最後まで戦い抜く
フルはハークの拳がぶつかる寸前、しゃがみ避けたのだ。
いきなりしゃがんだので、ハークにはフルが消えたように見えたのだろう。
フルはしゃがむためにまげた足に力を込める。
そのまま横へ跳躍し、逃げようとしたのだ。
だが、次の瞬間ハークのあり得ない速度で動いていた拳が慣性を明らかに無視してピタッと止まる。
そしてそのまま真下へ、フルのいる方向に拳を振りかぶってきた。
「はああぁぁぁあ?!ちょ!えぇ?!」
驚きすぎたせいか自分でもよく解らない奇声を発してしまった。
だが、そんな奇声には気もくれず無慈悲にもフルに拳は近づいてくる。
フルはまた、思考を加速させる。
誰の目から見てもフルは絶望的な状況だった。
それでもなお、フルの目からは絶望の色は見えなかった。
そう、まだ諦めていないのだ。
(腕はもう壊れて使えねぇし、魔力も使えねぇ。どうやったら逃げ切れるかなぁ…)
諦めてはいないが、勝算があるわけでもなかった。
「ああああ!!くそがっ!」
もうここまで来るとやけくそだ。
取りあえず横に跳躍する。
ハークの拳が右足をかすめた。
何とか避けることが出来たのだが…
さっきかすめた右足のふくらはぎが抉れている。
絶望的だ。
さっきの跳躍で15メートルほど離れることができたのだが、もうフルがやられるのも時間の問題だろう。
フルは唯一動く左足で地を這うように動き、ハークから距離をとる。
だが、所詮は片足だ。
ほとんど動くことができない。
ハークはゆっくりと近づいてくる。
フルは全力で逃げるが、もう遅い。
ハークはもう目の前だ。
「ふうううぅぅ」
ハークはゆっくりと息を吐く。
それと同時に拳を大きく振り上げる。
「GYAAAAAAAaaaaAAA」
ハークは叫びながら拳を振り下ろす。
誰もがフルの敗北を思い浮かべた瞬間。
フルはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「ジャスト1分。俺の勝ちだ」
フルの目の前でハークの拳が止まる。
そう、狂戦士の効果が切れたのだ。
刹那、スキル闘志とユニークスキル一点集中を発動する。
もう潰れ、動かない腕を無理矢理動かす。
その腕をハークの腹に全身全霊をとした一撃を叩き込む。
ドォッという音を立ててハークに攻撃が当たった。
「がぁぁっ!」
ハークは血を吐き白目を剥きながら倒れた。
一瞬訪れる静寂。
そして、一拍おいてから大きな歓声が沸いた。
「あああああぁぁぁぁぁaaaaaaaAAAAAA!!!」
フルは立ち上がり大声で叫んだ。
だが、もう体が限界なのだろう。
すぐにふらつき倒れしまう。
倒れた瞬間、戦いに夢中になって忘れていた痛みが蘇る。
その痛みによって、フルは意識を刈り取られてしまった。
薄れゆくフルの意識の中脳内に直接声が聞こえた。
━称号『生還者』を獲得しました━