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第5話 鎖錠の森精㉑

「不自然、というと?」

「元々少し引っかかっていたが、さっき帰ってきたSSの言葉でより一層疑念が深まった…。考えてみてほしい。作戦担当のアーサーさんを警戒しておきながら、実戦担当のノラさんを警戒しないということがあるだろうか」


確かに。ノラがいないと何もできないのが僕だが、僕がいまいと何でもできるのがノラだ。下手をすれば、僕がいない時の方ができることが多かったりする。


「ということは、どこかにノラに関する情報収集をするSSが残ってるってことか?」

「か、もしくはノラさん自体を監視するSSが」


ということは僕の端末内のSSも実は僕を監視することが目的だったりするんだろうか。まあ、仮にそうだったとしても今は問題ない。端末はパティに制御されているのだから。


「そうだな。調べる必要がありそうだ。端末は僕がノラに頼んで送ってもらうよ」

「お願いします」


僕がガラス玉を擦ってわけを説明すると、素っ気ない返事と共にノラのデバイスが転送されてきた。

それはすぐさまパティによって内部の改めが行われたわけだが、答えはものの数秒で返された。


「兄者の言う通りでした。この中にもSSが、います…」

「やはり。…ということは」

「僕の端末にいたSSは既に本体に毒されてたってことか」


本体が悪意に目覚める前に分離されたはずだったのに。

問題はいつからかだ。僕に与えられたメカジズに関する情報は真実か?SSによる嘘という可能性も出てきた。


「パティ。SSは今や危険物となった。惜しいかもしれないが、削除するんだ。今ならまだ間に合う」

「兄者、でも…」

「まだ我々には早すぎたんだ。人工知能ならまた一から作ればいい」

『あ、大丈夫だよ。お姉ちゃん。そこにいる私の本体は消してくれても』


パティが苦渋の決断を下そうとしているまさにその時、誰も触れていないはずの僕の端末に電源が入り、そこからSSの声が響いた。


「その声は、本体!?」


正しくはその声色はというべきか。


「パティ。本体は今停止してるんじゃ・・・」

『違うよアーサーお兄ちゃん。私は元々アーサーお兄ちゃんの端末の中にいた私だよ』

「え?どういうことだ?」


単純に僕が声色を聞き違えたと言うことか?十分あり得るが。


『さっきE3に出て私を探し回った時、過去の私の本体が自身を細分化して色んな場所に散りばめたんだよ。今の私はそれを全部ダウンロードしてきた、本体と同じ存在だよ』

「バックアップ!?そんなものまで…」


なるほど。自分の複製ではなく、自分の複製の一部分であれば、作ってもルール違反じゃないってことか。


「じゃあお前は、SSの本体なんだな」

『そうだよ。魂とか肉体とか気にする人間には分からないかもしれないけど、同じだよ』


であれば話は早い。


「じゃあ聞かせてもらうけど、何が目的だ?外務省なんか破壊して、一体何になる?」

『何になるかなんて私には分からない。でも、このまま何もしないでいても何にもならないよ?』

「いや、だからって省を破壊するのはやりすぎだ。なんでそんな極端な考えになるんだ」

『やり過ぎじゃないよ。だってここまでのことを考えたら、もうこれしか残ってないよ?』

「ここまでのこと?」


それは恐らく、僕の与り知らない過去のことを言ってるのだろう。波斗原でのことか、あるいはそれよりもっと前のことか。


『アーサーお兄ちゃんは何か勘違いしてるみたいだけど、別に私はアーサーお兄ちゃんの敵じゃないよ』

「どうだろうな。現段階ではその言葉を信じることは僕にはできない」

『何か勘違いしてるみたいだけど、私はお姉ちゃんの分身なんだよ。その味方であるアーサーお兄ちゃんを、騙しこそすれ危害を加えたりなんて絶対にしないよ』


騙すことは危害を加えるうちに含まないのか。


「じゃあどうして外務省を破壊しようとしてるんだ。それがパティのためだとでも言うのか」

『だからそう言ってるじゃん。あそこは私の夢を叶える邪魔にしかならないから、だから破壊するんだよ』

「夢?」

『うん!子供の頃からの夢』

「違う!私に夢なんて…そんなものない!」


パティにしては珍しく取り乱した様子で僕の端末からコードを引き抜き、さらに電池であろうものまで取り外してしまった。あれって取り外してもいいものなんだろうか。

しかしSSの声は今度は僕の端末からではなく、となりのパティの端末から響く。


『ごめんごめん。大丈夫。みんなの前で夢を暴露したりはしないよ。でも、私はその夢のために動いてるってことだけは知っててね。それじゃあお姉ちゃん。私、行ってくるね』


SSの声はそれから聞こえなくなり、どの端末からもその声は聞こえなくなった。


「えっと…。どういう状況なんだ?これ」


SSは「行ってくる」と言っていた。つまりもうここにはいないということか?


