『露呈』
ランフェスが離室した。
ナスタと本格的に話すチャンスだ。
(ナスタ……さん? 二、三お伺いしたいのですが……)
《……何びびってんのよ、普通にしなさい。あんたが主人なんだから》
(……あるじ?)
対等じゃないのか?
《神さまと経路が繋がってるのはあんたなんだから、あんたを『甲』に据えるしかないでしょ!》
……おお! あの口上の『甲乙』で決まるのか!
(……んじゃ、敬語は要らんのか)
《……その切り替えの早さは尊敬に値するわ》
(え? 早いか、俺? 結構引きずる方かと……)
レーゼルの生活習慣がありながら、前の世界のあれこれが未だに抜け切れていない辺り、未練がましい。
《……そうね、失言だったわ。忘れて頂戴》
(色々聞きたいんだけど、『五精の契約』って何?)
《……本当は自分で学ぶべきなんだけど、あんたは例外ね……いいわ。五精族との専属契約の事よ》
(……専属契約……ナスタが俺の、直属? な感じになったって事か?)
《そうよ、あんたのマナの管理、運用を徹底してあげる》
(うげ……)
お年玉を回収する親のようだ。
《「うげ」、じゃないわよ。あんたのマナは人間の賄える量を超えてる。五精族に任せないと死ぬわよ》
(はい⁉︎)
《袋に水を入れ続けると、袋は破けるでしょう?》
(……あ〜…………)
……道理だ。
財布に入るお金の量は決まっている。
電子マネーはただの数字だ。質量は無い。
マナは……無くなれば死ぬ。生命力かエネルギーのような物だろう。
ならば、電子マネーとは違う。上限が存在する。
そして、その上限はマナを収める身体、肉体が保有出来るエネルギーの量で決まる、と考えれば……、
(……マナを持ち過ぎれば死ぬ?)
《逆に枯渇しても死ぬわ。だから、子供の内はマナ石で生活させる。下手に紋章を付与して『穴』が開いたら、使い方のわからない子供は死ぬかも知れないから》
(……かなり厳しいな)
マナの量で生死が決まる世界。
上下限の見極めにしくじれば、生活の面でも、生命の面でも、苦境に立たされる。
《そうでも無いわよ?》
(……え?)
《あんたが例外なの。神さまに何されたか知らないけど、今もマナが少しずつ増えてる》
ふと、右手の紋章を見てみる。
(……何も無いな)
紋章は使用した時に浮かぶように輝く。額の紋章は見えないが、光ってはいないだろう。つまり、
(素力変換と紋章は関係無いのか……?)
《……今の》
(へ?)
《紋章の前に何を考えたの?》
(『素力変換』の事?)
《……成る程、これが『神域』なのね。私には何も聞こえないわ》
(マジか⁉︎)
試しに頭の中で素力変換と10回言ってみる。
(……どうだ?)
《……どんなくだらない事をしたのか、何となく想像出来るけど、聞こえないわよ》
(ふむ、駄目か。んで、神域って何?)
《神の領域。生命が知るべきで無い知識、力の総称》
……なんか壮大な説明をされた。
《そっちはどうでもいいわ。問題はあんたのマナよ、何で増えるの? 少しずつ、まるで……⁉︎ あんた! ちょっと息止めなさい!!》
……察しが付いた。直ぐに呼吸を止める。
《……当たりだわ。エーテルを口から取り入れて、体内でマナに変換してる》
(……俺が生きている限り増加止まんないな、それ)
呼吸を止めて生きるなど無理だ。
つまり、マナの増加は止まらない。
そして、素力の調整役を自称するナスタは、その管理をしなければならないのだろう、
《正解よ……ああ、もう! こんな事になるなんて……!》
苦悩していた。
神様が付けた特性の所為だが、原因は俺だ。
(……御迷惑をお掛けしてすみません)
《……いいわよ。あんたの事情は大体把握したから》
(事情?……ああ、俺もあんなに吹き出《違うわ》)
遮られた。ナスタが顔だけこちらに向けて、
《転生者》
……ぶっこんで来た。
(……どこから?)
《転生してから》
(……………………)
《先に言って置くけど、全部じゃないわよ》
(……へ?)
《……飾らずに言うけど、あんた正気じゃないわ。何で平気なの?》
なんだ? なにが?
《神さまに全部奪われて、何もかも失って、全く別の場所、別の身体……死んだ人間の身体よ? 異常でしょ? 今、こうして会話が成立している事に、私の方がおかしくなりそう》
(……あ〜…………いや……)
……反論出来なかった。
至極客観的に見れば、ナスタが正しい。
異常。
正気じゃない。
普通なら持たない。
なら、
ーー俺は、何処で、この精神性を獲得した?
(……うぁ〜〜……)
『ジャンル:異世界転生 (ハイファンタジー)』
(オマエの仕業かよ!)
何かが台無しになった気がした。
《……私?》
(いえ、違いますごめんなさい)
全面的にナスタが正しい。確かにおかしいのは俺の方……と言うより、前の世界の娯楽の方向性がぶっ飛んでる。
(……あ〜、前の世界で擬似体験と言うか、イメージトレーニングみたいな事を……)
《……何? あんたこんな事何度もやって来たの⁉︎》
(いや、ちがくて……)
……羞恥プレイ過ぎる。
黒歴史の2ページ目が開かれようとしていた。
誰か止めて。
「アーリス? どうしたの? ナスタちゃんとお話し?」
天使が居た。
「ああ、リリア。うん、今終わった」
「? そうなんだ」
正確には、たった今終わらせた。
《……私は別に構わないけど、いいの?》
(……何が?)
「……それじゃあ、聞くね?」
《その二人》
「あなたは誰?」
「おまえは誰なんだ?」
《あんたを見る目が変わってるけど?》




