『素力の調整役』
全力で心当たりが有った。
(アレか〜〜!)
あれだ、確かに俺は神様と再会する約束をしている。しかも、十の権利を一つ消費して……だ。
ーー絶対に果たされる『確約』として。
経路とやらが何なのか分からないが、繋がりを示すものであれば、がっつり繋がっているように見えるだろう。
「……アーリス? 身に覚えがあるようだが……」
硬直の解けたランフェスの追求が来た。
(……どうする? 死後の約束とか縁起でも無いよな普通)
う〜ん、と説明すべきか悩む。……と、ランフェスが問いを撤回した。
「いや、すまない。神との約定など、余人を及ぶところでは無いだろう。答えなくていい」
……ラッキーだ、勘違いしてくれた。黙っていよう。
……に、しても、だ。
「ナスタとの契約って不味かったんですか?」
ナスタの慌て様は尋常じゃ無かった。だから俺も、異を挟まずに契約したのだ。
……いや、単に流されただけか。
まあいい、それは置いといて、
「……不味いなら、止めればよかったと思うんですけど……」
結局、アゼスターとランフェスは、契約完了まで介入して来なかった。
不満気に両者の不手際を指摘する。
「……気付いていなかったのか……あのマナの流れは結界と同じだ。こちらからは干渉出来ない」
……なんと。
「すごかったぞ、竜巻みたいだった!」
「ぐるぐるしてたよ?」
ユーシャとリリアも見ていたようだ。
「あれ? じゃあ何で契約したのが判ったんですか?」
「眼の色が違う」
「……はい?」
意味がわからん。
「今、君の眼は濃い紫だ」
「ーーなっ⁉︎」
ダダッ、と姿見まで駆け寄る、
「おおぉぉ……!」
見ると、確かに黒から紫に変わっていた。
黒髪に濃紫の瞳。なんか魔王っぽい。
「お〜、本当だ、……でもよく見ないとわかんないな」
「アーリスかっこいいよ!」
二人が寄ってきて、一緒に俺の眼を確認する。
「確実とは言えないが、眼の色はその者の属性が出やすい。……異種族が一番わかりやすいな。髪にも色が出る」
言われて、リリアを見てみる。
左右をお団子にして花を飾った、ピンク色の髪。
ーー赤い瞳。
ーー身長ちっちゃい。
ーー巨乳。
ーーあ、ちょっと赤くなった。
うん、かわいい。
(成る程、リリアは『火』?)
《なにが成る程……、……そうよ。異種族は生まれた時から、属性が決まってる。倭人族は火ね》
(……じゃあ、エルフは生まれた時から『水』なんだ)
ランフェスが、『エルフの属性は水だ』と言っていたのを思い出した。
《正しくは『木』か『水』ね。矮人族が『火』。獣人族は『土』。そして、有翼族が『風』》
(……エルゼン?)
《腰の辺りに『翼』のある種族よ》
そんな者まで居るのかアスガンティア。
《…………ねえ……》
(……何?)
《見過ぎじゃない? リリアが真っ赤なんだけど……》
気付けば、耳まで真っ赤にして、もじもじするリリアが目の前に居た。
その隣で、ユーシャがニヤニヤしている。
「あっ! ごめん、リリア。見過ぎた」
「……うん……」
いかん、なんか妙な空間に変貌を遂げつつある。
「……席に戻ろうか?」
「……うん!」
ユーシャが、「なんだ、もう終わりか〜」とか言ってるが、スルーだ。席に戻ろう。
席に戻ると、笑顔のランフェスが待っていた。
「続けても良いかい? アーリス」
微妙に黒い笑顔。揶揄の色を感じる。こっちもスルーだ。
「お願いします」
「……君のマナの量は、私達の想像の遥か上を行った。普段の成前式は、淡く光を帯びて終わる」
(げっ、……バレてんじゃん)
マナのアドバンテージが微妙に漏洩していた。
(どこでバレた?)
こっちの方は心当たりが無い。
「……ハウゼ医師から報告を受けていた」
俺の顔を読んだランフェスが、しれっと解答を寄越す。
(……最初からじゃねーか)
俺がどうこうという次元じゃ無かった。
「おじいちゃん!」
「そんなにマナ持ってんのか……リリア、今度アーリスに奢らせようぜ」
「あたし、新しい斧欲しい!」
「俺は本棚!」
遠慮と手加減が吹き飛んだ、二人の声が聞こえる。
(……それくらい良いけどね)
俺に出来る事なら、何でもしてやりたいと思う。
《……歪んでる》
(……え?)
ナスタの呟きが届いた。
「……契約した属性が『土』であれば良かったんだが……『風』か」
今度はランフェスの声。
10人だかを聞き分けた偉い人じゃあるまいし、目が回りそうだ……が、ここはランフェスだろう。
「風って良くないんですか?」
「……ナスタには悪いが「ストップ」」
ランフェスの発言を、ナスタが鋭く制した。
ナスタの周囲が、陽炎のように揺らめく。
ーー『怒気』。
肌で感じた。
その場の皆が硬直する。
「舐めるな、人間」
苛立ちを隠さぬ威圧。
室内の『圧』が上がる。
(ナスタ……?)
愛らしい外見からのあまりの変貌ぶりに、どう対応すれば良いか分からない。
「五精族は素力の調整役、精霊は契約を尊重して人間に付き従う。……けど、妖精は違う」
ランフェスを視線で縫い止めたまま、ナスタは言った。
「放って置けば、いつまでもマナを貯め込む人間には辟易としているの。悪いとは言わないわ、あなた達の生活は理解しているつもり。でも、それだけでは『循環』しない」
ナスタが、その小さな指をランフェスに突き付ける。
「人間から放出されたマナをエーテルにして龍脈に還す。それが五精族の役目。精霊が人間と契約するのは、その為なの。……ね?『対等』でしょ? 勘違いしてない? 五精族は人間に使われる存在じゃない。目的を持って人間と契約してるの。『下』に見られる謂れは無いわ」
「……失礼致しました、ナスタ嬢。私の不明をお赦し頂きたい」
「ん、オッケー」
「軽っ⁉︎」
(いいのか、それで⁉︎)
「別に良いわよ。人間と五精族は対等だって解ってくれれば。……あなた達もごめんなさいね、びっくりした?」
ユーシャとリリアに向き直って、ナスタが謝った。
「いや、まあ、ちょっと驚い「かっこいい!」」
…………はい?
「ナスタちゃん、仕事のできるお姉さんみたい!」
「ありがとう、……ふふふっ! 異種族はやっぱ変わってるわね」
「あたし、倭人族のリリア!」
「五精族のナスタよ。改めてよろしくね、リリア」
「うん!」
「「「………………」」」
あそこだけ空気がおかしい。
「……良い時間だな、昼食の手配をしてくる」
ランフェスがそう言って席を立った。
「みんな希望はあるかい?」
「「カレー!」」
(昼からかよ)
俺は夜派だ。
……けど、料理人の負担を増やす程のこだわりでも無い。
「……俺も同じので」
「わかった。この部屋に持ってくるから、みんな外に出ないように」
ランフェスが俺達のお昼の為に退室した。




