意地
うおー
その声に暗闇から引き戻された。
一刀が声のするほうに首だけ動かすとそこには
現世での師、「無道橋玄」の姿が有った。
一刀「師・・・・、師匠が何故ここに!?」
橋玄「貴様の不甲斐無さに呆れてでてきてしまったわ! この愚か者!!」
本来いるはずのない人物から罵声を浴びる一刀。
一刀「お・・・、俺、また現世に帰ってきちゃったのか!?」
橋玄「そうではない、お前のような馬鹿はこちらに帰ってきてほしくもないわ。」
一刀「俺・・・・、どうなってんだ・・・。」
今起こっている現象に頭がついてきていない一刀。
橋玄「そんなことはどうでもいい。
貴様、あのような小娘如きに遅れをとるとは、無様すぎるぞ!
あのような小娘に負けるような鍛え方はしておらんぞ!」
怒りながら橋玄は一刀に言い放った。
一刀「っ・・・。」
橋玄「そもそも、貴様は自分であのように言っておきながら
自分はしておらんではないかっ。」
一刀「えっ・・・?」
橋玄の言葉が理解できず咄嗟に声だけがでた。
橋玄「己を賭けた闘いだと。
試合ではなく死合であり、喧嘩なのだといっておきながら
自分のために闘わず、守るべきもの達のための力しかだしておらんではないか。」
一刀「・・・・。」
橋玄「お前が今まで闘っていた力は守るものがいてこそ発揮するものだろう。
戦場には今お前しかおらんのだぞ。
お前はお前のためにつけた力をつかわんか!
小娘のお前を殺すために燃やす闘争本能の力に貴様の誰かを守るための防衛本能の力
が競り負けるのは至極当然。
この戦いをみておったが
お前の心の中にある闘争本能がこれっぽっちも感じれんだわ。」
一刀「俺の・・・・・、闘争本能・・・・。」
一刀は何かを思い出したように体の芯がふっと熱くなった。
橋玄「お前がこちらで鍛えていく間にその胸の中で芽生え
育てた闘争本能はそんな簡単に折れるものではないはずだ。
簡単に負けを認めてしまうほど弱いものだったのか!?
お前が目指した頂はそんな低いものではないはずだ!」
ぶわっと一刀の胸の中が騒ぎ出した。
橋玄「思い出せっ!
なんのために強くなったのか・・・・、
力をつけた意味等に悩むな!
答えはお前の心の中にずっとあるだろう!」
一刀「師匠・・・・!」
橋玄「馬鹿弟子よ、これが最後の教鞭だと思え。
よいか
”我らの前に道はない 我らが歩んだ軌跡が道となるのだ
我らの前に立ちふさがるもの全てが 我らの道を作る礎となるのだ”
我が流派は唯一無二にして頂点。
それをなせる力をお前に教え、そしてお前は仮初だとしても体得したはずだ。
それを・・・・・・・・・・・、忘れるな!」
一刀「はいっ! 師匠!」
橋玄「お前の中にくすぶるその本能に従い闘ってみろ。
・・・・・・・、期待しているぞ、馬鹿弟子。」
一刀「ご迷惑を・・・おかけしました・・・。」
橋玄「さぁ、こんなところで立ち止まっている場合ではないぞ!
耳を傾けろ、お前の愛する主君がお前を思い泣いているぞ。」
一刀「えっ・・・・?」
橋玄の言ったとおり、どこからか華琳の声が聞こえる。
その声量から、必死に叫んでいるようにも思えた。
橋玄「さぁ行け。 そしてしらしめてやれ、お前の想いの強さを。」
その言葉を最後に橋玄の姿がスッと目の前から消えた。
その場に残ったのは一刀と、一刀を呼ぶ華琳の叫び声。
華琳「・・・っと! 一・・・・! 一刀!!!!!」
華琳のその声はどこか震えていた。
一刀「またっ・・・・、泣かしちゃってんのか・・・俺。」
グッと体に力を込める一刀。
一刀「ありがとうございます・・・、師匠・・・・。こんなところまで足を運ばせてすいません。
ですが、貴女のおかげで・・・・、今やるべきことに気づけました!!!!」
それは---------------------------------------------------
雪蓮という強大な壁を打ち砕き、華琳の涙を笑顔に変えることだ!!!
そう心に誓った瞬間、周りの世界が光に包まれるのだった・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!
