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断罪その後と赦しの地にて。  作者: 伊藤金魚
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志穂

神の断罪で飛ばされた先は、ヤバイ世界だった。


※※※※


「おめでとう!君が断罪される者だよ、システィーナ!」


にこにこと笑う神に、身体中の毛穴が開く。

舞台の幕は降りたのだ、さっきまで居た場所とは違いここは静寂に満ちている。


何故、女神を害そうとしたのか?。

害した場合、君が無事でいられるわけもないのに。


何故、女神という婚約者のいる男を誘惑したの?。

女神を見返したかったの?それとも男の隣に立つ地位に目が眩んだの?いずれにせよ、他人の仲を壊すのを浅ましいとは思わなかったのかい。


王子は女神を愛してるようだけど?。

奪えると思っていたのは、システィーナ君だけだったようだね。




断罪の神グレイシャスの声が私の上を素通りしてゆく。

実は聞いているふりをして受け流していた。

もうショーは終わったのだからさっさと断罪して欲しい。

グレイシャスは私の様子がおかしい事に気がつかない程浮かれている。

うん、楽しそうで良かった良かった。


そう!私は、私の役割を、キチンと果たしたのだから!


断罪をこなせば帰れるはずだ。

女神が嘘をつくはずない・・と、思いたい。



私には前世の記憶がある。

前世では、日本のとある田舎の片隅で父と祖母と私の三人でパリピの如く暮らしていた。

田舎でパリピこれ如何に!ってなにかっちゃー宴会だったし。

田舎の地域性なめんなよ。

ご近所さんで小さい子供は私と村長さんとこの大ちゃんしかいなくて、で、ご近所さんからは、それはもう可愛がられた。

隣の次郎さんからは大根やらキャベツやら、向かいのたえさんからは葡萄やら梨やら、斜め後ろの権蔵さんは蛸に烏賊等々。

悪さなんかしたら、三秒で皆知ってる恐ろしさ。

それがうっとおしくても、良い意味でも悪い意味でもそれが普通だった。


村にあの娘が来るまでは・・。


私の両親は東京で暮らしてた。

大企業の創設者の娘である、お嬢様の母が超田舎から出てきた野心溢れる田舎っぺに一目惚れして、父は請われるままに婿になる、それが父の幸運の最高値。


今まで母のまわりにはいない純朴な好青年という母の認識が、いつまでたっても垢抜けなくて不器用な男になり、それが地味でぱっとしない義理の父のいいなりのつまらない男になるまで時間はかからなかった。

父は最初からなにも変わってないのに、母だけが父への気持ちを変えてゆく。


母の認識が変わるまでの間に私と妹が生まれる。

私はそれはもう父の遺伝子の塊という容姿。

二つ下の妹は、美しい母に瓜二つ・・その後はもう、お察しという事で。


母と母方の祖父母や親戚から溺愛される妹と、父にそっくりということで邪険にされる私。



あの日、父が私をここに連れてきたのだ。



その日は私の8歳の誕生日。

日曜だった、母と妹は朝から何処かに出掛けていた。

父はいつものように外出していたが昼には戻ってきた。

手には握り締めてぐしゃぐしゃになった紙の束。

目は赤く、凄まじい形相。

通いの家政婦の多田おばちゃんに、私の荷物を荷造りして欲しいと告げると、しゃがみこみ私の顔を見てこう言った。


「父さんはこの家を出る、仕事があってすぐには一緒に暮らせないが、父さんの母さん・・お前にとってのおばあさんがその間面倒みてくれる、必ずそっちへ行くから。不甲斐ない父さんですまない・・そして誕生日おめでとう志穂」


ぎゅっと抱き締めてくれた。


「ねえお父さん、美亜は?」


そう聞くと父の顔が強ばった。


「美亜はここにいる」




そのまま、私は祖母がいるこの村にやってきた。

可愛がられるとはこうゆうことなのか!と衝撃だった。

邪険にされてきて拗ねまくり子供っぽくない小賢しい利発さと、毛の逆立てた猫のように警戒心が強い子供。


地域猫ならぬ地域子。

警戒心がとれて、安心して甘えるようになったのはここに来て半年くらいたった頃。


何故、妹は一緒に来なかったのか・・理由は簡単、妹は父の子供じゃ無かったのだ。


父は裁判をおこし浮気相手と母から慰謝料をむしりとり、会社は引き継ぎを終わらせようやく自己都合で退社してきた。

なんやかんやで一緒に暮らせるようになったのは9歳の時。


それから10年は何事もなく、隣の大ちゃんと幼なじみから恋人っていうベタな展開になっていた。


19歳になった時に、村に田舎暮らしに憧れて農家になる!っていう一家が越してきた。


遠くから観察したら、憧れと現実に苦しみそうだなって思った。

40代後半の田舎の素朴ライフに魅せられた旦那さんと奥さんに、無理やり連れてこられた感が半端ない17歳の娘さん。


結果、村から浮きまくっていた。


都会から来た人が、村にプライバシーなんてものはない!という現実に向き合っただけでも褒めるべきであろう。

興味本意とおせっかいな老人共が押し掛け、そのうち濃密なご近所付き合いに疲れきった奥さんが鬱になった。

旦那さんも脱サラして後に引けない状態である。

親の勝手な理想に付き合わされた娘こそ被害者かもしれない。



さて、ここで問題です、この村の若い年頃の男女は何人?



