レーゼル『最後の日常』
午前中はベイン達と狩りに行った。
午後は誰とだろう?、と考えながら街壁に向かって歩く。
「お〜い!レーゼル〜」
呼ばれて振り返ると、後ろからユーシャが走ってくるのが見えた。
「午後はお前とか」
「他には誰がいるの?」
「リリア、ノーイル、レイジェルだな」
みんな、一足先に成名を貰って呼び方が変わったから、直ぐにはわからない。首を傾げると、ユーシャが「いつもの面子だよ」と、教えてくれた。
「……みんな、先に成名貰ってずるいよ」
父さんは領主だから、成前式の時期になるともの凄く忙しい。だから、領主の家族はちょっと遅くなるんだって言われた。
「そう言うなよ。お前だって明日には貰えるんだからさ!」
「そうだけどさ〜〜」
「領主様にあのお願いしたのか?」
「したよ!父さんと母さんから1文字づつ貰うことになった!!」
「良かったじゃん!」
「うん!どんな成名貰えるかな〜?」
ザスティンの騎士みたいに、男らしいのがいいな。
「……お、いた」
ユーシャは目が良い。僕より先に3人に気付いた。
「お〜〜〜い!」
ユーシャが声を張り上げて3人を呼ぶ。向こうも気付いて、手を振りながらこっちに来た。
「おそ〜い!」
リリアがほっぺを膨らませる。
「お前らが早いんだよ。ちゃんとメシ食ったか?」
そのほっぺを突っつきながら、ユーシャが聞いた。
「パスタ!」「ハンバーグ」と、リリアとレイジェルが答える。
「……カレー」
みんなの不満が、ノーイルに向けられた。
「「「「ずるい!」」」」
自分だけカレーを食べるのは、ずるい事なのだ。
「……うん、ゴメン」
頰を掻きながら、ノーイルが謝る。
「仕方ない、許してやるよ」
「……ありがとう。……行こうか」
ユーシャが許すと、ノーイルが門に向かって歩き出した。
「午後は何を狙うの?」
「野サギゥかな?」
「午前の時、ニックの班はシシノイ捕まえたってさ」
「「スゴイ!」」
僕とリリアの声が重なる。
シシノイは大物だ。簡単に捕まえられる獲物じゃない。
「罠が、上手く嵌まったって言ってたよ?」
レイジェルが教えてくれる。
「僕達も狙ってみる?」
「サギゥのつもりで来たからな〜、罠が無いぞ」
「無理して手ぶらになったら、お肉の無い晩御飯になるわよ?」
「夜はいっぱい食べたい!」
「だよなぁ……、今回は手堅くサギゥにしとこうぜ」
みんなで話していると、いつのまにか門兵のソギルさんの所まで来ていた。
「お〜、賑やかだと思ったら、レーゼルの坊ちゃんとユーシャ達か。抜けるのか?」
「おうよ!また森に行ってくる!」
「結界の外には行くなよ?」
ユーシャが胸を張る。
「わかってるよ、ソギルのおっさん、耳にハコが出来るほど聞いたぜ!」
……自信有り気だ。多分、新しく覚えた言葉を使いたかったんだと思う。でも……、
「……タコだよ?」
「タコでしょ?」
「タコね」
「……タコ」
「おめーは、本っ当にタコ助だなぁ……」
総ツッコミだった。
「冒険ものばっかり読んでるからだよ、ユーシャ。他にも色々読まないと」
ユーシャがジト目で僕を見下ろす。
「……お前にだけは言われたく無いぞ」
街を出て、道の向こう側が目的地の森だ。
「……ベインとニックの班は、先に出たって」
ノーイルがソギルさんから聞いた情報らしい。
「ちぃっ、先越されたか!」
「だから遅いって言ったのに〜!」
「隊列組んで、そのまま入ろう」
僕が提案すると、みんながいつもの並びになった。
先頭から、ユーシャ、リリア、ノーイル、レイジェル、僕の順だ。
「ノーイル、重くない?」
「……平気、レイジェル達が身軽じゃない方が困る」
ノーイルの役割は荷物持ちだ。ユーシャが索敵と弓、リリアが盾と斧、レイジェルは短剣で、解体したり枝を切って罠を作ったりする。そして、僕が指揮。全体を見て、指示を出す役だ。
ある程度進んだ所で、先頭のユーシャに聞く。
「どう?ユーシャ。居る?」
「……変だ、足跡が荒い。アイツら荒らしたのか?」
「逃したんじゃ無いの?」
「……罠が無いから、逃げられたとかじゃ無いと思う」
弓で射れば、その場で終わる。荒れているのなら、罠から暴れて飛び出した可能性が高いけど、その罠が無い。
「どっち行ってるの?」
「…………北だな、みんなそっちに向かってる」
僕達は今、西の方角に歩いている。
「……南に進んでみよう」
動物達は慌ただしく北に向かって移動している。それは、
ーー北に、欲しい何かがあるか、
ーー南に、居たく無い理由があるか。
「了解。ちょっと落とすぞ」
ユーシャが進行速度を下げる。
