『精霊契約・3』
「『顔文字』はどうでしょうか?」
「……何それ? って言うか文字じゃない」
「ちゃうちゃう。え〜とだな……シャリア、筆記具ある?」
「はい、こちらをお使い下さい」
楚々っと差し出された紙とペンを受け取って、
『(*゜▽゜)』を描いた。
「……ナニコレ?」
「顔文字ですのん」
「笑ってる〜!」
「確かに記号ですね。少なくとも文字ではないです」
「他にもあるぞ!」
『(^∇^)』『( *`ω´)』『( TДT)』『(o^^o)』
と、顔文字で喜怒哀楽を適当に描いてみる。
「きゃははは! 最後のかわいい〜!」
「私は2番目の方が好きです」
「あんたって、本当に妙な事思い付くわね〜」
「いや、俺が考えた訳じゃ……」
「アーリス、もっと描いて!」
「任せろ!」
リリアにせがまれ、いそいそと知っている限りの顔文字を紙一杯に描き描きしていく。
「よくもまあこんなに……」
「……それで、これをどのように活用するのでしょうか?」
「…………え?」
どうやって使う?
…………どうやって使おう?
(やば……考えて無かった)
リリアがこの顔文字一覧を常時携帯して、精霊が楽しいと思った時は『(o^^o)』の部分にタッチさせるとかか?……駄目だ、めんどくさい。
「……使えない事も無いわよ?」
「え!? マジで!?」
ナスタナイス! 半ば以上没で考えてたのに、活用の道があろうとは!
「精霊に『顔文字で感情を描け』って精霊術で命じれば良いのよ」
「……んな事出来んの? いや、そもそも描けるの?」
「そりゃ描けるわよ。紋章陣は基本的に貴族と契約した五精族が描くものなのよ? 文字は無理でも、線は引けるわ」
「は〜、なるほ……ど?」
納得出来るような、出来んような……。
「……やって見せた方が早そうね。はい」
ナスタが右手の指を立てて自分の頭上を指す。その先に、紫色の線で『(*゜▽゜)』が浮かび上がった。
「――ぶっ!?」
「ちょっ! 何笑ってんのよ!!」
「ぷくくく、いやスマン!」
「も〜〜〜〜っ!!!
ナスタの不満気な声と共に『(*゜▽゜)』が消えた。
「オーケーだ、ナスタ。面白かった」
「楽しませる為にやった訳じゃありませんけど!?」
「そう言うな。……んで? どうやったんだ、今の」
何となく想像は出来るけど。
「どう? って、マナに色を付けて空中に描いただけよ?」
「………………」
……相変わらず、さらっととんでもない事を言いやがるな、この妖精さんは。
「精霊なら誰でも出来んのか?」
「多分、ね。紋章陣の線を描くのと大差無いもの。ちゃんと顔文字を研究して、精霊術として承認されれば、精霊でも描く事は可能になると思うわ」
朗報である。
……が、それはそれとしてだ。
「空中に描写とか、何で誰も研究してないんだ?」
不思議でしょうがない。色々出来そうなのに。むっちゃかっこいいのに。
「精霊術は五精族が考案するものだから、人間が研究出来る訳ないでしょ」
「――えっ!?」
ナスタの発言に、何故かシャリアが驚いた。
「シャリア?」
「……新しい精霊術は、王族から告知されるものです」
「へ? そ〜なの?」
「はい」
広く一般的に研究されてる訳じゃ無いのか?
「先ず、王族から各地の領主へ。その後、領主から精霊と契約した貴族宛に通知が届きます」
「……つまり、精霊術の研究は王族が担当してるって事か?」
「……と、私は考えていたのですが……」
シャリアの説明を求める視線が、ナスタに刺さる。
「精霊術は人間ではなく、五精族が行使するものよ。出来るかどうかの成否は、五精族が検証する必要があるわ」
「……人間には出来ない?」
「意思疎通出来ないのに、どうやって研究するのよ?」
呆れ顔で突っ込まれました。
……出来ない事も無いと思うが。
「ま、やった馬鹿はいるけどね〜」
(あ、やっぱやってるじゃん)
やらん道理が無い。
「死んだけど」
「はい!?」
嘆息しつつ、ナスタは語る。
「勝手にそれっぽい言霊を組み合わせて、精霊に命令したらしいわよ? どんな効果になるかも、どんな影響が生じるかも判らないのに……案の定精霊が暴走して、行使者ごとマナに還ったらしいわね」
「………………」
「そんな経緯から、『五精族が承認していない精霊術の行使を禁じる』と対策が成されたの。人間の側で精霊術の研究は不可能よ」
「……成る程」
精霊術は人間の術では無く、五精族の術。そしてそれは、物理法則の外側にある術で、人間が予測出来る範疇に無い。
研究や探究は、総じて試行回数が物を言う世界だ。安全マージンの確保出来ない状況でやるのはリスクが高すぎる。子供が火薬で遊ぶようなものだろう……そりゃ禁止されるわ。
「……五精族しか研究出来ないのは解ったけど、公開が『王族から』になるのは何でなんだ?」
今の話から、王族と五精族の間に何らかのラインがあるのは明白だ。
……際どいとこかな? 聞かない方がよかったかも知らん。
「………………」
「……言いづらければ言わんでも良いぞ」
「違うわ、……そうね、説明してもらった方が早いかも……」
「……説明?」
「私も詳しくは知らないのよ。担当じゃないから」
「担当?」
俺の声をスルーして、ナスタがその場の全員に指示を下す。
「リリアはそのままで、シャリアは水の領域に。アーリス、あんたは木と土の両方に手を当てなさい」
言ってるナスタは風の領域に向かう。
……何をするつもりなのかさっぱりだが、かなり大掛かりな催しである事は察せられた。
――『契約の紋章陣の全属性を使用する』――
しかも、俺もそこに加わるとなれば、興奮するなと言う方が無理だ。アドレナリンどばどばですよ? 一体何が起こるのでしょうか!
「……全員配置に着いたわね?」
リリア、シャリア、そして俺が順に頷いてナスタの確認に肯定を返す。
「――っ、マナを送りなさい!」
「うん!」
「はい!」
「おりゃ!」
他では見ない五色の紋章陣が、投じられたマナに応じて輝きを増していく。
(おおおぉぉぉ!? すっげええぇぇ!!)
大・興・奮!
紋章陣の明かり以外は真っ暗だった部屋が、五色の属性によって全容を露わにした。
盲目的に四角い部屋だと思っていたのだが、五角形に象られた部屋だったらしい。
……五角形の部屋だったというだけで、何も無いという事実に変わりはなかったけど。
「……ほんと、とんでもないわね」
「ん?」
ナスタが何か呟いた。
……その直後だ。
「うぉお!?」
中央の黒丸から四つの小さい何かが飛び出した。
「なんぞ!?」
「……来たわね。マナを止めていいわよ」
供給を止めて、飛び出したものを凝視する。
「呼ばれて来たぜ、ナスタ!」
「すごい量のマナだったわね〜」
「……眠い」
「……ナスタ? 話が違うのだけれど?」
「ごめんね、シーレ。ちょっと事情が変わったのよ」
ナスタに似た……それでいて別の属性色を纏った喋れる五精族達。
俺の家の契約室に、全属性の妖精さんが集った。
……やっちゃったぜwww
捌けるかな、これ σ(^_^;)




