『アーリス邸浴場・その3』
20/05/04 ちょい修正
展望浴槽にも当然ジャグジーを導入している。
下の浴槽に比べると、こっちのジャグジーは弱めの設定だ。ナスタの指示によるものだが、俺自身も強弱でどう変わるのか確認したかったので、深く考えずに了承した。
起動して見ると、大き目の気泡がポコポコと出てきた。肌を押すように撫でる感触が中々にグッド。
(……ふむ)
外を眺めながらゆっくりする所だし、強いジャグジーはそぐわない気がする。これはこれで有りだろう。
「御主人様、これを」
「ん?」
俺がジャグジーを検分していると、シャリアが木枠に嵌った水色の壺を差し出してきた。
「……何これ?」
「香油です」
「へ〜」
香油は、アスガンティアの女性が美容の一環で使用するものらしい。髪に艶と香りを付けるのだとか。
直径20cmくらいの円形の木枠。その中央には孔が開いていて、台形の壺がガッチリと固定されていた。
壺の蓋と木枠の端の部分が長い紐で結ばれている。紛失防止かな?
木枠表面には、外した蓋を縦に嵌めて固定するような溝が彫ってあって、その近くに櫛を置く為の場所も付いていた。装飾も凝っていて鑑賞に値する仕上がりだ。
シャリアから受け取り、壺の蓋を外して溝に嵌めてみる。うん、ぴったし。
(どれどれ……)
この形状なら浮くだろう。という事で木枠を湯にそっと浮かせて、どんな香りがするのかと嗅いでみる。
(あれ? これって……)
シャリアを見ると、顔を赤くして自分が愛用している物だと語った。
「あ、やっぱり?」
そうじゃないかと思いました。
溢れるかも知れないから、蓋をまた閉めておこう。
……ん〜、紐が長過ぎるな。なんでこんなに長いんだろう?
「……で、これをどうしろと?」
俺にも使って欲しいのだろうか? 清涼な香りだから別に構わないけど、同じ香りとかちょっと恥ずかしいな。
「……………………さい///」
「……はい?」
「私の髪に塗って下さい///」
「はいぃぃっ!?」
慄く俺に、ナスタが突っ込む。
「当然でしょ? 髪なんて一番手間を掛ける場所じゃない。夫が手掛けないでどうするのよ♡」
「ソシエちゃん、あたしのどれ〜?」
「あ、その噴水の右側に置いてある赤い壺です」
「………………」
俺が呆然としている間に、リリアが自分の香油の場所をシャリアに聞いて、回収に向かった。
展望浴槽の中心部には噴水がある。俺が当初考案していた物とは違い、景観と腰掛けが目的……かと思っていたが、香油などを安置する為の場所でもあったようだ。
シャリアが示した赤の壺を開けて、リリアが中の香りを確認する。
「……うん、これだ! アーリス、あたしはこれね!」
気色満面でバシャバシャと壺を持って走って来た。
「リリア、走るな」
「おぉ……、えへへ///」
相変わらず仔犬みたいな娘である。
「んしょ……」
リリアがシニョンを外し、木枠の上に置いた。シャリアも同じように髪留めを外して、木枠に置く。
「……では、私からお願いします」
「……うん」
前の世界では無かった考え方。習慣や文化の違い。これらは下手に否定したりすると、致命的な溝になったりする。応じるしかないのだが……、
(ナスタ先生、やり方が判りません!)
香油なんて初めて見たし、木枠の方も使い方がわからない。へるぷ! へるぷ〜!
《はいはい、取り敢えず座んなさい》
やったぜ! アスガンティア一受けたい、ナスタ先生の『香油の塗り方』の講義が始まった。
正座して拝聴しよう。
「アーリスはやり方を知らないみたいだから、今回はわたしが指示するわね」
「わかりました」
「先生、お願いします!」
「よろしい。早速だけど、座り方がダメ。後ろを向いて、胡座にしなさい」
「ありゃ」
いきなり駄目出し食らってんじゃねーか。
「……出来ました先生!」
「ん、おっけ〜よ。シャリア?」
「……失礼しましゅ///」
シャリアが俺の斜め後ろに背中を向けて座った。
……何してんだろ? 髪に塗るんだよな……離れ過ぎじゃね?
