勝てる気がしない
フルはハークに殴られる寸前に初級魔法である土操作を使い体の周りに土をまとわせ、防御力を上げていたのだ。
だが、そのせいで魔力のほとんどを使い切ってしまった。
ハークの狂戦士がきれるまであと大体50秒、その間フルはずっと逃げなくてはいけない。
勿論、戦うなんて選択肢はない。
フルが戦ってもハークに負けるのは火を見るより明らかだ。
さらに、フルは魔法やスキルなどの魔力を使うものが使えない。
それには理由がある。
ハークを倒すには、魔力を使い己の全力を、全身全霊を込めた一撃をハークに叩き込む必要があるのだ。
勿論、狂戦士を発動しているハークには焼け石に水だ。
だから、狂戦士の効果が切れる瞬間、少し動きが鈍る瞬間に攻撃を仕掛ける。
これしかフルがハークを倒す方法がない。
「ははっ!勝てる気がしねぇ…」
なんて事を呟いていたら、ハークがこっちに歩いてきている。
「ふぅー」
目を閉じ静かに息を吐き精神を統一する。
それと同時にフルはまた思考を加速し生き延びるため、勝ための活路を見出そうとする。
ハークがあと20メートルにも満たない距離まで近づいてきた。
ハークは少しずつ速度を上げていく。
あと、十メートルといったところだろうか。
ハークはぐっと足に力を込め、フルに向かって大きく跳躍した。
ハークの視線はフルの頭に向いている。
フルの頭を思いっきり殴ろうとしているのだ。
ハークの拳がフルにぶつかろうとした瞬間、ハークの視線からフルが消えた。