『マイホーム』後編
精霊建築の時は見張り塔へ繋がる道しか無かったが、建設の際に道の整備も同時に行ったようだ。俺の家まで続く並木道が、途中から枝分かれて追加されていた。
道の両脇には樹木が整然と並び、平原が一面に広がる北西地区で、その一画だけが明かに浮いている。
《へ〜、結構良い仕上がりじゃない♡》
呑気にそんな感想を漏らすナスタ。
(アレが俺の家?)
至るまでの道もそうだが、柵の内側諸々と占有面積がデカ過ぎる。精霊建築の時の紋章陣は、邸宅そのものの大きさを示すだけに過ぎなかったようだ。
(デカすぎ、広すぎ、分不相応だろ。もっとこぢんまりしてていいのに……)
THE・庶民な私。
贅沢=敵な価値観が拭えず、落ち着かない俺をよそに馬車はかっぽかっぽと進み、門の前まで移動した。
(こwれwはw)
見上げて思わず草。
立派なアーチ型の門構えに、ごろにゃ〜とニャンコの像が鎮座ましましていた。
双尾の猫像。トリアの像である。
(家紋って、こういう使い方もされるのか……)
カールネスと打ち合わせた時に確認されたものの一つだ。
家名を獲得した者は、同時に家紋も定めるらしい。
動物、植物、物品、etc……と、良俗に反しなければ何でもいいそうなので、我が家のマスコットと化した「猫で!」と返答したのだが……、
「かわいい〜!」
「ええ! 何度見ても素晴らしいです!」
「みっ!」
嫁‘sと御本尊には好評らしい。確かに可愛いけど、何だろうな? 何かが違う気がする……。
「《開門》」
隣りで轡を振るっていたシャリアが、右手を上げて紋章を閃かせた。
ギギギッと正面の門が勝手に開く。
「おお、なんと⁉︎」
「勝手に開いたよ?」
《紋章錠。貴族が所有する邸宅なら普通よ》
今のがそうなのか……知ってはいたけど、実際に見たのはこれが初めてだ。ワンダフルすぎる。
(……でも、領主館で使ってる場所見た事が無いぞ?)
こんな便利そうな物を最重要施設に採用しないとは是如何に?
《制約が厳しいのよ。紋章錠に登録出来る紋章は一つだけ。多人数が出入りするような施設には使えないわ
》
……そういう事か。
(開閉出来るのは紋章登録者の縁者だけ?)
《そうなるわね〜》
アスガンティアで言う縁者は親類筋を含まず、縁を結んだ当人同士のみを示す。俺の場合だと、シャリアとリリアの二人だ。
(それって、来客の時にはどうすんの?)
《門の傍に有る紋話陣で遣り取りするのが一般的。連絡が来たら、家の中から開門して中に招くの》
ナスタの説明から俺が連想したのは、高級マンションの受付だ。部屋番号押して中の住人と話して、入り口の鍵を開けて貰う感じのやつ。
(遠隔操作とかハイテクだなぁ……)
《……はいてく? 良くわからないけど、遠隔操作は紋話の応用よ? 領主の管理下にある建築物にしか使えないけどね》
左様か。何にせよカッコいいです。手を翳して「オープン・ザ・ドア!」とか、14歳魂がうずうずします。
《……あんたも出来るわよ?》
「マジで⁉︎」
「わ⁉︎」「御主人?」
「いや、すまん、何でもない」
いきなり声を上げたから吃驚させたらしい。許せ。
《アーリスが閉門してみたいんだって》
《……? わかりました。門を抜けたら少し止まりますね》
《やっちゃえアーリス!》
馬車の中は兎も角、御者台は相応に揺れる。舌を噛まないように、ナスタ管轄下で念話する一同。
これこれとナスタとシャリアに指南を受けて程なく、門を抜けた馬車は斜め向きに停止した。
門が一望出来る位置。そこから門を隠すように手を翳し……、
「《閉門》!」
唱えた。
ゴゴゴッと難なく門が閉じていく。
「…………うむ!」
アスガンティアに来て、初めて異世界っぽい事をした気がする。むっちゃ楽しい。
「有難うシャリア、行って良いよ」
「はい、では進行致します」
再びかっぽかっぽ。
(俺の登録って、ランフェスに渡したあれ?)
再び走り出した馬車に揺られながらナスタに聞いてみる。紋章での登録となると、俺が仮宿で最初に起きた時の、あの紙以外に心当たりが無い。
《そ、紋章紙。使えるのは3回まで》
(……3回?)
《何回も使える訳無いでしょ? 紙に残ったマナが無くなったら終わり。あの時の量だと当主登記、家紋登録、紋章錠の3つが限度ってところね。後で運用履歴が報告される筈よ》
《あの……その件でしたら、既に報告が上がっております》
(そうなの?)
《はい。御主人様の執務机に書類は全てまとめてありますので、後でご確認下さい》
(了解)
『まとめてある』か。確認しなきゃいけない書類が山程ありそうだ。
「また暫くの間缶詰め生活かな〜」と、胸中で覚悟を決めていると、目の前に『跳ね橋』が見えた。
(……嘘だろ、おい……)
しかし、考えてみれば当然だ。家の周囲をぐるりと堀で囲むのなら、その堀を渡る為の橋は必須となる。
……橋はわかるけど、何故に跳ね橋?
(入り口に跳ね橋のある建物って、城しか思いつかないんだけど……)
素人目に見ても、病的なまでに守衛を念頭とした造りだ。
……一体何と戦うつもりなのだろうか?
(………………)
見る分にはいい。
しかし其処に住むとなると感覚がまるで違う。
前の世界で「今日からここがお前の家だ!」と、どっかの城に連れて行かれて、何の葛藤もなく受け入れてそこに住める奴はまずいないだろう。
ここよりも大きい領主館で生活していた経験はあるが、家族だけでなく従者や守兵達がいたし、ある程度自由に出来るのは私室だけだった。家というよりは、ワンルームマンションのような感覚が近い。
――占有とも言えるような並木道から入り、
――遠隔操作で開閉出来る立派な正門を抜けて、
――視界を完全に遮る密度の雑木林を進み、
――堀の上を渡す跳ね橋を越えた所にある家。
……領主館と同じ感覚で居住するのはちょっと厳しい。無理です、ええ。
(慣れるのにどれくらいかかるかな?……ま、深く考えずどっかで開き直………………)
「れぇぇ⁉︎」
「はい⁉︎」「わにゃ⁉︎」
俺の奇声で右に曲がろうとした馬車がヒヒンと急停止した。
「どうかなさいましたか⁉︎」
「あっち、あっち!」
10歳どころか5歳なレベルで左側を懸命に指差す20歳。
「庭園に何か?」
「庭園⁉︎」
ガーデンまであったよ⁉︎ 素敵!
「お気になるのでしたら、馬車を馬房に入れた後、散策なされますか?」
「散策なされます!」
何というサプライズか!
wktkで胸が高鳴ります!




