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第5話 鎖錠の森精㉔

「例によって具体的に何をどうすれば良いか、僕は全然分かってないんだけど、作戦は全部パティに任せていいのか?」

「はい。指揮は私に任せて下さい」


そう言ってからパティはしばし瞑目し、やがて口を開く。


「まずメカジズの体表からアクセスポイントを探し出す。それには兄者の操るオートマトンを使います」

「分かった」


頷き、コントローラーを握り直すオスカー。


「そして、本体のバックアップが何かできないように、E3経由で孤立させる。それはSS。お願い」

『分かった!けど・・・今の私のスペックじゃ無理じゃないかな・・・?』

「確かに・・・それじゃあ・・・」


ためらいつつパティは言葉を繋げた。


「私のコンピューターのCPUとメモリ、全部使って良い」

『やった!ありがとうお姉ちゃん』

「ただし、今回のため以外には使わないこと」

『はーい』


姉妹の間で取引が成立したようだった。


『それじゃあ、検索と落とし穴作り、行ってきまーす』


その言葉を最後にSSの音声は途絶えた。


「では兄者。回避しつつ、カメラで映像を送り続けて欲しい」

「任された。行くぞ・・・!」


オスカーがまたコントローラーをカチャカチャといじり始め、モニターにオスカーの操るオートマトンが捉えたであろう映像が映し出される。

メカジズの翼付近から始まり、徐々に尾の方へと下りていく。

そして尾の付け根にさしかかったときだ。


「兄者!止まって!」


パティがオスカーにストップを掛ける。


「どうした。あったか?」

「恐らく・・・」


パティはゆっくり頷き、オスカーに少し戻るよう指示を出す。


「ここか?」

「もうちょっとこっち」

「こうか!」

「そう!」


どうして今ので通じるんだ。


「これ、ここのハッチ、恐らく中にはアクセスハブがあるはず・・・!」


オスカーの操る合体オートマトンがそのハッチを叩き、強引に開く。


「あった!この規格なら、ケーブルで繋げる」


さらにパティは不敵な笑みを浮かべ、


「ふ。やはり。背に腹はかえられないとは言うが、それ故に設計者は背に重要なものを置きたがる・・・!」


と呟いた。

確かに、こういったものならば弱点は顔や前面にあると思ってしまいがちだが、実際あの顔は飾りのようなもの。そこに弱点がある道理はない。


「ノラさん。このアクセスケーブルを」


そう言ってパティは彼女のデスクから先端がとげとげした黒いケーブルを取り出した。




「兄者の操るオートマトンの腕に、接続できる穴があるので・・・。こんな穴です」


パティは手に持った端末に接続口と思われる画像を映し出す。


「ああ。あるわね」


魔法で遠視をしているノラはすぐさまそれを見付ける。


「で、それを?」

「はい。この向きでお願いします」

「・・・繋げたわ」


ものの数秒でパティの手からケーブルが消え、モニターに映った合体オートマトンの右手にはしっかりとケーブルが接続されていた。


「では兄者。それをメカジズに」


「ああ、そうしたいが・・・気付かれたようだ!」


見ると、こちらの意図に気がついたのか、ナノマシンが合体オートマトンへと這い寄る。

オスカーの操作によってそれを躱すことはできたが、ハッチを剥がした部分がナノマシンによって覆われる。


「ノラさん。頼みがある!」


オスカーはコントローラーを握ったまま、ノラに向かって言う。


「言っておくけどあのナノマシンに対しては何もできないわよ」

「助力を欲するはナノマシンに対してではない。俺の右手に対してだ」


オスカーの右手といえば無限を宿していることで有名だが、どうやらオスカーが言う「右手」とはそのことではなかったようだ。


「今、右手のケーブルは振り子のごとく触れている、それを、固定してはくれないか?」

「固定・・・これでいい?」


次の瞬間、ケーブルを覆うように筒状の防御壁が現れ、ぷらぷらと揺れていたケーブルの先端が、ぴんとその居住まいを正した。


「完璧だ。では後は・・・一か八かだ!」


オスカーのその言葉の直後、モニターに映る合体オートマトンの視界が目まぐるしく変わる。

映像の変化が僕の目で捉えられるレベルになるまでに数秒要したようだが、どうやらその間にオスカーはワイヤーを射出し、かさぶたのようになっていたナノマシンを横から掬うように撃ち抜いたようだ。


