『精霊契約・その1』
寝坊助してたリリアとトリアを叩き起こした後、みんなで朝食と飲茶を済ませ、そのまま契約室に直行した。
「ここが契約室か!」
「……何興奮してんの?」
「興奮せずにいられますか!?」
前の世界ではまず考えられない用途の部屋。
――『契約室』。
文字通り、契約する為の部屋だ。
夢と浪漫が詰まった部屋だ。
わくわくしながら、いざ! オープン・ザ・ドア!!
「…………暗っ!?」
真っ暗でした。
光源の無い部屋の中、目に付いたのは床一面に描かれた、淡く輝く紋章陣だ……っていうか、それ以外に何も無かった。
(マジで契約の為の部屋なんだな〜)
ズカズカと入室し、暗い部屋の中でやたら自己主張の激しい紋章陣を検分する。
……かなりデカい。直径で5mはあるだろう。
(五色の紋章陣は初めて見るな……)
五角形がベースの紋章陣で、赤、青、紫、緑、黄と、均等に五つのエリアに分かれている。考えるまでも無く、五つの属性を示しているのだろう。
興味深いのは中央の部分で、穴のように黒で丸く塗り潰されていた。……何かを暗示しているような気がするのは気のせいかな?
「早速始めましょ。リリア、契約陣の火の領域に入って」
「う、うん……」
珍しく緊張気味のリリア。抱えていたトリアを床に降ろして、契約陣の赤のエリアに向かって歩いて行った。シャリアもそれについていく。
(本当に大丈夫か?)
《何をそんなに心配してるのよ……平気だってば》
(うう……)
気分は娘の初舞台を見守る父ちゃんである。
……やばい、むっちゃ緊張してきた。
(……貴族なら誰でも契約出来るんだよな?)
《そうね、貴族の血統なら誰でも契約の権利を持ってるわ》
――シャリアに促され、リリアが赤いエリアに入った。
(…………リリアは貴族の血統なんだよな?)
《そうよ、だから安心なさいな。リリアには間違いなく資格があるから》
――リリアが契約陣に両の手をつく。
(………………絶対に失敗しない?)
《やっっかましい奴ね! 大丈夫だってば!!》
――詠唱が始まった。
《……人間の『血統』と、五精族の『血統』では意味が違うわ》
(……へ?)
――「我、五精族に願い奉る」
《五精族が見るのは魂の系譜…… 魂の中に『貴族の因子』が含まれているかどうかを見るの》
――「甲、リリアと」
《この因子は遺伝で引き継がれるから、血族で考えても的外れって事は無いんだけどね》
――「乙、火の属性霊との」
《貴族の因子は五精族が見ればすぐに判るものよ。リリアは間違いなくその因子を持ってる。絶対に成功するから、ぴーぴー言わずに見守ってなさい?》
――「五精の契約を結び給え!」
リリアが契約陣にマナを送った。それに呼応して、火の領域が眩しい程鮮やかな真紅に輝く。直後、ズズっと契約陣の一部が盛り上がった。
(おお、何か出てくる!?)
ワクワクが止まらない。紛れも無く、これは『召喚』だ。
固唾を飲んで見守っていると、その何かは、まるで薄い湯葉を持ち上げるように、ちょこんと可愛らしく顕現した。
(あれ? 何かちっちゃい?)
リリアがマナの供給を止めたのだろう。徐々に輝きが治まっていく。同時に召喚された精霊の外観が浮き彫りになった。
「…………蛇?」
四肢の無い縄状の細長い姿形。
毛髪の類が一切無い滑らかな体躯。
他の形容を許さない程、どっからどう見ても蛇だった。
「……あ、う?」
薄く頬を紅潮させたリリアの喉が、戸惑いの強い音を鳴らす。
「………えっと……」
少し逡巡した後、躊躇いがちに両手を広げて、自分が召喚した精霊を招いた。
「……おいで〜」
精霊はその招きに迷わず応じた。
主人の身体目掛けて一直線に飛翔する。
(――うおぉい!?)
傍から見ると、蛇がリリアに襲い掛かった様にしか見えない。内心かなり吃驚したのだが……、
「おお!?……やった? やった! 契約出来たよ〜!」
精霊を抱き抱えて、ぴょんぴょんと跳ねながら無邪気にはしゃいでいらっしゃる。
……何事も無く、契約は無事に完了したらしい。
良かった良かった。




