未来を見据えて
金属が折れたいうより、割れた音が鳴った。
その音に驚いた孫権があたりを見渡すが、何が起こったのか分からなかった。
しかし、先ほどと違う箇所があった。
一瞬前まで目の前にいた一刀の姿がなかった。
そして自分の握っていた剣の刀身の半分から上がなくなっていた。
孫権「なっ・・・・!?」
今の異常事態に気づいた孫権が声を上げた。
先ほど感じた風の方向、つまり後ろの方向を見た孫権。
そこに先ほどまで前にいた一刀の姿があった。
孫権「なっ・・・。」
二人の目が合った時、一刀の口が開いた。
一刀「今の俺の動き・・・・、まったく見えなかったでしょ?」
孫権にそう告げた。
孫権「ぐっ・・・・。」
図星であるため、なにも言えない孫権。
一刀「あれぐらいの動きが見れないんじゃあ・・・、武将なんて夢のまた夢だよ。」
一刀が繰り出したのは神速の抜刀術。
その速度から繰り出される一撃は、ほとんどの技の威力を凌駕するだろう。
鍛え上げた脚と腕、そして操気法を駆使し、一刀が完成させた技。
ただの攻撃だが、鍛え上げた一撃は「技」といえるほどであった。
その攻撃が、今の孫権に見えるわけもなかった・・・・・・・・・
会場も何が起こったのかまったくわかっていなかった。
武将の中でも一刀の姿が見えていたのはほんの数人であろう。
何が起こったのかわからなかった会場はざわついていた・・・・。
孫権「私の負けか・・・・・・。」
武器が破壊された孫権は否応なく敗北であった。
一刀「孫権さん・・・・、貴女はこれからの呉を担っていく存在だ。」
孫権「何?」
一刀「確かに貴女には雪蓮のような絶対的なカリスマはないと思う。
だけど、民を思い、臣を思い、呉にいる全ての者を愛す慈愛の心をもった
貴女には、雪蓮にはないものをもっているんだ。
建国から戦続きだった呉にいまは平安がもたらされている。
それを率いてきた雪蓮は、世代交代を願っているんだよ、次の君達の
新しい世代にね。
あなたは雪蓮より、人を見る目があり、性格や性質も内政に向いている。
そこを誰より早く見抜いたのは雪蓮だったとおもうから・・・、何度か
そういう話されてると思うんだけど、今まで一度もなかった?」
一刀の言葉に孫権が少しずつ耳を傾けた。
そして最後の言葉は確かに合っていた。
戦争が終結して以来、呉には平穏が訪れ、内政の日々が続いていた。
そんななか一番輝いていたのは孫権だった。
雪蓮はどっちかというとやはり武将に近い存在であり、日ごろより
内政は行っておらず、周喩や孫権、智将に任せていた。
そんななかそんな姉を憂いながらもまじめに仕事をこなしていた孫権の
内政力と人を見る力は研がれていった。
今後の呉を担っていくのは間違いなく孫権であろう。
だからこそ、雪蓮は戦争終結後、定期的に孫権に王になれと
言っていたのだが、孫権は聞き入れなかった。
孫権からすれば、雪蓮こそが絶対的な王であったからだ。
その思いが雪連の想いと期待に気づかず、言葉を聞き入れなかったのもある。
孫権は俯きながら一刀の言葉を引き金にこれまでの二年間を思い出していた・・・・。
少し時間がたって孫権は顔を上げた。
孫権の目にうっすらと涙のようなものが浮かんでいた。
孫権「ふっ・・・、本当に私の負けだな・・・、北郷。」
一刀「少しでも、あなたの未来に影響できたなら、俺もうれしいかな。」
孫権「あぁ・・・・、だが・・・、あきらめるわけじゃない。
これからも姉様を支えていくつもりだ・・・・、どんな形であれ、な。」
一刀「あなたが納得して選んだ道なら明日は輝いてるさ。」
孫権「ありがとう・・・・、北郷。」
孫権の表情はどこか曇りが晴れたようなきれいな顔になっていた。
司会「い・・・いま、何がおきたかわかりませんでしたが、孫権選手の剣が北郷選手により
破壊されたため、この試合、北郷選手の勝利です!!!」
ワァアアアアアアアアアアアアア!!!!
