転生者達
リリアの親父さんから預かった紅玉の意匠を、自室の棚に布で包んで丁寧に保管する。
(いや〜、凄え細工だったなぁ……)
装飾品の類いは大好きだ。アスガンティアに細工や彫刻などの高水準の芸能文化がある事に、改めて感動した。
芸術は余裕が無ければ生まれない。衣食住とは違い、生存に必要な行いでは無いからだ。
多くのファンタジーでは外敵が存在する。脅威を排除しきれないまま、芸能に費やす時間があるとは到底思えないのだが、それでも当然として描写されるは、人間の必須欲求として認知されている証明と言えるだろう。
(いいねぇ、人間)
合理を望みながら、非合理を突き詰めるような矛盾。よくわからん衝動が生み出した無駄の結晶、『芸術』。この無駄に価値を見出し、感情を動かせるのが人間なのである。う〜ん、すばら!
「アーリス? ご飯にしよ〜よ」
「お? 出来たか」
自室で耽っていると、リリアが昼食に呼びに来た。
セベックとの話の後、リリアの荷解きを皆で手伝ったので、結局お昼は13時にズレ込んだのだ。
「あたしも手伝ったんだよ!」
「えらいぞ〜」
と、リリアの頭を撫でてやる。
「へへ〜///」
無邪気な照れ笑い。
褒められて嬉しいと喜ぶ、子供の笑み。
(……婚約、ね)
シャリアもリリアもまだ子供だ。身体……は兎も角、精神が未成熟な状態で相手が決まる事に、未だに違和が拭えない。
(でも、そんな世界なんだよな)
幾ら納得が出来なくても、俺に世界を変えるような力は無い。前の世界と同じように、自分の周りだけで手一杯だ。
(……頑張んなきゃな)
泣かせないように、精一杯……自分でも何を頑張れば良いのか、全然判っていないけど。
……頑張ろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
同刻、旅装で身を包んだレドルは、北のバドムへ続く街道を歩いていた。
(収穫だったな)
先の楽しみな子供だった。
同類で無かったのは残念だが、そんなものだろう。
100年以上の時を掛けて未だ1人……やはり、そう簡単に見つかるものでは無いらしい。
(あっちはどうかね?)
周囲に人がいないのを確認してから紋話を繋ぐ。
「《ネウレスか?》」
「《お前か……何のようだ?》」
……随分と機嫌が悪そうだ。
「《いや、ただの世間話だが……なんかあったか?》」
「《…………妹が、な》」
(またか)
『重度のシスコン』。
転生前からそうだったらしく、文字通り死んでも治らなかったらしい。
純血統貴族はその血統を維持する為に、身内親戚内で回すように番いを決めている。
シスコンのネウレスは妹が可愛くて仕方ないようだ。妹と婚約出来る環境に狂喜する様は、100年を生きたオレでも引く程だった。
「《今日はレーナの成前式だったんだ……レーナが産まれた時から成名を考えていたというのに、その成名を断られたんだぞ⁉︎》」
(キモい)
何故、オレは世間話の相手にコイツを選んだんだろうか?
(妹が絡まなきゃ真っ当なんだがなぁ……)
「《酷いとは思わないか⁉︎「成名は運命の人に付けて貰いたい!」なんて言っておいて断るなんて!》」
(そりゃ、妹の思う運命の人とやらがオマエじゃないからだろうよ……)
指摘しても聞く耳持たないので口にはしないが。
「《ミヤと名付けよう思っていたのに……絶対似合うのに…………》」
何かぶつぶつ言い出した。
……まったく、心底繋ぐんじゃ無かったな。
「《そうか、大変だったな。それじゃあ……》」
「《……待て》」
聞くに耐えないので何時ものように切ろうかと思えば、珍しく留められた。
「《何だ?》」
「《今何処だ?》」
「《フロード領だが……》」
「《東に何かあるか?》」
「《あん?》」
漠然とし過ぎだ。それではまるでわからない。
「《何かって、何だ?》」
「《いや、レーナが東方の領に興味を抱いているらしくてな……》」
「《ふむ……》」
街道から外れ、背荷の袋から大陸図を取り出し、適当な巨木の下でそれを広げた。
「《領の名は出たか?》」
「《いや……ただ、中央よりも東の領に何かがあるらしい》」
「《……何だそりゃ?》」
地図を開くだけ時間の無駄だった。それだけじゃ何の指針にもならない。
「《わからないんだよ! 東の空を眺めてうっとりしているんだ!》」
「《……わかった、何か見つけたら知らせてやる》」
「《本当か⁉︎ 頼むぞ、私とレーナの――》」
途中で切った。
「貴族の令嬢の興味が何処にあろうが、オレの知ったことじゃ…………」
そこで気付いた。
(いや……確かにおかしいな)
流行は中央から生まれる。純血統貴族の娘の関心を惹くものが、中央より東にあるとは思えない。
(……『謎』だな)
どんなにくだらなくてもいい。
きっかけは何でもいい。
楽しめればそれでいい。
(中央よりも東となると、ラロード、シャロード、ノアロードと、フロードか)
