武道会の開催
ある夏の日、その日はとても暑かった。
育ち盛りの子供たちでさえ、家で大人しくしていた。
そのせいか、ビト村は異様に静かだった。
突如、ビト村の静寂を打ち消す程の大きな産声が響き渡った。
「おぎゃーおぎゃー」
「やったわ!無事産まれたわ」
「あぁきっと元気な子になるよ」
子供が無事に生まれ、二人の顔は幸せを具現化したかのように嬉しそうだった。
「名前はどうしようかしら」
「とびっきりかっこいいのにしないとな!」
この時はまだ知る由もなかったのだ。
その子に悲劇が訪れるなんて…
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その子が生まれて4年と半年が経った。
その子は父と母に幸運を意味する ヴォート と、名付けられた。
ヴォートは二人からたっぷりと愛情をそそがれ、風一つひかずに強く育った。
そのお陰か、同年代に間では負けなしだった。
今日は1年に一度開かれる武道会の日だった。
この大会での優勝賞品は金や銀などかなり、高価なものだった。
そのせいか、みんなガチで優勝を狙っているのだ。
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この大会では年齢別で戦うことになっている。
その理由は5歳になるとする儀式にある。
その儀式をするとステータスが最低でも10倍以上は上がるのだ。
他にも、レベルがついたり、ステータスカードを貰えたりと、色々あるのだが今は割愛しておく。
…と、そんなことを言っているとヴォートの父であるフルが対戦を始めるようだ。
対戦相手は村一番の体格を持つハークだ。
フルも十二分に体格は良いのだが、ハークはそれ以上に良いのだ。
正直なところ、ほとんど化け物にしか見えない。
二人が広場の中央に立つ。
フルは威風堂々と立ち振る舞っていた。
まるで、確実に自分が勝つこと思っているかのように。
その態度がハークは気に入らなかったのかかなり機嫌が悪そうだ。
入場の時、起こっていた歓声も徐々に静かになっていく。
二人が戦いに備え構えたその瞬間、村は静寂に包まれた。
カーン
試合開始の鐘が鳴る。
その瞬間、刹那にも満たない時間で二人がぶつかり合う。
ヴォートには速すぎてほとんど見えていなかった。
それでも、ヴォートは無我夢中に父であるフルを応援した。
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次々と試合が進んでく。
その度に俺の鼓動は加速していった。
1回戦の対戦相手はハークだ。
体格的にもレベル的にも正面からやって勝てる相手ではない。
(普通にやっても勝てるはずがない。なら…)
フルも普通にやって勝てないのは解っていた。
だからこそ、フルは勝つために思考を加速させ、集中する。
遠くからべっとりとした気持ちの悪い目線にも気づかない程に…