『妖精ナスタ』
レーゼルの部屋に入ると、二人は探検を開始した。
「お〜、おっきい寝台だね!」
「……でっけー本棚、いいなぁ……」
「すごい、ふかふか〜!」
「……騎士関係ばっかだな……」
「ユーシャ! すごいよ⁉︎」
「……ん〜? ……ん〜、すごいな……」
「ちょっと、本読んでないでこっちこっち!」
……騒がしすぎる。
幸い、東住居棟の二階に私室を持っているのは、レーゼルだけだ。
周りから苦情が来る事は無いと思うが、執事や侍従に二人がいる事がバレるのは、まずいような気がする。
「……何故二人を?」
二人に同行を願ったのはランフェスだ。
レーゼルの部屋の入り口、横に並んで立っている隣のランフェスに聞いてみる。
「……少し話がしたい」
「……二人にですか?」
「ああ……だが、先ずは君だアーリス」
いい笑顔で俺を見下ろすランフェス。
(あかん)
怒っていらっしゃるのが、まざまざ感じられた。
「ユーシャ、リリア嬢、君達もそこの椅子に座りなさい」
ランフェスが二人に寝台の横の椅子を勧める。俺とランフェスは朝食の時の椅子だ。
(……近い、逃げられん)
ランフェスのオーラを感じたのか、やや緊張気味に姦しい二人も座った。
「さて……、何故勝手に契約した?」
何故、と言われても、
「……なんか緊急事態っぽかったので、妖精の勢いに押されて……」
断れる雰囲気じゃなかったし……。
「……妖精? 精霊では無いのか?」
「……妖精か聞いたら、「そうだ」って……あれ?」
(そういえば、あの妖精どこ行った?)
《いるわよここに》
「うぃゑ⁉︎」
変な声が出た。
「どうした⁉︎「なんだ⁉︎「……アーリス?」」」
三者三様にどよめく。
「……あ、いえ……ちょ、ちょっと待って」
自分でもはっきり判るくらい混乱してる。
(…………『其処』に居るの?)
《ええ、『此処』よ》
あの時の妖精が、俺の頭の中に居た。
(…………出てって貰えます?)
本気で勘弁してもらいたい。
《しょーがないわね、マナ使うけど良い?》
(落ち着かないので、お願いします)
スゥっと、何かが抜ける感覚、
「な⁉︎「何だ⁉︎「かわいい!」」」
俺の少し横に、ハタハタと羽根を羽ばたかせた、さっきの妖精が出現した。
「出たわよ、これで良い?」
オッケーです。……ランフェスが頭抱えてるけど。
「……アーリス、これは何だ?」
「妖精さんだそうです」
俺もそれしか知らん。
「ナスタよ。よろしく」
(……あの無駄に長い名前は何だったんだ)
《無駄って……真名は契約者にしか明かさないわよ》
(……え? 何で出てったのに聞こえんの?)
《契約で『繋がった』からでしょ》
(…………解約って出来ますでしょうか?)
《神に奏上して通った契約が解けるか!》
……怒られた。
契約書は隅々まで確認しろ、と指導してくれた誰かの言葉を思い出した。
……そんな状況じゃ無かったけど。
「解約は出来ないそうです」
今しがた発覚した事実を、ランフェスに報告する。
「……アーリスもう精霊と契約したのか」
「良く分からないけど、すごいの?」
「貴族しか精霊と契約出来ないんだ」
「そうなんだ! すごい!」
「リリアもそのうち出来るんじゃないか?」
「そうなの?」
「リリアのじいさんって、精霊使える名医だろ?」
「うん! おじいちゃんはすごいよ!」
「そのじいさんの孫だから、きっと出来るぞ!」
「やった!」
「……ナスタと言ったか、君の属性は?」
色々と諦めたのか、現状把握に徹することにしたのか、ランフェスが事務的にナスタに聞いた。
「……『風』よ」
ランフェスが大きく息を吐いた。
「……風って?」
そもそも属性とは何ぞや?
「五精族の属性の一つよ……あんた、本当に資格ないのね」
「……資格が無い? それでは契約出来ないだろう?」
「『神に奏上したのよ。』ほかに手段無かったもの」
「……………………」
ランフェスが絶句した。
「……『神に奏上』って何?」
ただの祝詞じゃ無かったのか?
事情を知りたいのは、俺も同じだ。なので、固まったランフェスの代わりに聞いてみる。
「神さまに契約の仲介をお願いするの。普通は通らないけど、あんたは『経路』がある」
「……経路?」
「五精族には見える……ううん、なんとなく分かるの」
どうにも要領を得ない。焦れったくなってきた。
「でも、あんたは違う。はっきり残ってる」
次のナスタの発言で、今度は俺が絶句した。
「……あんた、『神さまと約束』でもしてんじゃないの?」