みんな、いつもと違う森の様子に緊張していた。
森に入ってから、結界まで半分くらいの所で、ユーシャが足を止めた。
「……ベインとニックだ」
先行していた筈の二人が、こっちに向かって歩いて来た。
「2人だけ?」
「班のみんなは?」
リリアとレイジェルが尋ねる。
「ここから、左右に開く感じで捜索してたんだ。ユーシャが見えたから、待機させて俺達が来た」
「……どう考えてもおかしいからな、みんな北に大移動してんぞ」
2人の班も気付いていたらしい。
「何か見つかった?」
「……いや、何も。その様子じゃレーゼルの所も収穫無しか」
ニックが残念そうに言う。
「どうする?一旦街に戻って報告するか?」
ユーシャの提案。森の様子がおかしいから、報告した方が良いとは思う……でも、
「……原因がわからなきゃ、報告出来ないよ?」
「……確かにな〜、原因くらいは調べたいか」
「ユーシャの所に先行してもらっていいか?俺たちの班は、もう、ここからそれぞれ左右に分かれてるから……」
「展開した状態で捜索出来るな。わかった。レーゼル、いいか?」
「うん」
「あ〜ん、夜のお肉が〜〜……」
リリアが晩御飯に肉が無くなるのを嘆いた。
それを見て、みんなが笑う。
「この状況で食い意地張るなよ」
「胸ばっかデカくしやがって、少しは身長に回せ」
「ひっど〜い!矮人族はこうなるの!そーゆー種族なの!」
リリアが、ぶーたれた。
「行くよ、暗くなる前に終わらせよう」
全員が頷いて、行動を開始した。
何の収穫も無いまま、1時間が過ぎた。
「……レーゼル」
ノーイルが僕を見て首を振る。撤収の時間が近い。
「潮時か?」
ユーシャが残念そうに言った。
「……最後に僕とユーシャだけ先を見てこよう。もう少し進めば結界だしね」
「私達は待機?」
「レイジェルとリリアは、ベインとニックに伝言お願い」
「わかったわ」「おっけ〜」と2人が返事して、それぞれの班に向かった。
「それじゃ、スパッと行くか!レーゼル」
「うん、それでサクッと帰って来よう」
2人で足早に移動する。
結界手前まで行って、何も見つからないなら、もうどうしようもない。それ以上は進めないんだから。
結界柱が見える所まで、あと少し。崖の傍は森が開いて、見晴らしが良くなる。
「お〜〜、絶景!」
「結局、何も無かったね」
見下ろすと、直ぐ傍に川と結界柱が見えた。
大人の身長くらい大きい石の柱で、二つの突起が両手を広げた様に見える。あの手の先にまた柱があって、結界を繋いでいるらしい。
「……つまんない狩りになっちゃったな……」
「……仕方ないよ。獲物がみんなどっか行っちゃたんだから」
「そーじゃなくてさぁ……」
何時もハッキリ言うユーシャが、言いづらそうにしていた。
「……お前、明日成前式だろ?」
「……うん」
ユーシャが何を言いたいのか、何となくわかった。
「貴族になるんだよなぁ……」
「…………そう……なるね」
「……今みたいなの、出来なくなるんだよな」
「……うん」
狩りも、普通に話す事も、一緒に遊ぶ事も、多分出来なくなる。
「でも、僕は自由騎士になるから!……平気だよ?きっと……」
自由騎士は、誰かの為でも無くて、国の為でも無くて、みんなの為の騎士だ。
自由騎士は貴族みたいな上下が無いから、またみんなと普通に話せる。
「……お前は子供だなぁ……」
ユーシャが困ったように言った。
「酷いよユーシャ!ちょっと先に成前式したからって!」
「まったく、レーゼルが将来の領主様とか、大丈夫なのか?この街は」
「だから、僕は……「しょうがないから!!!!」」
ーーーー⁉︎
「……俺が支えてやるよ」
真剣な顔だった。狩りで、獲物を狙う時に似てるけど、全然違う顔だった。
「……ユーシャ……」
「…………頼りなさすぎて、放っておいたら街が潰れそうだからな〜」
「……つまり、ユーシャは僕から街を守るんだね?」
「お前……今の流れでその反応は無いだろ⁉︎」
「冗談だよ」
クスクスと笑う。
気恥ずかしくて、照れ臭くて、少し……寂しかった。
「……ありがとう」
「……任せろ」
こんな遣り取りも、明日からは気軽に出来なくなる。
将来、また出来るようになるかも知れないけど、きっと……ずっと先の事だ。
「……戻ろうか、ユーシャ。ノーイル達が待ってる」
声を掛けたのに、ユーシャから返事が無い。
「……ユーシャ?」
振り返ると、ユーシャが身を落として、手招きしている。
「……何かあったの?」
僕も姿勢を低くして、小声で尋ねる。
「何だ?アイツ」
ユーシャの視線の先に、黒い靄の様なものが見えた。