「志穂・・悪い、もうお前のこと女として見れないんだわ・・昔みたいに幼なじみに戻ろうや」


誰にも聞かれたくない話しがある時は、村の端に掛かってる吊り橋でするっていうのが、この村の常識で・・それはほら、自分達以外の人がいたら丸分かりだからね。

そこで恋人兼幼なじみだった大ちゃんは、頭をかいてちょっと困った様にこっちを見てた。

大ちゃんの後ろには、娘がじっと私を睨んでいる。


確かに私は綺麗じゃない。

女にしては体格もいいから、ヒールはいたら大ちゃんより3㎝は高くなる、近所のじじばばに混じって休みの日なんかは手伝いで農作業してるから肌は焼けて真っ黒だ。


チュドーン!と頭の中に怒りが炸裂した。

子供の頃からの美醜コンプレックスと母の浮気トラウマの襲来である、すこんって顔から表情が抜け落ちた。


「大ちゃ「いい加減!大輔さんを解放してあげて下さい!」」


は?なんだ?小娘?なんで話に入ってくるんだ?

大ちゃん・・いや、大輔お前、別れる別れないは二人の事だろうが、なんで小娘に関与させるんだ?そんな情けない奴なのか?小娘の後ろに隠れるのか?


背も小せいし、気持ちもちっせー奴だな!お前!


なんか、頭の中の考えてた事、口に出してたみたいだ。


うん、思いきり突き落とされた、・・小娘に。


なんか二人が喚いてたけど、沢に落ちてゆくの何だかゆっくりだ、あ、吊り橋の入り際のとこに、うちの斜め後ろの権蔵さんと権蔵さんの友達の玄さんじゃん、魚釣りの帰りだねあれ、良し!見られてたからあの二人終わったな・・ぐふふ。

これなら、すぐ探してくれるだろう、きっと。



ザボン!!!!!



穏やかだけどそこには、愛情があったと思っていたんだけどね。怒りは炎の様に燃え上がり、荒れ狂い心の中を燃え広がり、身をこがし、昔を振り返り、今と比べ、最後の言葉と吊り橋から落とされるという強烈な悪意に炎は消え、残ったのは真っ黒のススとベッタリと心に張り付いたタール、ぐちゃぐちゃと音がするくらいのタール。


私の前世は絶望の中に沈んだ。

・・もう、いい加減ウンザリだなと思ってたら、女神に話しかけられた。


『ねぇ、あなた大丈夫?』


私は転生者。

偶々遊びにきてたという女神にスカウトされてこの世界に来た。

あのまま、あの世界にいると(カルマ)というシステムで、生まれ変わってもまたアイツ等と関わりあうって言われた。


そんなのは死んでも嫌だと泣きつくと、

『もう、死んでますよ』と冷静に突っ込まれ、1度界を渡り縁を断ち切ることをお奨めされた。


アイツ等と縁が切れるならなんでもします!


なんでもやるとは言ったけど、まさか女神ヒメルノから男を横取りとはね・・。

自分にされた事を、他人にやるとか物凄く嫌だった。

嫌すぎてぐずぐずと足元の小石を蹴ってると、スカウトしてきた女神は必死に説得してきた。


婚約破棄になった時、私がシスティーナで犯した罪を償う断罪をするからその時に誠心誠意謝ればいいじゃないかとか。

寧ろ断罪からが本番なのよ!とか。

断罪の地で行われる荒行をこなし許しの地へ辿り着けば、願い事が1つだけ叶えて貰えるから志穂として生き返ったらいいじゃないかとかね。


取り合えず、こっち来ちゃったから、やるけどさ・・。

この女神、ヒメルノさんのお姉さんの一人だって言うけど、どんだけヒメルノさん嫌いなんだろうなって・・。

あんた一応女神でしょうが・・。

それと姑息って言うか・・。

後で痛い目みそうだよなーこうゆうタイプ。


で、今までの事を振り返ってたら、グレイシャスの準備が終わったみたいで、首根っこつかまれてぽんって放り投げられた。


行き先は、苛酷で厳しい断罪の地。

例えそれが頼まれてやった事だとしても私の罪は罪。

さくっと許しの地へ行って願いを叶えてやる!

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