志穂でありシスティーナである
ドンっと衝撃がきた。
スローモーションのように釣り橋から落ちてゆく。
驚愕に見開いた大ちゃんの目と、憎しみに染まっている小娘の目。
釣り橋の上で志穂!と叫ぶ大ちゃんと、なんで!あんな女と喚く小娘。
釣り橋の入り口には権蔵さんと玄さんが慌てて掛けよって・・。
大ちゃんが上着を脱ぎすてTシャツになると迷いなく飛び込んだ。
ザブンッ!ザブンッ!!
2つの水音が響いた。
ガボガボと空気が口から逃げてゆく。
もがき水面に浮かんでは沈む。
流れが早くて上手く水面に出れない、もみくちゃになりながらなんとか水面にでて空気を吸えたが、水も飲んでしまう。
ゴンッと後頭部に衝撃を受けた、流木か、しくった・・。
薄れゆく意識の中で何かに引っ張られて・・そこで意識が途切れた。
パチッと目を開けると、白い天井に蛍光灯。
消毒液の匂いがする。
あぁ戻ってきた、ほぅとため息をつく。
「志穂!」
「・・お父さん」
「志穂!志穂!看護婦さん!志穂が!」
バタバタと父がナースステーションに走って行った。
おばあちゃん号泣してる。
「・・おばあちゃん」
「志穂、大丈夫だよ、病院だよここ、わかる?」
ゆっくり頷く。
帰ってきた・・帰ってきた!涙が止まらない。
おばあちゃんが腕をさすってくれた。
「良かった良かった」
私は1週間目を覚まさなかったのだ。
抱き締められないのは、頭と鎖骨にあばらを骨折してるからと言われた。
目は覚めたものの、うとうとしていたらお父さんからもう少し寝てなさいと言われた。
それもそうだ、私はゆっくり瞼を閉じた。
※※※※
次の日、大ちゃんがきた。
グレイシャスはきちんと約束を守ってくれたようだ。
大ちゃんを見ても何も思わなかった。
「志穂ごめん・・体は大丈夫か?」
「うん、助けてくれてありがとう」
「いや・・うん、なぁ・・」
「ん?どうしたの?」
「何でもない、今日はとりあえず帰るよ」
「大ちゃん」
「ん?」
「もう来なくていいよ」
「は?」
鳩が豆鉄砲な顔だな。
「いや、なんか別にいいかなって」
「・・もう、志穂の中では終わった事なんだな」
「そだね、やっぱりわかる?」
「何年一緒にいたと思ってんだよ」
「だね」
「あの後の事だけど・・・・」
大ちゃんから伝えられたのは、大ちゃんと小娘は一緒に村を出る事にしたって、流石に権蔵さんと玄さんに見られててしらを切るのは難しかったようだ。
皆から白い目で見られて針のむしろだぜ!と明るく言ってはいるが、そうとうきついだろうな。
ま、自業自得だよねとしか思わない自分がいる。
大ちゃんと小娘は其でいいけど、村長の巌おじさんとか片身が狭いだろうな・・。それと小娘の両親も村を離れるそうだ。
小娘とは別の場所へ行くらしい。
治療費は全て大ちゃんが払う、そこら辺は父と話し合って決めたって言われた。一括は無理だから分割だけどな!だって。
「大ちゃん、もうこの先会うことも無いけど今までありがとう」
「俺の方こそ・・」
「泣くなよー」
「すまん・・」
「どんな風になるかなんて自分でもわかんないけど、絶対幸せになるから安心してよ」
「ああ・・それじゃ俺いくわ、元気でな」
「うん、元気で」
お互い目をしっかり見て今生の別れをする。
これから先も来世までも、もう大ちゃんと縁が重なる事はない。
大ちゃんに対する気持ちはグレイシャスで消してもらったから悲しくもない。
さよなら大ちゃん。
「やあ!システィーナ」
「ちょっ!なにやってんのよ」
「感傷に浸っているところ申し訳ないが・・」
グレイシャスが病院の窓枠から入ってきた、大部屋なのに誰も居ない。
不覚!見られた。くそう!動けないしどうしようもない。
「ちょっとした手違いでね、こちらの世界だと1年もしないで死んじゃうからね!君」
「うわぁ・・手違いって」
「まぁ、元々あの時死んでた訳だからねー、その歪みなのかなこっちにも影響出ちゃって大変だよー」
「た、大変ですね」
「だろう?ね、だから歪みを直すのと君を祝福した手前君が幸せにならないと私の名が落ちるからね」
「さ、行くよ!」
ぐいっと腕を捕まれるが、ぺしっとすぐに払い落とす。
なに?って顔でこっちを見るグレイシャス。
「え?すぐには無理ですよ!」
「んー、なら3日後かな?迎えにくるからー」
そう言うと、さっさと窓枠から出ていった。
ここ3階なんですけど、怖い・・。
お父さんとおばあちゃんには明日言おうかな。
信じて貰えるかわかんないけど。
大ちゃん目がうつろだったよなー、宝物だったあの石渡そうか。
石を鞄から出して手紙を書く、病院の売店にはポストもあるから助かるわ。手紙を書き上げて看護婦さんに投函をお願いして久しぶりに宝物の石をパジャマのポケットに入れた。
これがあると、安心するんだよね。
と、呑気にして起きたらまたあそこにいた。
断罪の地である。
ここに来るとシスティーナの体になるようだ。
でも志穂の時の怪我をしている。
私は志穂でシスティーナって事だものね。
立っているのも辛くて地面に横になる。
「ちょっとー!あたし今怪我人なんだけど?!」
くそっ誰も居ないのかよー、ガサッと森から誰かが来た。
・・・・・・え?
