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金?の力で無双する異世界転生譚  作者: 世難(せなん)
第三章 〜『胎動』〜
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『常識』

 ナスタの本は気にしない事にした。何を好き好んで爆弾でお手玉せにゃならんのかと……。慎ましく長生きさせて下さい。


 そんな訳で、シャリアから台車をリースした俺は、作業効率を飛躍的に向上させる事に成功。午前中で順当にノルマを達成し、少し早めの昼食をとる。


 その後、自室で書類の整理と確認作業を開始。


 案の定山積みになっていた書類の一角を、ひーこらせっせと一つ切り崩したところでタイムアップ。夕食の時間になった。



 シャリアの手料理で消費したカロリーをがっつりと補充し、食後のお茶タイムで今日の献立についての感想を語り合う。



「美味しかった! ソシエはお料理上手だよね〜」

「相変わらずの贅沢メニューだったな……」

「最後のゼリーは脳裏から絶対に消しちゃダメよ! 私が繰り返し楽しむんだから!!!」

「……太るぞ?」

「あ〜り〜得〜ま〜せ〜ん!」

「ナスタちゃん、い〜な〜……」



……と、そんな時だった。



「御主人様、お風呂の準備が整いました」



 爆弾が投下されたのは…………。






 ここで、常識について語ろうと思う。


 常識とは、2つ以上の個体が、ある特定の物事に対して共通の認識・見解を示す事だ。


 これが食い違う時に争いが発生し、参加する個体数と対象への執着の度合いが増す毎に、被害の規模が大きくなっていく。


……が、人間は理性を有する。素敵やな。


 我慢が出来て、相手に合わせる事も可能な生き物だ。余程の事でもない限り、争いへ至る前に討議が試みられるだろう。


 重要なのは、相手の主張に耳を傾ける事。自身の価値観に執着せず、理性を保って判断を下す事にある。感情に任せてしまうのは大変よろしく無い。




……と、頭では解っているんだけど、



「なんで一緒にお風呂!?」



 肝心の理性を揺さぶられるとどうしようも無いのだった。



「なんで、って……普通でしょ?」

「何が!?」

「お嫁さんをお婿さんが洗うのが」

「初耳!!」



 呆れ顔でナスタが語る。



「シャリアもリリアもあんたの『物』なんだから、ちゃんとあんたが磨きなさいよ」

「その『物』扱い、無性に気に入らないんだけど……」



 個人の権利も尊厳も無視した考え方。


 平気でなんの葛藤も無く『奴隷』なんて存在を容認出来る奴は、本気で頭がおかしいと思う。



「なんでよ? あんたなら大事にするでしょう?」

「大事にはするけど、そういう問題じゃないだろ!?……そもそも、仮宿にいた時はちゃんと別々に入ってたじゃないか!」

「仮宿は借家で、あんたのものじゃないでしょーが! 此処はあんたの家で登記も完了してるし、戸籍にも3人の名前が書かれているのよ? さっき書類で確認したでしょ!」

「ぬぐっ!?」



 登記とか戸籍とか……想定外の切り口で返してきやがった。



「いや、しかしだな……」

「わっからない奴ね〜っ! 自分の『宝物』を磨くのは権利じゃなくて義務なの!」

「だから!………………は? 今なんと?」

「権利じゃなくて、義っ務っ!」

「いやその前」

「……宝物?」

「………………」



――思考停止なう。



 一旦止まって遡って捏ねくりして再起動。



(『宝物』!?)



 斜め上で予想外な単語。遥か上空でマニューバかまして離れていくくらい、俺とナスタの認識は見事にすれ違っていた。



「待って待って! なにそれこそばゆい!?」

「あんたの嫁なんだから、あんたの『宝物』で間違いないでしょうが!」

「いや、間違って無いけどちょっと待って!」



 泣き落としに近い懇願で時間の確保に走る。


(嫁=宝物とか、アスガンティアさん!?)


 これがこの世界の常識なのだろうか? まさか、こんな寓意が含まれていたとは、思いも寄らなかった。



『君は僕の宝物。』



 若いと言うか、青いと言うか……恥ずい。


(これ、あれだよね? 俺が一番(よこしま)だったって言う……)



〔嫁=物=奴隷〕



 では無く、



〔嫁=宝物=大事にしようね♡〕



……こういう事らしい。


(あかん……俺、知らない間にヨゴレてた)


 スケベ大国とか呼ばれてた場所で育った弊害だろう。或いは、その手のものを読み過ぎた所為かも知れない。


 いつの間にか歪んでいた自分の常識に、両手で頭を抱えて胸中で呻いた。ぬぉぉぅ……。




「……その様子だと、やっと理解出来た?」

「……はい」

「……あの、御主人様? 湯殿が冷めてしまいますので……」

「……はい。直ぐに行きますので、先に入ってて下さい」



 物=宝物なのであれば、強く否定するのも憚られる。2人にも異論が無く、『嫁を大事にする夫の務め』となれば、応じざるを得ない。


……だけど、



「……ナスタさん」

「……今度はなに?」



 2人が完全に離れたのを確認してから、改まってナスタに質問する。


……凄く聞き辛いが、



「洗うって、一体何をすれば良いのでしょうか?」



 女の子の洗い方なんか存じません。経験も御座いません。



「……頭からお湯をかけるだけでしょ?」


「はい?」


「『浄化』にマナ石を置いて、手桶でお湯を掬って、ゆっくりとかけてあげるの」


「………………」


「………………」


「…………終わり?」


「……他に何かあるの?」


「………………」



……本当にヨゴレていたらしい。


(そういえば、アスガンティアのお風呂はそうでしたね……)


 湯船に浸かれば綺麗になれる紋章式お風呂。


『スポンジでごしごし』みたいな、理性の限界に挑むようなイベントが生じる余地は、微塵も無かったようだ。


(良かった〜、大した事無いじゃん!)


 お湯をかけるだけで良いなら余裕である。2人には散々世話になっているし、大事にジャブジャブかけてあげよう。



「――よっしゃ! 行ってくる!」




……この時の俺は、問題が途中から変わっている事に、本気で気付いていなかった。

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