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一歩目の先へ。

作者: まるたけ

学校に行かなくなってしまった太一(たいち)は、友達と遊ぶことができなくなった。

学校に行ってない自分が学校に行ってる友達と遊ぶことが、なんとなく嫌だったからだ。


友達に会うのを避けるために、自転車で三十分くらい行った所にある大きな公園で遊ぶようになった。


運動が好きな太一はその公園でいつもボール遊びをしている。テニスやサッカー、野球のボールを壁に向かって投げたり打ったり蹴ったりしていた。バスケットゴールもあり、そこで遊ぶこともある。


一人で遊ぶのに重要なのは妄想だ。太一はいつも頭の中でストーリーを考えながら遊んでいた。

しばらく遊んでいると他の小学校の子どもたちがサッカーボールを持って遊びに来た。


いつも来るメンバーだ。太一の妄想はいつもここで終わる。楽しそうに遊んでいる彼らを見ながら、ボールを壁に向かって蹴っていた。


「あの子たちと遊びたいの?」


突然、後ろから誰かが話しかけてきた。振り向くと、白い服を着た少年がいた。


「君は、誰?」


「僕の名前は(ゆう)。ねえ、本当はあの子たちと遊びたいんじゃないの?」


心臓がドキッとした。


「うん。でも怖くて声をかけられないんだ」


「ふーん。ならできるように練習をしようよ」


「どうやって?」


「まずは試しに僕を遊びに誘ってみなよ。僕がここで遊んでるから、太一は向こうの自転車置き場からここにきて、僕を誘ってみるんだ」


「うん、わかった」


太一は自転車置き場に行き、優がいる場所に向かった。頭の中でなんて言って誘おうか考えていると、あっという間に優の目の前まで来た。心臓がドキドキしている。


「ねえ、僕と一緒に遊ぼう」


声が震えていた。


「やだね」


太一の頭の中は、一瞬で真っ白になってしまった。そんな落ち込んでる太一の顔を見て、優は笑っていた。


「ごめんごめん、冗談だよ。なんだ、ちゃんと誘えるじゃないか」


「確かに誘えたけど、練習だって分かってたから言えたんだと思うよ」


「練習も本番も関係ないよ。さあ、もっと練習しよう」


特訓は日が暮れるまで続いた。何度も練習しているうちに声の震えがなくなり、いつの間にか緊張せずに言えるようになっていた。


「あっ、もう帰る時間だ」


公園にある時計台を見ると、六時を過ぎていた。


「じゃあ今日はここまでだね。明日、あの子たちに言えるといいね」


「いっぱい練習したから、明日は言えると思うよ」


自信がついた太一は、優に別れを告げて家に帰った。


次の日、あの公園で彼らが来るのを待った。あれだけ練習したんだから大丈夫だろうと思っていた。

彼らがやってきた。いつものようにサッカーで遊ぶようだ。


太一は昨日の特訓を思い出して、心の中で「大丈夫、大丈夫」とつぶやいた。けど、彼らのところに行こうとすると、足が前に進まない。


「今日は言えるんじゃないの?」


隣を見ると、優がいた。


「やっぱり無理かも」


「まあ一日練習したくらいじゃ厳しいかもね」


太一はがっくりしていた。


「いきなりあの大勢のグループに声をかけるのは難しいと思うんだよね。まずは一人で遊んでる子から誘ってみればいいんだよ」


確かに、複数で遊んでいる人達よりも一人で遊んでる子の方が誘いやすいかもしれないと思った。


「あのバスケットコートで遊んでる子を誘ってみれば?」


優が指さした方を見ると、少年が一人でバスケットボールで遊んでいた。


「さあ太一、練習の成果を見せる時だよ」


手で太一の背中をポンッと押した。


「うん。じゃあ行ってくるね」


太一はその少年のところに行った。近くで見ると太一より背が高かった。


「ねえ、一緒にバスケやろう」


顔が緊張で熱くなっていた。

その少年が振り向いて太一を見た。顔を見ると少し戸惑っていた。


「ごめん、今日は一人で練習したいから遊べない」