褐色の美形、エメラルド色の瞳、艶のある黒髪。
「こっちだ」
手を差しのべられたけど
「え、いや本当動けないから」
「ミシーダ手伝え」
ガサッガサッと出てきたのは緑色の小人の蛙人間。
「うわ、可愛いー」
「え?」
「エ?」
「ん?なんかおかしい事言った?可愛いじゃん」
その瞬間、森から大量の小人蛙人間が現れてわさーーと囲まれ、エッホエッホと森の奥へと連れて行かれた。
蛙人間達にお神輿状態で連れて行かれた先は、森を抜けてた先にあった幻想的な緑の神殿だった。
青い石の祭壇があって、あれここって次の目的地だった場所じゃね?
神殿の一室にベットがあり、ゆっくり降ろされると皆ゲコゲコ言ってる。
なんか和むので1匹づつ撫でてあげると嬉しそうにベットの回りで騒いでいる。
「随分なつかれたな」
「あ、さっきの男前」
「・・・・君は言葉がストレート過ぎとか言われなかった?」
「うーん、何回か死んだから思った事は言うようにしてる、言わないで後悔したくないから」
「そうか・・」
「ここって断罪の地だよね?」
「そうだ、君には何度か会っている」
「んーーーあの黒い獣?」
「よくわかったな」
「瞳が一緒だし、ここなんでもありだし、そうかなって」
「話が早くて助かる」
ベットの横に椅子を置くとそこに座った。
「俺はオニキス、断罪中は黒豹になる普段は人型だ」
「私は志穂、今は大怪我中これさくっと治らないかな?」
「グレイシャスに言えば何とかなるかもしれないが、グレイシャスは取り込み中でな、かわりに志穂の世話を頼まれた」
「取り込み中?」
「あの女神覚えてるか?」
「ドワネイド?」
「そうあれが暴走した」
「うひ」
「なんで今、力のある神達がドワネイドと戦っているとこだ」
「大丈夫なの?ここ」
「ああ、ここには断罪者にならないと立てない別世界だからな」
「そっか」
「とりあえず、少しゆっくりしろ」
大きい手で無事な部分の頭を撫でられた。
じっと熱をもつ瞳に見つめられると、凄く勘違いしそうで怖い。
いや、物凄くタイプなんです、この人。
「え、あ、うん」
「志穂の闘いは皆覚えている、賞賛していたぞ」
「そ、そうなんだ」
「そうだ」
「こうゆうの慣れてないから恥ずかしいんですが?」
「ん?俺は恥ずかしくないぞ、それに志穂は俺の嫁だ」
「え?嫁?いつから?」
「嫁、今から、俺が今決めた」
ほえーーーー!黒豹には確か一番最初に食い殺されたぞ!
ポカーンとしてたら、夕食を作ってくると言い奥に消えて行った。
蛙人間達がヨメヨメと囃し立てお祭り騒ぎになっていた。
顔あっつい。
ちょ、チョロ過ぎじゃない?私。
でも、ま、いっか、ポフッと枕に体を沈める。
今は体も心も弱ってるんだ、ああ仕方ない仕方ない。
あんな風に見つめられてチョロっとしても仕方ない仕方ない。
蛙人間どもにヨメヨメ騒がれながら、オニキスには親身に看病されて惚れない訳がない。
1ヶ月して怪我もほぼ治った頃にグレイシャスがやってきた。
「やあ!システィーナ元気そうだな」
「あんたは、そればっかだな!」
「いやあ、すまん。まさか祟り落ちするとは思ってなくてな」
「あードワネイド?」
「ま、あまり知らない方が良いこともある」
「そっか」
「で、どうだ?」
「ん?なにが?」
「とぼけるなよ?」
「・・凄く幸せですよ」
「そうか!それは良かった」
グレイシャスにしては珍しく裏の無い笑顔だ。
「この神殿はお前に任す事にする、好きにして良いぞ」
「それはありがとうございます」
「それでは今度こそ幸多き人生を歩むが良い!」
「うん、ありがとうグレイシャス」
青い祭壇の側にある緑の神殿には、仲の良い神の御遣いの夫婦が住んでいる。
たまに断罪の神が遊びにくるらしい。
断罪を達成した者しか会うことが出来ないが、会えば幸せになれると言われるようになったのはまた別の話。
これにて完結、最後にオマケを投稿して終わります。
完結させる事を目標としたので、話の流れが無理やりですみません。