一刀の勝利とわかったとき、会場中が歓声を上げた。
孫権はリングから降りるため、呉のほうへ歩いていったのだが、一刀は動こうとしなかった。
一刀は振り返って、呉の応援席にいる、雪連のほうへ視線を向けていた・・・・・・・
孫権「(北郷・・?)」
華琳「一刀?」
注目のなか一刀の口が開いた。
一刀「雪蓮・・・。」
雪蓮「なにかななにかな。」
一刀「約束は守った。
次闘えることを楽しみにしてる。
そして、雪蓮の全力の力を俺の全力の力でお前を倒す。」
雪蓮「ふふーん・・、宣戦布告ってわけね。」
雪蓮は腕を組みながら一刀に言った。
一刀「まぁ、そんなところかな。
雪蓮の力の片鱗を次の試合で見せてくれることを
願っているよ。でないと、不公平だ。」
雪蓮「ふーん、でも見せたら驚いて戦いたくなくなっちゃうかもしれないわよぉ?」
一刀「残念だけど、れは無いよ。
今も昔も俺が怖いのは不機嫌な華琳ぐらいだ。」
雪蓮「言ってくれるじゃない・・・、いいわ、よーくみてなさい。」
雪蓮の組んでる腕が震えだした。
一刀「期待してる。」
お互い不敵な笑みのまま二人が睨み合った。
ひと呼吸おいて何事もなかったように、一刀は魏の応援席の方へ歩いていった。
司会「どうやら二人の会話が終わったようですが、いったい何を話していたのか
気になりますが、次の試合の準備にかかります、ただ
戦場が酷い状態になってきましたので、魏軍の李典隊長率いる
からくり部隊の補修作業に入るため、少し休憩となります。」
リング周りが真桜達によって早急に補修工事が行われだした。
雪蓮は次の試合に出なければならないが、その場から裏のほうへ立ち去った。
周喩「雪蓮?」
周喩が心配して後についていった。
孫権「ねぇさま・・?」
周喩がついていったので呉のメンバーは逆に誰もいけなくなってしまった。
一刀が応援席に戻るとそこに勝利の賞賛はなく、ただ誰もが驚いた顔でいた。
一刀「み・・・、みんなどうしたんだ?」
誰もが一刀の成長ぶりに驚いていた。
2年前までは一般兵並の戦闘力しかなかった一刀があそこまで
強くなっているのだ、いくら魏のメンバーでも驚きは隠せなかった。
一刀「今度はなんもないんだから労いの言葉でm・・・。」
ボフッ
一刀は後ろから誰かに抱きつかれた。
背中への衝撃は小さかったので誰かはある程度は特定できたが後ろを振り返った。
風「おにぃさん・・・、つよかっこよかったですよぅ。」
一刀「やっぱ風か。 ありがとう。」
さすがに宝慧が頭の上にあるので一刀は風の後頭部をなでた。
一刀は振り返ってしゃがみこんで風と向き合う。
一刀「聞いてくれよ風、皆なんもいってくんないんだぜ?」
風「それは仕方ありませんぉ、お兄さん。
まさかあのお兄さんがここまで強くなっているとは誰も
思っていませんでしたから。
それに驚いて武将の皆さんはなにもいえないんですよぉ。」
一刀「そんなもんか・・・?」
風「風は軍師なのでよくわかりませんが、おにいさんがカッコよかったのでいいです。」
そういいながら風は一刀の頭をなでた。
一刀「はは、風になでられるとはなぁ。
あ、なぁ、ご褒美くれよ。」
風「ご褒美? あぁ・・・、もう、お兄さんたらお昼から大胆ですねぇ。」
宝慧「コイツぁ昼間からエロエロだな。」
一刀「んっ? 何が?」
風のいっていることが理解できず、、一刀が聞いた。
風「ご褒美って・・、風の身体じゃないんですかぁ?」
一刀「ぶはっ!!?」
風の言葉に一刀が吹いた。
一刀「違う!! また飴くれ、飴。」
全力で否定しながら、一刀が飴の要求をした。
風「おやおや・・、それはそれでよかったのですが・・、仕方ないですねぇ
あまりの飴は袖の中に・・・。」
一刀「いや、俺はこれでいいよ。」
一刀はそういって風が先ほどまでなめていた飴を奪い取り口に入れた。
一刀「うん・・・、甘い。」
風「っ・・・! おにいさんたらっ・・・(ポッ)」
宝慧「コイツァたいしたたらし野郎だぜ。」
一刀「うっせっ。」
宝慧「うぉっ。」
一刀が宝慧にデコピンをかました。