何か新しい兆しがあるかも知れない。
(順に回ってみるか)
時間は幾らでもある。
何度でもやり直せる。
レドルの特性は正直ハズレだ。
今回は適当に流してプレイすると決めているし、次のイベントまでのんびりと旅を楽しむ事にしよう。
(5年後に会おうぜ、団長殿)
フロード・レブズの解放。
終末の災神、アーデベルシャールの討伐。
歴史の変わる瞬間だ。
参加出来ないまでも、是非近くで拝聴したい。
開いた地図を丸めて、レドルは再び北への歩みを踏んだ。
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アスガンティア大陸の最西に位置する『メロード領』。
純血統貴族達の総本山。
白銀の領主館は、その貴族達の自尊心を反映するかの如く、周辺に住まう者の心証を顧みずに聳え立っていた。
その領主館の3階、領主一族の私室が並ぶ西居住棟の一室に、慌ただしく一人の侍従が駆け込んだ。
「レーナお嬢様! また問題を起こしたのですね⁉︎」
「え〜、覚えが無いよ?」
間延びした声で銀髪の少女が振り返る。その口には、最近中央から伝わってきた棒飴が咥えられたままだった。
「お嬢様! だらしがないですよ!」
「ナジャも舐める?」
「要りません! それよりも、成前式で成名の授与を断った、と伺いましたが……」
「うん! だって成名は運命の人に付けて貰いたいもの!」
「またその様な事を……ネウレス様が「兄様は放って置いていいよ、気持ち悪いから」」
実兄への不快を隠しもしない。貴族であるにも関わらず、感情の抑制が未熟すぎる。
……確かに気持ちの悪い人だけど。
「そんな事より、部屋の確保は出来た?」
「はい。ですが純血統のお嬢様が精霊との契約を試みるなど……」
純血統とは、銀髪に金色の瞳を持って産まれる血統の事だ。少しでも他種族の血が混じると、この外見特徴は二度と発現しない。
またもう一つの特徴として、精霊と契約出来ないというものがある。もっと有用な『属性術』が使える為、契約など本来は必要無いのだが……。
「いいの! 契約してみたいんだもん!」
純血統貴族が精霊と契約を成した前例は一つも無い。試す価値もない事なのだが、このお嬢様は一度決めたら梃子でも動かない。
「……わかりました。準備は整っています。どの属性との契約をお望みですか?」
「ん〜……よくわかんないから、適当でいいわ」
「適当、と言われましても……」
レーナは己の望みを口にした。
「精霊みたいなのなら何でもいいの!」
【その望みは叶う】
【特性がそれを叶える】
……その日、レーナは精霊みたいなものと契約した。
側で控えていたナジャは、その精霊の異形を怯えながら間近で見ていた。
黒い靄で象られた多脚の怪物。
大凡、生物としての形を成さぬ化物。
――その怪異に、レーナが命じる。
「『アニマ』! マナを集めて、全部私に寄越しなさい!」
レーナは己の欲求を偽らない。
自分が幸せになる為なら手段を選ばない。
「ふふふ、ナジャ! マナを集めて東に行くわよ!」
レーナには誰も逆らえない。
彼女が望めば、東進は覆らない。
ナジャは、レーナを止められる者が何処かに居る事を願うしかなかった。
少々駆け足でしたが、第二章・完!
ここまでの読了、お疲れ様でした。
どっかの後書きで予告しましたが、これから加筆・修正作業に入ります。
序盤の読み返しが厳しいんですよ!(書いたの私)
そんな訳で私の為(最重要)に読み易いように修正します。
期間は一月一杯。
第三章は二月の予定です。(……多分守らないな。途中で我慢出来ずに投稿する気がする)
投稿と修正、並行出来ればいいんですが、そんな時間もスペックも無いのです。すまんの、気長にお待ち下さいませ。
序盤の修正ですが、話の筋は変えないので、読み返しの必要は無いです。多分。
後は……話数が100を越えましたね。(無駄に)
著者の執筆&購読環境がスマホ、かつ仕事の合間に読み返せる文量(8分)なので、必然一話の長さはそれに合わせた感じになってます。
とは言え、スクロールよりページ遷移の方がかったるいので、どっかの話は纏めるかもです。まだ作中一月と経ってないのに100話いっちゃったし。このままだと500話とか平気で越えそうだし。
ネット小説で500話オーバーとか引きません?
……私は平気で読めそうだけど。
……今は書くのに忙しくてそんな暇無いけど。
もうそれっぽく零してますし、暴露っちゃいますが、この作品、完結には『アーリスの成人が必須』となります。
……何年かかるの?
流石に息切れが想像に難く無いので、これからポンポン時間経過早める予定です。
他者視点減らせばいいんだけどね〜。
私が読みたいんだ!(しょうがないね)
こんな感じで、フラグばっか立てて完結の気配がまるで見えない本作ですが、時間に余裕のある方は今後も宜しくお願い致します。
定例の章末後書きでした。 世難




