2.家族会議を開催します
シェリーの家族構成が明らかになります。
シェルストリア王家には決まり事がある。
それは晩ごはんは家族必ず一緒に食べることだ。シェリオルが「食事は家族で食べた方が美味しいわ」と言ったのが始まりだ。シェリオルを溺愛する家族は二つ返事で実行したという。
シェリオルが食堂に入ると家族はすでに揃っていた。今日は孤児院に訪問をして子供たちと遊んでいたら、帰るのが遅くなってしまったのだ。
「ごきげんよう。お父様」まずは国王である父ウィルフリードに挨拶をする。水の都シェルストリア王国国主ウィルフリード・セルフィン・シェルストリア。白金の髪に青い瞳の精悍だが整った顔立ちをしている。
「今日はご苦労だったね。疲れただろう? あとパパと呼びなさい」
「いいえ。楽しかったですわ、パパ。ごきげんよう。お母様」
次に父の左隣に座る母。王妃シーナ・セラフィン・シェルストリアに挨拶をする。風の都ウィンディール王国の元王女で、蜂蜜色の髪に緑の瞳をした母は絶世の美女と名高い。
「お疲れ様。シェリー。あとママと呼びなさい。さあ席に着きなさい」
「分かりました。ママ」
父の右隣には兄のレオポルド、シェリオル、弟のカインと席が続いている。
兄と弟は父譲りの白金の髪に母譲りの緑の瞳をしている。シェリオルも髪の色は白金なのだが、瞳は父より薄い青、アクアマリンの色だ。母に似た容姿で美しいのだが、どちらかというとシルフィーナに似ている気がする。神の愛し子は神と同じ部分があるという言い伝えがある。シルフィーナは教えてくれなかったが、案外真実ではないかとシェリオルは思っている。
シェリオルは自分の席に向かうと両隣の兄弟に挨拶をする。
「ごきげんよう。お兄様。カイン」
給仕係が椅子をひいてくれる。兄レオポルドがシェリオルに顔を向けると、母似の緑の瞳にシェリオルの顔がうつる。
「シェリー。今日は楽しめたようだね」
「ええ。お兄様。子供たちが可愛くて、つい長居をしてしまいました」
兄のレオポルドは今日も素敵だ。抱きついて頭を撫でてもらいたいのを我慢するシェリオルだった。
「姉上、僕も今度は一緒に行きたいです」
シェリオルは椅子に腰かけながら、カインに微笑みかける。
「今度行く時はカインのお勉強が終わるまで待っていることにするわ」
「約束ですよ。姉上。楽しみだな」
天使のような笑顔のカインが可愛くてたまらない。抱きしめてわしゃわしゃしたいのを我慢するシェリオルだった。
(あとで兄弟でお茶をしましょう。その時に思う存分スキンシップをするわ)
全員が席に着いたのをウィルフリードは確認すると厳しい顔つきになる。シーナも表情が厳しい。いつもは優しい父母がどうしたのだろうと兄弟の視線がウィルフリードに集まる。
「食事が終わったら、全員私の執務室に来なさい。家族会議を行う」
「私室ではなく、執務室ですか?」
レオポルドが兄弟を代表して父に問う。声が緊張している。家族会議はいつもウィルフリードの私室で行っているからだ。
「そうだ。大切な話がある」
それきりウィルフリードは黙ってしまった。いつもは賑やかな食卓なのだが、今日は誰も話題を出すことなく、晩ごはんの時間が終わった。
国王の執務室に行くとウィルフリードは執務机に肘をついて難しい顔をして3人を待っていた。シーナはウィルフリードの隣に立って同じように難しい顔をしている。
「3人ともまずはソファに座りなさい」
レオポルド、シェリオル、カインは3人掛けのソファに腰をおろす。侍女がお茶を持ってくると「あとはわたくしが」とシーナが後を引き継ぎ、退室を促す。
「人払いはしてある。本題に入ろう」
ウィルフリードは机の引き出しから1通の手紙を取り出した。
「これはアルカ=トルゴ帝国からの信書だ。内容は来月行わる四大国会議にシェリオルを私の名代として出席させるようにとのことだ」
シェリオルはシーナが淹れてくれたお茶を吹き出しそうになる。
「ゴホッ! わたくしがですか! 国王であるお父様ではなく!? ゴホッゴホッ! 王太子のお兄様でもなく!?」
四大国会議は国主が出席するのだが、代わりに次期国主が出席することもある。シェルストリア王国は女性にも継承権が認められているが、王太子であるレオポルドは優秀だ。次期国王はレオポルドに決まっている。
(お兄様が愚兄なら、わたくしが女王になってたかもだけど。でもお兄様が愚かだとしても、弟のカインも愚弟ならともかく優秀だから、わたくしが女王なんてあり得ないわ)
「シェリー」
「姉上」
「「今、何か失礼なことを考えただろう?(でしょう?)」」
レオポルドとカインが口をそろえてシェリオルを見やる。
「え? そ、そんなことありませんわ」
(なんで考えてることが分かったのかしら?)
咄嗟にシェリオルはごまかすが、明らかに動揺している。
「「あひる口になった時はろくなことを考えていないから」」
(そんなくせが自分にあったのね! 全く自覚してなかったわ。今度から気をつけよう)
「3人ともいい加減にしなさい。今は家族会議の最中だ」
子供たちのやり取りを見てほのぼのしてしまう父母だったが、ゴホンと咳払いをして窘める。
「失礼いたしました。父上。話を続けてください」
いつも兄弟を代表して謝るのはレオポルドの役目だ。
「うむ。そこで皆の意見を聞きたい。この信書に深い意味があるのか?」
最初に意見を出したのはレオポルドだ。
「アルカ=トルゴ帝国の皇帝サラムとは風の都ウィンディール王国に留学した時に学友だったことがあります。あいつはシェリーのことを話す度に会ってみたいと言っていました」
火の都アルカ=トルゴ帝国の皇帝サラムとレオポルドは16歳の時に、風の都ウィンディール王国に同時期に留学していたことがあった。同じ年のサラムとレオポルドは気が合い友となった。彼らは1年だけだが、ともに学び、時にはハメを外して遊んだり、仲が良かった。サラムは帰国後、わずか17歳で皇帝となり善政をしいている。
アルカ=トルゴ帝国は国力ではシェルストリア王国に負けるが、軍事力は四大国一だった。
「あいつが名指しでシェリーを招いたってことは! まさか結婚させろとか!? 許さん!」
激昂したレオポルドの言葉にウィルフリードとカインはプルプルと拳を握りしめ、すうと息を吸うと同じく激昂した。
「姉上は渡さない! 姉上はこの国の神の愛し子なんだ! 他国に嫁ぐとかあり得ないよ!!」
「パパは結婚など許しません! シェリーはずっとこの国でパパたちと暮らすんだ! ずっと独身でもいいから!!」
溺愛ぶりが重いが、心配してくれているのは分かるので、シェリオルは素直に嬉しい。
激昂している男たちとは裏腹に母は冷静だ。
「シェリーはどうしたいの? 四大国会議に出席するか否かは貴女が決めていいのよ」
「わたくしは……」
シェリオルは立ち上がると扉へ向かう。家族が訝しげにシェリオルを見る。
「「「「シェリー?」」」」
「神殿に行ってシルフィーナ様に相談してきます!」
神殿に向かって一直線に走り出したシェリーだったが、途中で転移魔法が使えることを思いだして、神殿の奥宮を思い浮かべる。
執務室に家族を残して飛び出してしまったが、あとは母がなんとかしてくれるだろう。
家族の溺愛ぶりがすごいです。