太一の心に矢のようなものが刺さったような痛みがあった。


「そうなんだ。わかった」


落胆して戻ってくると優が顔をニヤつかせていた。


「まあそんなときもあるよ」


「僕、もうダメだよ」


「何言ってんだよ。そりゃ断られることだってあるさ。気にすることないよ」


頭では分かっていても、断られると気持ちが落ち込んでしまう。


「あっ、あの子なんかよさそうじゃない?ほら、壁打ちしてるあの少年」


見るとテニスボールを壁打ちしてる少年がいた。


「あの人もさっきの人みたいに練習してるんだよ」


「そんなの誘ってみないと分からないじゃないか」


「まあそうだけど」


太一はしぶしぶ少年のところに向かった。


「ねえ、僕と一緒にテニスしよう」


緊張していなかったせいか、さっきよりはっきりした声で言えたような気がした。


「うん、いいよ」


やった。心の中でつぶやいた。


二人はテニスコートに行き、打ち合いをして遊んだ。誰かと遊ぶのが久しぶりな太一は、時間を忘れるくらい夢中になっていた。気づけば空が暗くなっていた。


「もう時間だから帰るね」


「もうそんな時間か」


「じゃあね」


お互いに別れを言って少年は帰っていった。


「一人で遊んでるときより生き生きしてたよ」


いきなり隣に現れた優が言った。


「うん。楽しかったよ」


帰り道、喜びに浸っていた太一は明日の事を考えていた。


「明日は言えるかもしれないって顔してるね」


突然の声に驚いて、振り向くと優がいた。


「優は家に帰らなくていいの?」


「うん。そんなことより、明日あのサッカー集団に声をかけれるかどうか考えてたでしょ?」


太一は頷いた。


「できるかどうかはその時決めればいいと思うけどな。今日言えると思っても、明日には気持ちが変わってるかもしれないよ」


「うん、そうだね。明日の事は明日決めるよ」


次の日、公園で彼らと遊ぶためのイメージトレーニングをしていると、いつもの時間に彼らはやってきた。

心臓の音が大きくなる。できるイメージが段々薄れていった。


今日もダメかと思ったとき、強い風が吹き、背中を押された。

その勢いで足を一歩ずつ前に進めていった。徐々に進むスピードを上げていき、走って彼らに向かっていった。


「あの、僕も一緒にサッカーやってもいい?」


全員が太一を見た。


「いいぜ、一緒にやろう」


赤い服を着ていた人が笑顔で言った。


「みんなもいいだろう?」


「ああ、いいぜ」


「ちょうど人数増やしたいところだったからな」


みんなが太一を歓迎してくれた。


「俺の名前は(さとる)。君は?」


「僕は太一。混ぜてくれてありがとう」


「礼なんていいよ。早速チーム決めしようぜ」


チーム決めをしている時、太一は優も誘おうと声をかけに行った。


「仲間に入れてよかったね」


「優のおかげだよ。ねえ優も一緒にサッカーやろうよ」


「僕は行けないよ。それに僕の役目はもう終わりだから、太一とはひとまずお別れしなきゃ」


「えっ、どうして」


優の言ってることが理解できなかった。


「別れるっていっても、またいつか会えるかもしれないから、理由はその時に話すよ」


「せっかく仲良くなれたのに」


「おーい、何やってんだ、もう始めるぞ」


悟が大声で呼んでいる。


「ほら、仲間が呼んでるよ」


「うん」


太一の声が弱々しかった。


「また会えるよね」


「ああ、もちろん。次会った時は一緒に遊ぼうな」


「うん、わかった。絶対また会おうね」


そう言って太一は走っていった。その背中を優はただ見ていた。


「僕もそろそろ行こうかな」


風が強く吹き出して、優は空高く飛んでいった。


「さて、次はどこに行こうかな」


空から見る街の景色を見ながら、優雅に飛行して行った。

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