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光に包まれるように感じた一刀だったが、身体は瓦礫に埋もれかけていた。
そして自分の顔には水滴のようなものがパタッパタッと上方から落ちてきているのに気づいた。
???「っ・・・・と! ずっ・・・・・と! 一刀っ!」
誰かが自分の名前を叫んでいる。否 叫び続けていた。
重厚な観覧席から身を乗り出し、一刀を見つめながら
その双眸からはとまることを知らない雫をこぼしていた。
一刀「ほんと・・・・、いつも泣かしてばかりだな・・・、俺は!!」
そういうと瓦礫を吹き飛ばしながら一刀が立ち上がった。
雪蓮「おぉっ!」
華琳「一刀っ!」
急に一刀が立ち上がったので驚いた雪蓮。
雪蓮「よかったぁ~、あれで終わっちゃうかと思ったわよ、一刀。」
安心したような顔で雪蓮が一刀に言った。
一刀「お生憎様でなんとかいけそうです。」
それに少し嫌味ったらしく答えた一刀。
そのまま対面した格好から一刀が上方に顔を向けた。
自分の為に涙を流してくれている華琳を安心させるために・・・
一刀が上のほうを向くと華琳が手で顔お覆っている姿が見えた。
一刀の無事(?)が確認できて涙がさらに溢れた顔を見られたくないために
両手で覆ったのだろうか。
一刀「華琳・・・、心配ばっかかけてごめん!!
でも・・・、心配の涙を流すのは今日で最後だ!
俺を思って流す涙は今度からはうれし涙だけだからっ!」
そう華琳に叫ぶとピースサインを見せ、華琳の返答を待たず、雪蓮の方へと振り向く一刀。
雪蓮「で・・・・、私の見解からするともう少しは力を出せるとは思うけど
それぐらいなら私に勝つのは難しいんじゃない?」
ズバッと雪蓮が一刀に伝えた。
一刀「確かに・・・・、今のままじゃあ無理だ。
今の俺の力は守るべきものがいてこそ発揮する・・・。」
雪蓮「それで?」
一刀の発言を深く読まずに聞いた。
一刀「なぁ、雪蓮。 修行や実践で力をつけていく上でさ、
いつもなにを考えてた?」
一刀が雪蓮に質問をした。
雪蓮「何って・・・・、そりゃあ誰にも負けないようになりたいって
考えてたわよ。」
素直に質問に答える雪蓮。
一刀「普通はそう・・・・だよな。
なんか俺、力をつけていくときはずっと魏のみんなのことばっか
考えててさ、自分っていうより、みんなのためになる力を って考えてた。」
一刀が自分の考えを伝えた。
雪蓮「それで・・・?」
雪蓮は一刀の言うことがあまり理解できなかった。
一刀「修行を積むにつれ、実践をこなすつれ、心の内に小さな炎が生まれた。」
開いた掌を見つめる一刀。
一刀「その小さな炎がどんどん強くなって、修行の終盤で師匠と
戦ってわかったんだ、内なる炎の意味がわかったんだ。」
開いていた掌をグッと握り締める一刀。
一刀「誰よりも強くなりたい、そう・・・、武で一番になりたいって。
俺の心が・・・・、そう叫んでた。
ほら、男の子だからさ、一番に憧れたのかもしれないけど。」
一刀のその言葉に雪蓮がすかさず答えた。
雪蓮「それは武の道を目指すものなら誰もが思うでしょうね。
私だってずっと思ってるわ、今でも。
その気持ちは消えることはないでしょう。
今日みたいに貴方と戦うことでまた私同等の力を持つ子
がこの世界にいるってわかったんだもの。
この広い世界にはまだまだ強い子がいるって証明されたようなもの。
その者に負けないため、私たち武官は腕を磨き続けるのよ。
平和になったこの大陸にいたとしても、ね。」
その言葉に恥じることのない力を身につけている雪蓮の言葉。
一刀「だよな・・・・・、だから・・・・。」
拳を握ったまま雪蓮の方へと顔を戻した。
雪蓮「だから?」
一刀の言葉が少し引っかかった雪蓮。
一刀「今からの俺の力は・・・、ただ相手に勝つためだけの
自分のためだけの力だ。」
そういうと一刀はそばにあった真桜を拾い、鞘に納めた。
雪蓮「何? 何か手品でもあるの?」
一刀「まぁ・・・、手品には近いな。
雪蓮・・・・・、この技は相手を打ち砕くのみの力だ・・・・・・
だから・・・、死ぬなよ・・・・・。」 一刀はそう伝えると、構えを取った。