「アーリス、そのまま身体を捻って受け止めなさい」
「へ? 何を?」
言う間に、シャリアがゆっくりと身体を倒してきた。
(――えっ!? ちょっ!?)
慌てて両手でシャリアを支える。が、体重はかけられたままだ。
(……そのまま寝っ転がりたいのか? って、ちょ!?)
完成した体勢に納得と同時に驚愕する。
「ひょっ……ぬぉ!?」
「シャリア、高さはどう?」
「は、はは、はい! 大丈夫れす!!」
解説すると、俺の胡座にシャリアが背中を預け、仰向けで寝転がった体勢だ。
シャリアも真っ赤になっている。そりゃそうだろうよ、全部曝け出した格好だ。俺も理性が保たないぞ、これ。
(どこを見ればいいんだよ!?)
視線をちょっとズラせば胸が視界に入るし、頭の方に固定すると、羞恥窮まった真っ赤なシャリアと目が合うのだ。気恥ずかしいなんて形容ではとても収まらない。
(せめてタオルか何かで隠させろよ!)
こんなん今後もとか俺が保たん。次回から絶対にタオル巻かせよう。
「次はアーリス、香油の木枠から紐を外して」
「おっ、お、おう! これか!?」
逃げるように辺りを探り、近くでぷかぷかしていた香油壺を手繰り寄せ、紐を手に取る。
「紐で結んである木片を外して」
「木片?……あ、そういう仕組みか」
紐が結んである木枠の側は、その部分がスライドで外れるように出来ていた。パズルみたいでちょっと面白い。
「ほいっ、と……外したぞ?」
「香油はシャリアの向こうに浮かべて。木片をそこからシャリアの腰の下を通して、また木枠に嵌めるの」
「…………へ?」
「これで紐がシャリアのお腹に引っ掛かっるでしょ?」
「………………」
「洗髪の最中に香油がどっかに行っちゃう、なんて事が無いように最初に……何してんの? 早くしなさいよ」
「………………」
――恥ずかしそうなシャリアと目が合う。
――シャリアが目を瞑った。
――耳も顔も熱い。
――シャリアの身体も熱い。
―― 心臓がバクバク言ってる。
――シャリアも吐息が浅い。
(……決めた)
本当に誰が考えたか知らないが、これは効いた。
全身を委ね、預ける女の側もそうだが、受ける男の側にも覚悟がいる。無くても自覚させられる。
――今、此処いる相手は、生涯の番いだと。
羞恥にせよ何にせよ、ここで逃げるような奴は添い遂げるに値しない。覚悟も無く流されて応じる奴は、塵にも劣るだろう。
だから、決めた。
誰にも渡さない。
他には譲らない。
拒まれても応じない。
恨まれても離さない。
(シャリアは俺の『宝』だ)
「……シャリア、通すよ?」
「ひゃ、ひゃい///」
カチコチのシャリアが可愛い。
見えないのをいい事に、口元の歪みを戻さないまま、シャリアのお腹の下に紐を通す。
腰を折って、覆い被さる形で手を回すのだ。胸とお腹に頭を寄せる格好になるのは致し方ないだろう。致し方ないんです!
