『精霊術が出来るまで・その2』
喧々囂々と我が家の談話スペースを賑わす妖精達。
「 “スーッ” でしょ!」
「 “ふ〜っ” よ!」
「 “ドーッ” だ!」
「 “ひゅ〜” !」
どいつもこいつも譲る気が無い上に、主張が感性一辺倒なので話がちっとも進まない。リリアが楽しそうに眺めているが、放置し続ける訳にもいかないだろう。……このままほっといて結論が出るとも思えなし。
シャリアの淹れてくれた紅茶を一口飲み、ほっと一息ついてから、切り出した。
「……よし、わかった」
「「「「やっぱり私のが!」」」」
そうじゃね〜よ、擬音妖精共め。
「先に進もう。神様とやらから届いて、その後は?」
「……最近託宣のあった精霊術に、『投影』というものがあります。それを例にあげましょう」
「……投影?」
「はい。水の精霊術です」
「――ッ!?」
隣りで静かに控えていたシャリアが、ビクッと反応した。
「……まだ通達の来ていない精霊術です」
「…………成る程」
水の精霊使いであるシャリアが知らないという事は、まだ王族から公開されていないという事だろう。先立って情報が得られるのは、その属性の行使者にとって大きなアドバンテージになる。
……ただのラグで、明日明後日にはあっさり通達があるかもしれないけどね。
「託宣で告げられた『投影』の効果は『対象とする生物の心の内面、または考えをマナとして現す』というものでした」
「――えっ!?」
「――んなっ!?」
凄すぎる。つーかヤバすぎないか?
(水の使い手に一切の虚偽が通じなくなる……相当厳しくなるぞ)
――『嘘が通じない相手』。
……人間から見て、この上無く付き合いづらい相手だ。この精霊術が王族から公開されれば、属性が水で固定された長耳族や、その使い手達は確実に距離を置かれるだろう。
(木の《審問》と同じように、公開の範囲は制限されるだろうな……)
そこまで思考を進めた所で、
「そんな事出来ませんけど」
「……あぬ?」
ナチュラルに上げて落とされた。何だ出来ねーのかよ。
「託宣は五精族の能力を考慮せずに告げられます。だからこそ、私達妖精が一度検証し、精霊術として叶う形に直す必要があるのです」
「結構無理難題が送られてくるのよね〜」
「この託宣も、『自身の記憶にある光景を水に映す』という内容に変更しました」
「他人の心を覗くなんて、とてもじゃないけど再現出来ないものね」
「毎度毎度無茶言いやがるよなー」
「………………」
色々と思う事はあるが、考察は後だ。
「神様から託宣が届く。その内容を吟味して、自分達で実現出来るレベルまで落とし込む。……その後は?」
「その精霊術の行使に必要なマナと、『等級』を決めて神様に返します」
「……等級?」
また何か単語が増えたぞ?
「アーリス様、等級とは精霊術士の『格』の事です」
「必要な等級に達していないと、言霊を唱えても精霊は応えません」
シャリアが加わり、等級について解説してくれた。
等級は、精霊術の行使限界を示すもので、より高位の術が使いたければ、契約陣で昇級試験をクリアする必要があるそうだ。
下級:11歳〜 ハ級・七級・六級
中級:13歳〜 五級・四級・三級
上級:15歳〜 二級・一級・特級
と、こんな感じで定められているらしい。
「……あれ? ヘキサで三級なの?」
ヘキサって6じゃなかったっけ? ペンタも5だったような……。
「ああ、人間は一等とか一級とかで、『1』を優れていると判断するみたいだけど、五精族は違うから」
と、ナスタ補足。
「積み重ねた時間・経験という意味から、数字を減らすのでは無く、足す数え方をするのよ」
「人間の社会では馴染まなかったらしく、結果このように乖離してしまったみたいですね」
「は〜……、ややこしいな」
ま、言わんとする所も分かるし、ついていけない程難しい事でもない。寧ろ人間より妖精の方が正しいんじゃねーか、これ?
「………………」
「……シャリア?」
何か視線を感じたのでそちらを見てみれば、シャリアが驚いた表情で俺を見ていた。
「どうした?」
「いえ!……何でもありません……」
「……そう?」
「…………はい」
「……」
俺に何かを感じたように見えるが、聞いても答えない辺り、大した事じゃないか、ここで語る事じゃないかのどっちかだろう。
(……無理に聞き出す必要も感じないし、判断はシャリアに任せるか)
命令や強要は好みじゃないしね。
って事で、話題を逸らす意味も含め、改めて等級に注目する。
「……そいや、年齢で上限があるんだな。シャリアは……六級?」
優秀だし、年齢制限内での最上位を取得していそうである。
「はい、……こちらを」
そう言って、懐から一枚のカードを取り出した。
何だろう? と、受け取って検分してみる。
(…………へえ)
石・木・紙のどれとも適合しない材質の黒いカード。一番近いのはプラスチックだが、アスガンティアにプラスチックは存在しない筈だ。……多分。
その原料不明なカードの表面には、発光する文字で、
氏名と種族。
契約した属性と等級。
職業と資格。その『段位』。
……と、シャリアのステータスが簡潔に書き留められていた。
さながら、アスガンティアの運転免許証といったところか。
「……信頼されてるのね〜」
「はい?」
黙々とシャリアのカードを眺めていると、いきなりパルナさんがおっとりとそんな事を口にした。なんのこっちゃ?
「『能力証明章』は人に見せる物じゃありません。家族にすら秘匿するのが普通です」
「何が出来るかをひょいひょい公開したら、簡単に対応されちゃうでしょ〜?」
「上の人に要求されても、開示するのは必要な所だけよ」
「…………そうなの?」
「……///」
……そうらしい。ばっちり見た上に焼付までしちゃったんだけど……。
「え〜と、有難うシャリア」
「……はい///」
周りからこんな風に評されるとは、思ってもいなかったのだろう。何か果てしなく気まずそうである。
……恥ずかしがるシャリアはとても眼福なのだが、俺まで参加して弄るのは流石に可哀想だ。
「能力証明章って、何処で貰えるの?」
空気を変える事を意識し、何気無い感じで明るく聞いてみる。
「精霊との契約が成立した時か、何らかの資格を獲得した時に、神殿所で発行されます」
「……妖精は対象外?」
ナスタと契約したのに貰ってませんが。
「資格の時は獲得と同時に発行されます。が、契約だけの場合ですと、発行は自己申告になります」
「何でまたそんな……」
一元化しろよ、面倒くさい。
「資格は人間の側の管轄で、契約は五精族の管轄だからよ」
「……どういう事でしょうか? ナスタ先生」
小声で尋ねる。
子供には退屈な話だったのだろう。リリアと……リリアにつられたのか、その上のキサラまで寝てしまった。みんなも俺の態度から気付いたらしい。
「……精霊術は危険だから。五精族は等級で、人間達は資格で制限しているのよ」
声を潜めた。
……まだまだややこしい事情がありそうである。
という事で、porurai様より提供された精霊術は妖精の検閲に引っ掛かっちゃいました。オオウΣ( ̄。 ̄ノ)ノ
ちな、〔 読者=神 〕なんて展開は無いです。




