1.王女に生まれかわりました(シェリオル視点)
ここから本編に入ります。
皆様、ごきげんよう。私は水の都シェルストリア王国の第一王女シェリオル・フィーナ・セラフィン・シェルストリアです。
前世はこちらの世界とは違う次元の日本という国で普通に会社員をしていましたが、ある日過労死しました。死後、水の女神シルフィーナ様の元にいった私は衝撃的な事実を聞かされました。本来こちらの世界に生まれるはずが、間違えて別次元に生まれてしまったので、都合よく過労死した瞬間に時間軸を戻して、私の魂を本来の次元に戻したそうです。あまり詳しい説明をされることもなく生まれかわりましたので、何やら私は重要人物なのだということしか分かりませんでした。
生まれた当時は、前世の記憶を持ったままだったので、大人のまま生まれたようなものじゃないと思ってうんざりしていました。でも両親と兄、城の人々から愛情をいっぱい受けて育ちましたので、人生やり直しのつもりで毎日を過ごしていたら、かなり楽しくなりました。
3歳になった年、洗礼を受けるため、水の女神シルフィーナ様を祀っている神殿に行った時のことです。シルフィーナ様が私の体をのっ取って……もとい。のり移られて「この娘を我の愛し子として祝福する。我からフィーナの名を与えよう」と宣言されました。
以後「神の愛し子」として、月に一度神殿の奥宮にこもって神託をきくという使命をいただくことになりました。実のところ神託という名のシルフィーナ様とのお茶会でしたが。
シルフィーナ様は例の花の咲くお茶と菓子を持ってきて、こちらの世界のことをいろいろと教えてくれました。これから起きる出来事やあちらの世界の文化を取り入れる時は神託として伝えるようにとも言われました。
「神の愛し子は四大国の国に一人必ず生まれる存在なのですが、前回の時間軸ではこの水の都に神の愛し子はいませんでした」
ピンクの花が咲くお茶を飲みながら、シルフィーナ様が語ります。最初のお茶会、じゃなくて神託の時です。
「わたくしがべつのじげんにうまれたからでしゅね」
死んだ時は大人でしたが、今は3歳なので舌足らずなのは大目に見て欲しいです。
「そうです。そこで世界の均衡は崩れました。神の愛し子がいないシェルストリアを我がものにしようと諸国が攻め入ろうとしたのです。風の都ウィンディール王国は貴女の母の生国ですからシェルストリアの味方でしたが」
いよいよ開戦という瞬間に私が死んだので、神様たちは「待ってました!」とばかりに時間軸を止めたのだそうです。ちなみに死んだのは偶然……と思いたいです。
神様はそれぞれの国に1人? 鎮座しているそうです。土の都には土の神様、風の都には風の女神様、火の都には火の神様、そして我が国には水の女神様という四属性に適した神様が別次元に神殿を構えておられるのだとか。
「おかげで本来の世界に戻すことができました。えり。いえシェリーこの国をよろしくお願いします」
「神の愛し子」に選ばれた人間には必ず神が体におりてきて、自分の名前の一部を与えるそうです。私はシルフィーナ様のフィーナを与えられたというわけです。
「わたくしにしょんなおもいことができるとはおもえましぇんが」
「神の愛し子がいるということが重要なのです。特別なことはしなくて構いません。重要なのはわたくしとたまにお茶会するくらいですね」
シルフィーナ様、暇なのでしょうか? 寂しいのでしょうか?
「ひ、暇じゃないんだからね! 寂しくなんてないんだからね!」
あれ? ツンデレになりました。長い時を生きているからいろいろとあるのでしょう。
私はテーブルに上って、シルフィーナ様の頭をよしよしと撫でました。神様に対して不敬でしょうか?
「貴女はやはりわたくしが見込んだとおりの美しい魂の持ち主ですね」
シルフィーナ様はふふっと笑うと、私の頭を撫で返してくれました。
あれから13年。私は16歳になりました。
月に一度のシルフィーナ様の神託。いえ。もはやお茶会でいいでしょう。
シルフィーナ様から諸国の動きを教えてもらい、神託として父王に進言したり、あちらの世界で得た知識が役に立ったり。おかげで「神の愛し子」の他に「王国の至宝」だの「賢者の王女」だの妙なあだ名が付いてしまいました。
シェルストリア王国は水の女神の加護のおかげで水が豊富な国です。作物はよく育ち、鉱物も豊富に採れるので国力は四大国一です。
そしてこちらの世界には魔法があるのです。あちらの世界では架空のストーリーかゲームでしか存在しなかったものです。水の都に生まれた民は水魔法が使えます。才能によって使える魔法は限られますが。他国の親を持つ子供は稀に二属性の魔法を使えますが、ほとんどは属性に適した国の魔法のみしか使えません。
私の母は風の都ウィンディール王国の王女だったので、兄と弟は水魔法と風魔法が使えます。
私ですか? 私は神様特典というやつで四属性の魔法と派生の魔法が使えます。例えば氷魔法とかですね。
16歳の誕生日に「神の愛し子」として親兄弟に愛され国民から愛され、穏やかで自由にすくすくと立派なレディ? に育った私の元に火種とも言える信書が届きました。
その信書が私の運命を大きく変えることになりますが、この時の私は知る由もなかったのです。
お読みいただきありがとうございました。次話でシェリーの家族が出てきます。