一刀が立って振り返り武将達全員を再度見渡すが、皆何も言わなかった、いや、言えなかった。
一刀「強くなったから・・・、ねぇ。 それぐらいで驚かないでくれよ。
俺は俺だぜ?」
凪「正直・・・・・、言葉が出ません。」
凪が口を開いた。
沙和「なんか隊長じゃないみたいなの・・・、カッコよかったけどなの。」
沙和も口を開いた。
季衣「でも兄ちゃんは兄ちゃんだし・・・。」
流琉「確かにすごく驚きましたけど・・・、それも全て・・・」
華琳「私たちを守りたいからつけた力でしょ?」
親衛隊二人の言葉の後にここにいないはずの華琳の声が聞こえた。
春蘭「華琳様?!」
秋蘭「華琳様・・・いらしたのですね。」
二人の声で華琳がここにいるのだと皆が思った。
華琳「ちょうど休憩中でしょ、座ってるだけなのもあれだから様子を見に来たのよ。」
ため息混じりに華琳が言った。
一刀「まっ・・・、確かに。」
それに一刀が同意した。
華琳「でもまぁ、皆が驚いた理由も、声が出ない理由もわかるから、私も何も言わないわ。」
一刀「んーーっ、まぁいいけどさ・・・。」
華琳「でも、強くなったわね、一刀。 ありえないほどに、ね。」
華琳が率直な意見を一刀に述べた・・・・・・・・
一刀「華琳にそういってもらえると嬉しいね。」
やっと褒めてもらえたのが嬉しかったのか
ハハハとテレながら一刀が言った。
華琳「しかしまぁ、予想外な強さには驚いたけれども
それに気づけなかった私達も恥ずかしいわ。
武将として相手の力の本質にきづけないなんて。
ましてや、一刀のをね。
一刀が隠していた節もあるけれども。」
頭に手を当てながら華琳が言った。
春蘭「確かに、少しはやるようになったとは思いましたが
これほどまでに腕を上げているとは思っていませんでした。」
春蘭が悔しそうに言った。しかし
春蘭「だが、私はまだまだお前には負けんっ!」
ふんっ! とポーズを取りながら一刀に春蘭が言った・・・
それを見て華琳が頷いた。
華琳「そういうこと。
別段気負うことなく、一刀を倒したい、負けないって考えながら
いればいいのよ。普段はどうせまた色ボケするんだから。」
一刀「グサッ。」
心へのダメージを口であらわす一刀。
華琳「まぁ、前のように普通に接してあげなさい。
一刀が一刀であることにかわりはないんだから。
皆分かった?」
魏勢「はっ!」
華琳(ただ・・・さすがにここまで来ると違和感があるのも確か。でもまだ言うべきではないわね)
華琳自身、皆に言いながらも自分自身は違和感を抱えたままだった。
皆が華琳に頭を下げながら返事をした。
一刀「まぁ、俺も皆とまた仲良くやりたいんでよろしくお願いします。」
一刀も皆に頭を下げながら言った。
華琳「あぁ、あとひとつ。」
華琳がそういうと皆が「?」という噴出しをだしながら華琳を見た。
華琳「一刀。」
一刀「んっ?」
華琳「これは挑戦状かしら?」
一刀「えっ?」
華琳がそういうとポケットからあるものを取り出した。
それは太陽の輝きに白い輝きを跳ね返した。
そう、先ほど消えた孫権の剣の刀身だ。
華琳「私の顔の横を通過してイスに突き刺さったんだけれども。」
暗黒面が見えそうな笑顔で刀身をちらつかせながら一刀に華琳が言った。
一刀「ち、違う違う! たまたまだよ、たまたまっ!」
華琳「あらそう・・・、私はてっきり挑戦状かとおもってしまったわ。」
一刀「すいませんでしたぁ!」
ズザー
一刀のジャンピング土下座が決まった。
華琳「まぁ・・・、そこまで言うなら許してあげるわ。 折檻一日に免じてあげる。」
一刀「そっ、そんなっ!」
一刀が顔を上げて言うと
華琳「あら・・・、そんなこというの?」
一刀は華琳の満面の笑顔がここまで怖いものなのだと知った。
一刀「はい・・・。」
もはや一刀は全面降伏するしかなかった。
華琳「あぁ、あとちょっとこっちに来なさい。話があるから。」
一刀「へっ? あぁ、わかった。」
そういうと華琳が舞台裏へと歩き出した。一刀もそれに慌ててついていった。
一方そのころ雪蓮は・・・・・・