構えを取った後、詠唱を始めた・・・・・・・・・・・・
一刀「我が身に宿る全ての気は最強の剣なり
我が身に宿る全ての気は最強の鎧なり
我が無道の前に全ての武道はなく
我が無道の後ろに全ての武道あり。
我が無道は全て魏の為にあり
我が無道の全ては我が愛する者達の為あり
我が力の全て・・・・魏の覇を支える力なり。
我が身、我が心、我の全ては
魏の障害となりうる全てのものを
打ち砕く・・・・・・・
覇とならん!!」
詠唱を終えた一刀の咆哮と同時に会場の全ての者の目の前が一瞬真っ白な光に包まれた。
光に包まれると同時に会場中の空気が震えとともに一変した。
会場の空気の震えは民達には錯覚に思えただろう。
しかし、武将達の心には異常な恐怖と対抗心が生まれていた。
そして全てのものがわかっていた、
この異様な感覚、空気の震えは全て、一刀が起こしたものだと。
それを一番間近で感じることになった雪蓮は驚きと賛辞の気持ちでいっぱいだった。
あそこまで自分に打ちのめされていた相手は
この上なく自分を楽しませてくれる存在であったということに
感謝の気持ちでいっぱいであった。
雪蓮「おもしろい・・・・・おもしろ過ぎるわよ、一刀!!!!」
自分の身の震えと脂汗が目の前の人間から危険を感じ自分に教えてくれている。
しかし、この身の震えと汗を心を落ち着かせることで静止させる。
雪蓮「こんな力・・・・、あの優しさの塊でできたような一刀が
つぎいつ出してくれるかわかんないのよ・・・。
今あんな力を引き出してくれる一刀と戦えることに感謝しなさい・・・・、私っ!」
己の心に渇をいれ奮い立たせた。
そして雪蓮もまた全力を引き出すために自分の力を全身に集中させていった・・・・
--魏サイド--------
凪「あっ・・・あれはっ!」
一刀の技、気が体からあふれ出る姿を見て凪が言葉を発した。
真桜「なんや凪っ、あの技がなにか知っとるんか!?」
真桜が凪の言葉に気づいて尋ねた。
凪「あれは・・・・、覇気功だ!」
凪が技の名前らしき単語で答えた。
真桜「覇・・・気功?」
よくわからずに真桜がその単語を繰り返した。
凪「あれは・・・、体中にめぐる気を全て引き出すための技だ。
普段・・・、人は本来の約3割程度の力しかでないようになっているらしい。
10割の力で行えば身体に負荷がかかりすぎたり
何かを殴ったりするときに、その威力ゆえに身を壊しかねないからだ。
そうしないために脳が身体を制御しているらしい。」
真桜「そ・・・それで・・・?」
真桜が凪の言っていることをなんとか理解しようとしながら続きを催促した。
凪「覇気功はその気を脳に回し、脳で行っている体の制御の
主導権を自分に移すことができるようになるんだ。」
真桜「それやったらなにか、いまの隊長は自分の体への反動気にせず
本気の本気を出せるようになってとかそんな感じなんか?」
凪「簡単に言えばそんな感じだ。
ただ、際限なく力を使うだけでなく痛覚も殺し、自分の怪我の状態もわからない。
そしてこの技は体の生命力をも戦うために気に変えることができるんだ。
もしその状態になり気を使いすぎれば命の危機にもつながってしまう。
ただ・・・、隊長の気の量がどれだけあるかでどのくらいの
時間あの状態でいれるかが決まるんだ。(生命力を変換しないとして)」
真桜「なんや・・・、諸刃の剣みたいなもんなんやな。」
うーん・・・、という顔で真桜が言った。
凪「あぁ・・・、しかしあの技は肉体強化をするならばほかに追随を
許さない技だ。
気を増幅させる作用もあるから、あれを使えるということは
こと一騎打ちでは無敵になれる、と言い切ってもぐらいなんだ。
しかし・・・・、あの技は書面に名前だけ載っているだけで
詳しい習得方法などは一切なく・・・、技の名前だけ乗っている。
そして、体得したのは過去一人だけだとされていたんだが・・・・。」
凪もまたう~ん、という顔でつぶやいた。
真桜「ほかにも使える人いてたんか。
んで、その体得してた人って誰なん?」
ん~、と一呼吸おいて凪が答えた。
凪「いまはもう亡くなっている方なんだが・・・・、確かその方の名前は・・・・・。」