「終わりだ!」


そしてそのまま放電したのだろう。ナノマシンは塊ごと剥がれ落ちる。


「よし!」


しかし、それは裏を返せば、オスカーが自ら支えを手放したということにもなる。


「オスカー。そのままだと・・・」


落ちるぞと僕が言い終わるよりも早く、オスカーは状況を打開する一手を打った。


「脚部離脱!」


オスカーが打ったのは一手だったが、合体オートマトンが打ったのはどちらかというと二足だった。

どうしてそんな機能があるのかは謎だったが、合体オートマトンは脚部を構成する2体のオートマトンを分離させ、その勢いを利用して落ちかけていた本体を浮上させる。

見事にメカジズの体表に復帰した合体オートマトンは、それよりも軽い身のこなしで帰ってきた足担当を再び迎え入れ、完全体となってメカジズの弱点を、接続部を見据える。

もう大分ナノマシンは剥がれたと見えて、接続部は依然露わだ。


「これで・・・終わりだ!」


その言葉と共にケーブルは剣のごとくメカジズの弱点に突き立てられた。

しかし、実際にそれでこの戦いが終わるということはなかった。


「SS!次はあなた。バックアップは閉じこめた?」

『待って!あと62秒!』

「オートマトンの操作は手放していいから急いで!」

『じゃああと47秒!』


SSが僅かに縮まった時間を伝えると、支配権の戻ったオートマトン達を操るべく端末の上で指を忙しなく滑らせる。

そして、47秒の時が経過し、SSがそれを告げた。


『お姉ちゃん!準備できたよ!』

「よし。じゃあ次は、今いる本体をメカジズから出さないように、E3上のアクセスポイントに張り付いてて」

『分かった!』


人間ならばこんなに酷使されれば不平の一つも出ようが、SSはあくまで従順にパティの指示に従う。


「これで終わり。ノラさん魔力脳から障壁を取って電流を再開させて下さい。それで全て終わります」

「なんだか最後のおいしい部分だけ取ってるみたいで悪いわね」


そう言いつつも何の躊躇も感じさせず、ノラは魔力脳に手をかざすこともなくそれを終わらせた。

一瞬、映像が途切れたのかとも思った。しかし、メカジズの周囲を飛び回る小さなオートマトン達がそれを否定する。

メカジズは次の一歩を踏み出そうとした不自然な体勢で、その動きを止めたのだ。


「よかった。どうやらうまくいったみた・・・」

「また動き出した!」


安堵の息も吐ききらないうちに、メカジズはまた動き出した。

しかしそれは歩みを再開するでもなく、また、物理法則に従って崩れ落ちるわけでもなかった。

ただ降参するように地に手足を付き、頭を持ち上げ、そして、口を開いた。


「あれは何をしてるんだ?」

「砲撃体勢です!」

「何!?」


何が降参だ。全然違うじゃないか。


「SS!いる?戻ってきて」


パティが端末に命じるとすぐにSSの声が帰ってきた。


『どうしよう!まだ動いてるよ。お姉ちゃん』


本物のパティを上回る慌てようだった。いや、もしかするとパティも内心これくらい焦ってるのかもしれない。


「バックアップを通して新しい本体は?」

『生まれてない』

「メカジズの中の本体はちゃんと止まってる?一つになってたりしない?」

『止まってるしちゃんと二ついるよ!』

「じゃあどうして・・・!」

「恐らくプログラムだろう。何かあればその場で砲撃しろと予め仕組んでいたのか・・・!」


頭を抱えるパティに代わってオスカーがそれらしい落としどころを見付ける。

ただ、大事なのは落としどころではなくあの砲撃をどう止めるかだ。そうこうしてるうちにもメカジズの口がどんどん赤熱していく。

僕らは射線上にいないはずなのに、それでも逃げ出したくなる光景だ。


「SS。メカジズのコントロールを奪えないのか?もう中の本体は動けないんだろ?」

『無理!この砲撃を終えるまで何も受け付けなくなってる』

「くそ・・・じゃあどうすれば・・・ん?いや待てよ…」


もう本体はいない。つまり今、彼女は何も操っていない。ノラの魔力を阻害するナノマシンも、だ。


「ノラ。今ならメカジズに魔法、使えるんじゃないのか?」

「そうかしら」


直後、メカジズの背中で爆発が起こる。


「そうみたいね」

「喜べみんな。全部解決だ」


ここまで長かった。しかしもう大丈夫だ。最初に挙がった案にあったように、電流を流して強制停止させればいい。


「ノラ。放電魔法だ。周りの建物に飛び火しないようにして・・・」

「いえ、待って下さい」


と、パティが僕の作戦に待ったを掛ける。

飛び「火」ではなく、飛び「雷」と言うべきだっただろうか。


「今強制停止してしまえばあのエネルギーが暴発してしまうかもしれません」

「・・・なるほど、確かに」


熱量だけでも凄まじそうだ。あれが光線ではなく、爆弾になったら、ただでは済みそうにない。


「なので、やつには撃たせて下さい。その射線をノラさんの魔法で、変えていただけますか?」

「放たれたエネルギーを余所へ移せば良いのね」

「はい。お願いします」


パティはできるかとは聞かなかった。それは、聞くまでもなかったのだろう。

何も知らない者ならば、ノラがやったということに気づけなかったかもしれないほど静かに、ノラは呟いた。


「転送」


ややフライング気味にメカジズの目の前に巨大な魔方陣が現れる。

今や考えぬ砲台となったメカジズは、身じろぎひとつすることなくその魔方陣ごと外務省を撃ち抜かんと溜めに溜めたエネルギーを解き放つ。

それは閃光と共に空を駆け、ノラの魔方陣へと消えていく。

そしてそのエネルギーは再び現れる。メカジズの足下から。ノラはただ空に逃せばいいだけのエネルギーを、わざわざメカジズを経由して空に打ち上げたのだ。


「あら。意外と頑丈なのね」


ノラが驚いたように小さく声を上げた。もしかしたらノラの目論見では自分で自分を撃って止まるはずだったのかもしれない。しかしメカジズは己の最大の武器に暫く耐えてみせる。

しかしそれも「暫く」だ。やがて限界が来たそのボディを光線は貫通し、閃光の柱を数秒ほど上げた後、光線と共にその動きは止まった。

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