その2
「芹沢さん、こんにちは。この間の話、考えてもらえたかな?」
うわっ、来ちゃったよ⋅⋅⋅
「いえ、すみません。ですが私、一般家庭ですし、成績がすこぶる良い訳ではないので、あまりにも分不相応だと思うのですが⋅⋅⋅」
私に話しかけてきたこの御方、生徒会副会長の相場翔。現在二年生。
なぜか分からないが、私を生徒会にスカウトしたいらしい。
生徒会メンバーは全員キッラキラでピッカピカのお坊っちゃまお嬢様ばっかりなんですよ。
登校するときは必ずファンクラブのメンバーがお迎えに上がり、男子は女子にキャーキャー言われたり、女子はめちゃくちゃ尊敬されてたりで、目立たないことがないようなメンバーしかいないんです。
いじめにより遠退いた私の素敵な平和的スローライフはもう戻ってきませんが、もしも生徒会、通称ロズレ(通称もなにもただ単に長かったからレユニオンを切っただけなんでしょうけど)に足を踏み入れてしまったら、それこそジ・エンドですよ。
一応前回も丁重にお断りしましたはずなんですけどね、「まあまあ、そう結論を急がずに、一週間時間あげるから、それまでに考えといてよ。前向きな返答を待ってるよ」と言われましてですね⋅⋅⋅
だが私はNOと言える日本人!残念ながら私がその件を受け入れるはずがないのだよ!
「そっか~ロズレに入ってくれたら毎日棒つきキャンディーあげたのにな~」
!?なんだって!
棒つきキャンディー、またの名をlollipop、実は、私の大好物なんですよっ!
物事を考えるときに、糖分は必須!
そして、手早く糖分を接種でき、しかも長持ちするのが飴!
そのなかでも私は棒つきの飴ちゃんが大大大大大好きなんです!
「この学校、部活に絶対入らないといけないんだよね~芹沢さん、まだ入っていないでしょ?ロズレだったら部活扱いにもなるし、毎日飴もらえるし、さらに活動中でも飴を舐めていいんだよ?でもそっか~芹沢さん入ってくれないのか~」
うっ!この腹黒め!
確かに学校の規則として部活には入らないといけないし、私はまだ入っていませんけど!
いや、いかんいかん。私のスローライフが⋅⋅⋅
でもでも、活動中でも飴を舐められるのってロズレだけなんじゃ⋅⋅⋅
だがしかし!平和な毎日が⋅⋅⋅って、平和はすでに飛んでいったか⋅⋅⋅⋅⋅⋅
「えぇっと、そもそも、なぜ私なんでしょうか?成績はいい方だと思いますけど、とりわけ頭がいい訳ではないですし⋅⋅⋅」
「あぁ、それなら心配しないで!成績ベスト10の人たちはもう全員ロズレか部活の部長、または学級委員になってるから。で、庶民と言うか、一般家庭のメンバーが必要だったんだよ。そこでベスト10の直ぐ下、11位の芹沢さんを見つけたわけ。一般家庭で、成績もまあまあ。丁度良すぎる人材だったんだ~
それに、今すぐロズレに入ってもらえることができたら、棒つきキャンディー五箱分プレゼントしちゃうよ!
イチゴ味、もも味、マスカット味、コーラ味、あとソーダ味のそれぞれ一箱200本!ぜーんぶ芹沢さんのものに早変わり!」
「やります!やらせてくださいっ!⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅あっ」
やっべええええええええ!やっちまったよぉぉおおおお!!!
「ホント!?わーい!やったー!芹沢さんありがとう!」
うをぉぉぉおおおおおお!話がどんどん進んでいく!
「あの、相場先輩、その、さっきはつい口が滑ってしまった訳で、その、取り消しを⋅⋅⋅」
「なーに?芹沢さん!僕なにも聞こえないな~!それより今すぐロズレに連れていくよ!来てくれるって言ってくれてありがとう!
よーし、しゅっぱぁつ!」
こうして私は相場先輩に手を繋がれて、意識がどっかに飛んでる間に引きずられて、ロズレ本部へ連れていかれてしまいました。
道中の女子の目線が凄かったです。
あれは目線だけで人を殺せます。
でも、考えてみたらそうですよね。
超絶イケメンで家は金持ちで成績の良い相場先輩に、手まで繋がれて、相場先輩の同類の巣窟へ連れていかれるなんて、多くの女子にとっては夢のようなシチュエーションのはず!
それをたかが一般家庭の成績そこそこの外見地味な小娘がやられているなんて、羨ましい→嫉妬→嫉妬に感情が移動するのもコンマ0秒しかかからないはず!
どうしよう!いじめが増えてしまう!
明日の朝、絶対なんかあるよ!
いや、明日と言わずに今日の帰りにでも!
今日は親友からのメッセージ、要チェックだよ!
いじめ情報をゲットして回避しないと!
もう今日だけで絶対いじめ増えるよ!
回数も、人数も増えまくりだよ!
芹沢蓮歌、十六歳。
口のチャックがなっておらず、ロリポップに釣られて面倒事に自ら足を突っ込んでしまいました!
グッバイ私の平和な日々!!
グッバイ私のスローライフ!!
そしてこれから騒がしくなるであろう日常にsayハロー!!!
私のっっっっっっバカぁぁぁぁあああああ!!!