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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第一章 ~『転生』~
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ランフェス『情念』

 領主館の三階、北の住居棟中央に、領主アゼスターの私室がある。


 レーゼルとの朝食を済ませた後、ランフェスは真っ直ぐに其処へ赴いた。







「おはようございます、領主」


「ランフェスか、おはよう。……レーゼルはどうだ?」


「だいぶ顔色が良くなっていました。ハウゼ医師の見解に誤りは無さそうですね」



 レーゼルに精霊の力で触れたハウゼ医師は、体内のマナが、信じられない程充溢している事に気付き、即座に治療を辞めたそうだ。



「マナは生命の源です。回復力にも影響すると聞き及んでいましたが……凄いですね、外傷がほぼ消えていました」


「…………そうか」



 口元を綻ばせて、父が呟く。



「……ならば、後は印の方か」


「ええ、動くのも苦では無さそうです。昨日の今日ですが、予定通り本日、成前式を行いましょう。本来の予定は午後でしたが、レーゼルに11時に行うと伝えてあります」



 魔獣とは素力と何らかの因果を持つ獣の総称だ。


 ナウゼルグバーグの印が、マナにどの様な影響を与えるか判らない。


 もし、体内のマナを奪うようなものであれば、枯渇して死に至るだろう。


 だが、紋章を得れば枯渇は免れる。


 紋章が生命維持に必要なマナを徹底して保持するからだ。


……そして、もう一つ。


 紋章を得る時、体内のマナは再構築される。


 必要なマナだけを残して、不要なマナを一度全て放出し、入れ替える。


 マナを効率よく運用する為だ。


 上手くすれば、印が消えるかも知れない。




ーーそれに、





「……そうだな」



 父が目を瞑って、……同意した。


……思う事はわかるが、これは必要な事だ。


 彼にとっても……我々にとっても……。



「……土地の方ですが、北西の一区画を確保しました」


「……あの辺りは開拓も進んでおらず、閑散としている。理想的か……マナはどうする?」


「成前式を見てからの判断になりますが、レーゼルに任せようと思います」


「……それほどか?」


「医師が慌てて治療を辞める程です。……尋常では無い量でしょう。少し使わせた方がいいと思いますが?」


「……ふむ…………わかった、それで許可を出そう」



 ほっ、と一息つく。


 これで山を一つ越えたと考えて良いだろう。




「……そういえば、領民の暴動を懸念していました」


「……は?」


「レーゼル……いえ、アーリスに首の印が消えていない事を告げたら、『印を処理しなければ暴動が起こる』と……」



 父が机の向こうで固まった。



「……何だそれは? 普通は出来ぬ発想だろう?」


「少々思い切って、生前に地政学か政治学を専攻していたか尋ねた所、専攻は数学と化学だそうです」


「……わかってはいたが、本当にレーゼルでは無いのだな」


「専攻していないという事は、自然に身に付いた、という事です……中央領に近い貴族、ひいては王族の考え方ですね。あの様な推測が飛び出すとは、思いもよりませんでしたよ」



 本当に吃驚した。想定外すぎて固まる程に。


 父が大きく息を吐きながら、椅子の背もたれに寄りかかる。



「……そちらは成前式の後で良い。それで、領民の方はどうだ?」


「騒がしいです。救難信号弾の黄色が拍車を掛けてます」



 あれで、フロード全領民の知るところとなった。



「……ソギルといったか? まさか背負ってレーゼルを運んで来るとは……」


「彼はレーゼルを『遺体』として扱っていませんでした。生存者ならば、対応としてはそれほど間違っていませんよ? 黄色の信号弾のお陰で、先んじて医師の手配も出来ましたし……」



 赤なら医師の出番は無い。



「……ただ、あれでは印が隠せません」



 ソギルが先行したお陰で、領主側の対応は全て後手に回った。


 命じた討伐隊もソギルに同情し、レーゼルを奪う様な事はしなかった。……寧ろ協力した。



「どいつもこいつも……」



 父が頭を抱える。



「領民の『想定外』に悩まされるのが、領主の務めと言いますが……」


「他人事では無いぞ、ランフェス。その様に私を見て笑っていられるのも、今だけだ」


「大丈夫ですよ。余波・・は被ってますので」



 やる事が多すぎて手一杯だ。



「済まんな、わしとナーシャルだけでは手が足らん」


「……そういえば、領妃は何処に?」



 母の姿が見えない。



「ルインを抑えている。今、走り回られるのは困るからな」



 ルインは、アゼスターとナーシャルの子、6歳の末っ子だ。遊びたい盛りの年齢で、止めるのに苦慮しているらしい。



「レーゼルを隠しておきたいですからね。面会謝絶で通してますから、ルインから情報が漏れ、領民に『実は回復して、普通に過ごしている』などとバレれば、押し寄せるでしょう」


「……あと3日もこの状態が続くのか……」


「シャリアと結ぶのであれば、今回の一件を利用しない手はありません。……凌ぐしか無いでしょう」



 言いながら、私も内心で溜息をついた。


〈コンッ コンッ〉


 ノックの音。


 父を見ると、首を横に振った。


 予定に無い来訪者のようだ。


 これ以上の面倒は、心底遠慮したいのだが……、



「失礼します。アゼスター様」



 現れたのは、カールネスだった。



「紋話にて連絡がありました。シャリア嬢は本日の午後に到着する予定、との事です」


「でかした!!」



 父が机に両の手を突いて立ち上がる。


 私も内心で喝采を上げた。


(素晴らしい! 流石は我が妻!!)


 よもや私を謀るとは!



「これで大分楽になります」


「ああ、現在の警戒態勢も明日で切れる。マナが浮いたな」


「……恐縮ですが、追加で言伝が御座います」


「? 何だ?」


「シャリア嬢が到着したら、リムルツェーケルにマナを与えて欲しいそうです」


「……………………」



 父が絶句した。


 リムルツェーケルは魔獣だ。直轄地の以外の街には、一頭ずつしかいない。


 他の獣の追随を許さぬ程に速く走るが、走った分『マナを大量に喰らう』。



「……断れませんね」


「……才女ならぬ烈女(・・)だな。お前の嫁は」


「今度、伝えておきますよ」



 さぞ喜ぶだろう、


 我が妻、メルシアであれば。


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