(……深紋だ)
吐息がかかる程近く、目の前には褐色の肌に浮かぶ赤い紋章陣が見える。
(成る程……流石リンリャス)
描かれた線の軌跡に集中しながら作業に挑む。深紋が無ければ、下半身と上半身の誘惑に耐えられなかったかも知れない。考えられてるなぁ……。
「――っ!?」
「あ、ごめん!」
「ふぃえ、大丈夫です!」
ぴくり、と身体を動かしたから反射的に謝ってしまった。落ち着けよアーリス。
(んで、木枠に戻す……と)
紐が輪になってシャリアの胴に引っ掛かる。これで香油が迷子になる心配は無い。作業完了だ。
「……成る程、だから無駄に長い紐が付いてんのか」
「どこに引っ掛けても良いけどね〜。次は髪を櫛で梳きます。シャリア〜?」
「……///」
シャリアが頤を上げ、髪を湯に浸した。
(…………誘惑強え……)
俺に載ったまま頭を下げたのだ。自然と胸部を突き出す姿勢になる。
……綺麗な形してます。むっちゃ触りたいです。
「……いくよ? シャリア」
「――ッ! ど、どどどどうぞ///」
誤解するような物言い。わざとである。
(いじめ甲斐があるな〜)
いちいち反応が微笑ましい。
……あんまやり過ぎて嫌われるのも困るな、気を付けよう。
「櫛の使い方に注意とかある?」
男は兎も角、女の場合はなんかありそう。
「乾いた髪にそのまま使用しない事! 頭皮に立てて使用しない事!! 毛先の方から少しずつ梳いていく事!!! 髪の根元から持ち上げるような使い方しない事!!!!」
「……了解です」
日常の俺じゃねーか、危ね〜。
木櫛を斜に構えて、湯の中で漂うシャリアの黒髪を、毛先の方からちょっとずつ梳いていく。
「あっ///」
「……」
「……んっ♡」
「…………」
「……上手いわね、アーリス」
「おぉぉ、ソシエちゃん気持ち良さそう……」
「………………」
補足するが、俺は髪を梳いているだけである。
(なんだこの状況?)
肌の露出面積100%で、俺の上に乗って目を閉じて喘ぐ少女。……端的に表現するとますますエロいな。
色々と眼福だが、女性は視線に敏感らしいし、側にはリリアも居る。軽挙な行動慎むべきだろう。
「……ん、そんなもんでしょ。身体を起こしてあげて」
「おう」
櫛を木枠に戻し、シャリアの首に手を回す。
(うわ〜///)
凄い体勢……他の夫婦は絶対ここでキスしてる。
(……しちゃう? どうする?)
嫁さんだし、俺の方も自覚したし、覚悟も決まったのだから、積極的にアプローチしていくのはアリだと思う。
(でもリリアが見てるしなぁ……)
人(子供)の前で行うのはどうよ? と良識さんのジャッジが入る。
「……あ、有難う御座います///」
「…………うん」
結局そのまま起こしてしまい、完全にタイミングを失ってちょっと気落ちする俺。超ダセェ。
「アーリス、起こしたら次は香油を開けて」
「ん」
櫛で髪のお湯を梳いて落とした後に、香油を付けて馴染ませていくらしい。櫛大活躍。
(……結構楽しいな、これ)
見違える程に艶が出てきた。香りもいいし、何というか『綺麗にしてる』感がひしひしとします。
シャリアも大分落ち着いてきたようだ。真っ赤だった耳の色が戻ってきた。
「最後にお湯をかけて、香油を流します」
「……え? 流しちゃうのか?」
「髪が少し吸うから、その分だけ残ればいいのよ」
「あ、そういう風に残すのか」
紋章術や紋章陣は、ごく一部の特別なものを除いて、基本体内までは効果を及ぼさない。普通なら《浄化》のお湯をかけたら全部落ちてしまうが、髪が吸った分は体内の判定になるのだろう。
「……はい、終了〜。合格よ、アーリス」
「やったぜ」
「御主人、有難う御座いました」
「いえいえ」
突発の緊急ミッションだったが、無事に乗り切れたようだ。
「じゃあ、次はリリアの番ね♡」
「は〜い!」
「………………へ?」
目をキラキラさせながら、赤い壺を差し出してくるリリア。
「はい! あたしの香油」
「…………はい」
ちっこいのにシャリア以上の標高を誇るリリア。間違いなく強敵である。
(……よし!)
気合い一発。吹っ切れたO型に怖いものなんぞ無い。
胡座の敷いて、獲物を待ち構える。
「準備オッケーだ、来いや!」
「わ〜い!!」
……ホント、次は絶対タオル巻かせよう。
20/05/04
ちょっと確認に読みに来たら、下書き消さねーで投稿してたw
感想にあった「説明不足です」ってこれか、勘違いしてました。m(_ _)m
ってな訳で削除。描写も読み返すと甘いなぁ……。ちろっとだけ追記・修正しました。
まだ直したい所があるけど、後日で。