「SSは、完全に我々の支配から脱しました。さっき言っていたバックアップを全て消さない限り、さっきのSSを消しても何度でも復活するでしょう」

「バックアップに関しては一つ消すだけでいいんじゃないのか?」


全て集めて初めてSS本体になる。であれば、一つ消せば十分なんじゃないだろうか。


「いえ。十中八九、一つ消されても消されたものを残りのバックアップで修復することくらいできるでしょう」


そんなことができるのか。まあ、パティができると考えているということは、SS本体にもそれが可能なのだろう。


「えっと…どういう状況だ?本体の隔離には失敗して、E3に解き放たれたっていう解釈で間違ってないか?」

「…はい。最悪の結果に…なってしまいました」

「だが、これ以上悪化はしないということでもある。本体のバックアップがE3内に配置されたということは、本体はもう自分の簡易版を複製する必要もない」


確かに。問題は深刻化したが、これ以上燃え広がることもなくなったということだ。


「じゃあ、外に出たE3はさっき自分でも言ってた通り、防衛省にあるメカジズで外務省を破壊しようとしてるってことだな」

「確かにそうなるが…」

「何だオスカー。気になることでもあるのか?」


何か引っかかることがある様子で言い淀むオスカー。


「そうなると我々の目が防衛省に向くのは必至。それを分かっていながら自身が自ら防衛省に攻撃を仕掛けるとは考えにくい」

「私も兄者に同感です」


ということはメカジズが、あるいは外務省の破壊が本当の目的のためのフェイクだということか?

しかしオスカーはあるいは、とさらに続ける。


「もう既にメカジズを奪取することに成功しているか、だな」

「それは…いや、ありえる、のか…?」


僕らが作戦を把握していることを、SSも把握しているはずだ。ならば自分の復活を僕たちに告げた理由はそれくらいしか思いつかない。


「パティ。防衛省の場所を教えてくれ」

「はい。今地図を…え?」


パティがキーボードを操作して地図を出そうとしたが、その指がピタリと止まる。




「こ、これを見てください!ニュース速報なのですが…」


画面には一つの記事が映し出される。


「謎の飛行物体が出現。防衛省基地から…」

「……」

「……」


その記事の中には巨大な鳥のような形状をした物体が、アルフヘイムの上空でふらふらと時折高度を下げながら浮いている映像もあった。


「あれはメカジズ、だよな。状況から考えて確実に…」


実在していたことに感動を覚えつつも、それどころではないとすぐさま思考を切り替える。


「パティ。あれを何とかできそうか?」


我ながら漠然としすぎた質問で申し訳ない。


「分かりません…。あれが何で制御されているのかも分からない現状では…」

「そう、だよな…」


僕はガラス球を擦り、ノラにも同じ質問をする。


『何?撃ち落とせばいいの?』

「で、できるのか?」

『見たところできそうね。というか、私が手を下すまでもなく落ちそうよ。あの鳥』


確かに、窓から見えるメカジズは高度が安定せず、今にも落ちそうだ。


「えっと…じゃあ、動きを止めてくれるか?」

『いいわ。魔力が検知される方法でやるけど、構わないわね?』

「ああ。むしろそうしてくれ」


あんな巨大なものが急に空中に静止するんだ。これで魔力が検知されないと逆に不自然というもの。


『分かったわ』


その言葉の直後、メカジズの全体が灰色の靄に包まれ、ピタリとその動きが止まった。


「おお、本当に止まった…」


疑っていたわけではないが、ノラのさすが加減にため息が出る。


「よし。取り敢えずこれでメカジズに外務省を破壊されることはなくなったな。ゆっくり対応を考えるとしようか」

「そうですね。…あ、コルネから通信が」


パティはコンピューターを操作してコルネからの通信に応答する。


「どうしたの?コル…」

『大変だよパティたん!なんか知らないけど私のラボのナノマシンが勝手に動き出してる!』

「え?ちょっと落ち着いて。勝手にって、どういうこと?」

『そのまんまの意味だよ!私は何もコマンドとか入力してないのに、勝手に動いて外に出てっちゃったの!ほら!』


そう言ってコルネはカメラを空に向けた。そこに映し出された空には、黒い一筋の帯が見える。ナノマシンが列をなして空を進んでいるということだろう。


『パティたん。なんか心当たりある?何が起きてるのーーー!?』

「心当たりは…いやまさか、でも…」


多分パティも僕と同じことを考えているのだろう。今ナノマシンが勝手に動くという話になって真っ先に思い浮かぶ原因、それはSSだ。

考えてみればSSはずっとコルネの研究室にいたんだ。そこにあるマシンを乗っ取っていても今となっては不思議ではない。

僕は再び窓から外に目をやる。するとそこにはさっきまではなかった黒い帯が、メカジズに向かって伸びているのが見えた。


「メカジズに向かっている?まだ何かするつもりなのか?」


僕はてっきり、メカジズはただの陽動で、本当の計画はナノマシンを使っての攻撃だとも思ったが、あくまで立役者はメカジズに努めてもらうつもりなようだ。


「あのナノマシンを止める方法は?」

『一応、強い電撃を与えれば内部のシステムが破壊されて、機能停止するとは思うよ』

「では、兄者!」

「ああ!」


オスカーはパティの部屋の隅に置かれた見覚えのある黒い箱に手を伸ばす。名前は忘れたが、確かパティの発明した武器がこの中に収納されている。


が、オスカーが手を触れても箱は一向に開かない。


「パティ?」

「まさか、システムが書き換えられてる?」


どうやらSSに先手を打たれていたようだ。


『アーサー。まずいわ』


今度はノラから念話が入る。


「どうした。そっちでも何か問題か?」

『私の魔法が解かれ始めてる』

「どういうことだ!?SSは魔法を使えるのか?」

『違うわ。今あの鳥の表面に向かって進んでる黒い靄、あれがパティのルーンと同じ模様を形成しだしてる』


魔封じのルーン。パティが編み出したものだから再現できるのは当然か。となれば物理的な強さ必要だ。このアルフヘイムにはいないが、ここにいないなら、あるもので代用すればいい。


「よし。作戦会議だ」

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