ソギル『子供達の為に』
門兵のソギルは、元は狩人だった。
西門を使う子供達には、幼い頃から色々と話して聞かせている。
罠の作り方、仕掛け方、野草の見分け方など、森で使える知識を、若い世代に明け渡してきた。
だから、解る。
『おかしい』と。
今日の3班は優秀だ。午前中はシシノイまで捕らえてみせた。
そんなアイツ等が、この時間まで戻って来ない。
時間と結界については、徹底して教えてある。
(……何か、しくじりやがったか?)
騒めく。
嫌な予感。
狩人の感。
程なく的中した。
ソギルの目が、何も持たずに泣きながら走るリリアを捉える。
「ーーッ、ソギルさん!!」
駆け寄って抱き止める。
信じられない程、熱い。
荒い呼吸がリリアの疲労を物語る。
どれだけの距離を駆けて来たのか……、
「ジーグ! 水だ!!」
相方に指示を出して、リリアに向き直る。
「呼吸を整えろリリア、落ち着け、大丈夫だ」
泣き腫らした顔を、両手で挟んで告げる。
「……ひっく……ッ、……レーゼルがっ……あたし……あたしがっ!」
「……リリア」
親指でリリアの両目を拭って、聞く。
「報告は簡潔に、だ。誰が、何を、何時、何処で、どうした、……簡単だろう? 何があった?」
「……っ……レーゼルが、ナウゼルグバーグに……」
「ーー⁉︎」
「……囮に、って……ユーシャが、残って……印見るって」
(……ナウゼルグバーグと遭遇、レーゼルが囮、ユーシャが印を見る為に残った)
「わかった、……ジーグ! 矢筒と地図もだ!!」
途中まで来ていたジーグがとって返す。
「……あたしの所為なの!! あたしがっ!」
(……レーゼルが囮になった原因はリリアか)
長く接していれば、誰が、誰に好意を抱いているか見えてくるものだ。感情が出やすい子供なら、尚更。
「リリアちゃん、水だ。先ずは飲むといい。……ソギル、ほら、地図と矢筒だ」
ジーグがリリアに水を渡し、俺に矢筒と地図を寄越す。
矢筒を担ぎ、地図を広げてリリアに見せた。
「リリア、何処だ?」
リリアが広げられた地図の一点を差す。
「なっ⁉︎ 結界の内側⁉︎」
「やはりか……柱が壊れたか?」
でなければ、コイツらが魔獣と遭遇する筈がない。
「ソギル、俺は南西の見張り塔に行ってくる」
「ああ、頼む。結界柱が壊れてるかも知れん、信号弾は『緑』を上げさせろ。ナウゼルグバーグだ、弓兵を西街壁を重点に並べておけ」
ソギルが矢継ぎに指示を飛ばす。
「護り手の手配も忘れるな。俺はもう出る。後続の討伐隊に、治癒師と修繕屋を同行させろ。ギルドにも話しを通しておけ。15人は欲しい、とな……リリア、捕まった奴は居るか?」
「……レーゼルだけ……みんなは、こっちに逃げてるはず……」
「わかった、……安心しろ、俺はオマエらの倍は早えぞ」
「……うん、ソギルさん、お願いっ! レーゼルを助けて!!」
「任せとけ、ジーグ、後は頼む」
「後続の到着まで先走んなよ、ソギル」
「……ああ、行ってくる」
ソギルが森に入って程なく、信号弾が上がる。
これで街の防備は整う筈だ。
門兵が一人居なくなった所で、問題は無いだろう。
異様に静まり返った森を、慣れた動きで疾走して行く。
森の中腹に届く前に、前方にユーシャ達の姿が見えた。
周囲にナウゼルグバーグらしき姿は無い。
……レーゼルの姿も。
「ソギルのおっさん!」
ユーシャ達が気付いて、駆け寄ってくる。
「おっさん、レーゼ「リリアに聞いた、印は?」」
「……首に黒いのが見えた」
「その後は? 咆哮はどうした?」
「レーゼルが、リリアの盾が落ちる音で判断するから、塞ぐ訳にいかないって……」
「……………………」
この時、ソギルの中でレーゼルの生存確率は0になった。
「……お前らは……、おい、レイジェルとベインの連中はどうした!」
「三方向に分かれて捜索してたんだ。西からベイン、俺達、ニック。俺が一番事情知ってるから、街に近いニックの方と合流して、ベインの方にレイジェルが行った。同じように撤収してる筈だ」
「……撤収してるならいい、お前らはこのまま街へ戻れ」
「……おっさん、俺も連「言うなよ、ユーシャ」」
「いくらお前でも、そこまでタコ助じゃねえだろ?」
「……ソギルのおっさん、レーゼルを頼むよ……」
「ああ、子供は家帰って、飯食って……寝ろ。こっちは大人に任せとけ」
「……わかった」
ユーシャの号令で、子供達が一斉に街へ向かって行く。
「……………………」
[17時41分]
討伐部隊の編成には時間がかかる。
父親である領主がさっきの信号弾で、
異常に気付き、
事態を把握し、
編成に着手し、
部隊が出発に至るまで、
どう考えても18時を回るだろう。
(……………………)
ここで先行する必要はない。その理由が無くなった。
ーーだが、
「ーーったく、どいつもこいつもレーゼルレーゼル! モテモテだなぁ! おい!」
約束はある。
ソギルは再び走り出した。
森の最深部へ。
[18時58分]
森の奥地から救難の信号弾が一つ上がる。
色は黄色。意味は《遭難者発見・危篤状態》。
亡骸を前に、ソギルは赤を上げることが出来なかった。




