強い。
そして俺は今、中身は大人で身体は子供を地でやってる。行為に及べる年齢では無い。何その生殺し。
うぬぬ……、と色々悩んでいると、ランフェスが新たな燃料を投下した。
「この……名前はまだ決まっていないが、騎士団の初期メンバーは君と、ユーシャと、リリア嬢の3人だ」
「……へう?」
「……どんな反応よ、あんた……」
ほっとけ。それより、
「子供が初期メンバー?」
「当然だ。長が子供なのだから」
……やられた。本当にとんでもないなこの人。
要するに、今の仲良し3人でごっこの騎士団をやって、いずれ本物にしろと、そう言ってる訳だ。
……何それ楽しそう。
「……2人は知ってた?」
「当たり前だろ!」「一緒にあそべるね!」
2人はやる気だ。
「……こんな事になるなら、アイツら引き留めればよかったかなぁ……」
ユーシャがぽつりと呟いた。
(……そっか、あの2人は行ったか……)
レイジェルとノーイル。
レーゼルの仲間で、ユーシャとリリアを含め5人で遊んでいる事が多かった。
ノーイルは天文学者を目指して、王都近郊の街へ、
レイジェルは画師の経験を積むべく、両親と旅に出た。
レーゼルの最後の日常となったあの日、何事もなければ2人を見送れただろう。
「……紋話の交換は出来たの?」
紋話は紋章保持者の相互連絡手段だ。
前の世界的に言うと、アドレス登録件数と通話回数に制限のある携帯電話のようなもので、使う度にマナが掛かる。
「ああ、バッチリやったぜ! ……リリアは倒れちゃったから出来なかったけどな」
「リリアが倒れた⁉︎ 何で⁉︎」
初耳だ。振り向いてリリアを見るが、特に具合が悪そうに見えない。
「お前……じゃなかった、レーゼルの救援呼ぶのに、街まで全力疾走したんだってさ」
「がんばったよ?」
……絶句する。「頑張った」で済む話ではない。
ナウゼルグバーグとは結界柱の手前で接敵した。
ほぼ、森の最深部だ。
(あそこから街までどれくらいある?)
リリアはドワーフだ。身長も低く、10歳の女の子で、歩幅もたかが知れてる。
信じられない気持ちでリリア見ていると、「えへへ」とか照れ笑いしていた。
「……ありがとう」
間違っても「間に合わなかった」などとは言えない。死んでも言えるか、
……だから、
「お陰で助かった」
どれだけ伝わるだろう?
伝わるまで、言葉を連ねようと構えていたが、
「…………? ……ッ! ぁぅ……えへへ……うん!」
キョトンとした後、赤くなって、照れて、頷いた。
……相応に伝わったらしい。良かった。
「……コホンッ……いい雰囲気なので、これも言ってしまうが……」
わざとらしい咳払いの後、ランフェスが割って入ってきた。
「リリア嬢は、アーリスの婚姻予定者の1人だ」
「………………は?」
中途半端にランフェスの方を向いていた首が、ぐるんっ、とリリアの方に向き直る。
〈グキッ!〉
その途中で、すごい音がした。
「ーーいってッ!」
「アーリス大丈夫⁉︎」
リリアが椅子から降りて駆け寄ってきた。
「……あんまし大丈夫じゃない」
……色々と。
《……何してんの?》
(ほっとけ)
この妖精、主人の扱いがぞんざいなんだが。
「寧ろ、リリアの方が大丈夫じゃないだろ?」
「え? なんで?」
「いや、だってほら。10歳で婚姻とか……」
「問題ない。祖父とお父君の了承は得ている」
「いつの間に⁉︎」
本気でいつ寝てんだ、この人。
あの計画立ち上げて、根回しまで始めてるとか。
「ハウゼ医師の報告を受けた時に打診した。領主家であれば申し分無いとの返答を得ている」
「家で即決⁉︎」
「当然でしょ? マナの無い男に嫁いだら、子供が出来ないじゃないの」
「生々しいだろ⁉︎」
「……? 何がよ? 子供の見込めない相手とか最悪でしょ?」
「いや、だから、まだ10歳……」
「将来有望なら年齢なんか関係ないわよ。安心なさい、リリア。こいつのマナなら、絶対あなたを孕ませられる。異種族には『増えて貰わないと困る』から、全力で支援するわ!」
「言葉を選べよ! 表現が露骨だろうが!」
「うん! あたし、いっぱいがんばるね!」
「ちょっ⁉︎ リリアさん⁉︎」
「……? どうしたの、アーリス。あたしじゃいや?」
小首傾げて、そんな事聞いてきやがる。なんだ、このかわいい天然。
「……一体何が不満なのよ? 言っておくけど『リリアが嫌だ』なんて、私が認めないわよ?」
「言わないよ⁉︎ 申し分ありませんよ⁉︎」
ちょっと天然入ってそうなロリ巨乳。将来を想像するまでもなく、メインヒロインを張れるポテンシャルが既に滲み出てる。
「なら問題無いじゃない?」
……そうだ。問題なんかあるわけがない。リリアに何の不満も無い。将来子供をつくるのも、諸手を上げてOKだ。
[ーーーー俺は、]
[その子供が怖い。]
[いや違う、子供が怖いんじゃない。]
[リリアとの子供が怖いんだ。]
[リリアとの子供だ。]
[かわいいだろう。]
[かわいいに決まってる。]
[そうだ、]
[リリアとの子供が怖いんじゃない。]
[その『女の子』がーーーー]
「アーリス!!」
「ーー⁉︎」
目の前に仁王飛びするナスタと、その後にリリアの姿があった。
「……あ…れ?」
俺は今、何を考えていた?
「何を考え込んでるの? リリアが不安がるでしょ!」
「……アーリス?」
ちょっと泣きそうなリリアを見て、慌ててフォローする。
「ごめんリリア! 違うぞ? なんだ、あれだ、マリッジブルー? とか、なんかそんなの。嫌なんてことは絶対無いから!」
「……ほんとに?」
「当たり前です。リリアみたいな良い子に、不満などあろう筈がありません」
「やった!」
俺の言葉を疑いもせずに信じて、受け入れて、破顔して喜んでくれる。
[ーーアはーーーーーだ。]
(……レーゼルの好きだった娘なんだよなぁ、なんか略奪愛みたいな背徳感が……)
《あんたって、ほんっっとうにバカね。そんなの気にしてたの? 死んだ奴に義理立てして、リリアを袖にするとかあり得ないからね?》
(……大丈夫だ。流石にそれは俺も違うだろうと思う。……ちょっとモヤっとするけど)
《しっかりしなさいよ? あんたは『複数の異種族と通じて、子供を作らなきゃいけない』んだから》
(……マジで種馬だな、俺)
《側から見ると、あんたって女好きの女誑しよ? 適任じゃない》
(むぅぅ……)
誑しは兎も角、女好きは否定出来ない。
反論出来ぬ不満を、頬を膨らませて訴えたら、リリアに「かわいい!」とか言われてしまった。
……早く大人になりたい。




