第1話 ノーアニメ、ノーライフ
これはとあるアニメ・マンガ・ゲームが好きな一人の人間の奇妙な生活の話である。
「ウォオオフフフ…カニちゃんカワイイよぉフフフ…!」
日曜日の真昼間から部屋に籠り、もう4月だというのに秋アニメの録画していたものをひたすら消化する者がいた。ニートではない決してニートではない。その者は一応社会人だ。その風体が、容姿が、部屋にある者が、その年齢の人間のものではないが、成人している。むしろ、社会人だからこそこのように休みの昼間から堂々とテレビの録画を観られると思う。幼い頃出来なかったことをできるのは社会人の特権ではなかろうか。その特権と引き換えに責任や勤労、納税などの義務を負う訳だがそれは別の話だ。
それはそうと一体なぜこの人間はいい年こいてこんな気色の悪い音を発しているかというと、単純な話であるが視聴しているアニメの女の子がとてもかわいかったのである。誰しもあろう、いろんな人の力が組み合わさり、完成したものに涙することが。同じように涙は出ずとも脳にいいホルモンが出て感嘆の声が部屋中に響き渡った、それだけのことである。
この者は安藤夏夜、会社勤めのしがないリーマンである。高校を卒業し、家が貧乏だったため進学を断念し、地元の企業に就職した。女性に生まれたため、就職口があまり見つからず苦労した。何やかんや今の会社に決まったものの、そこはなんちゃってブラック企業だった。会社の休日のカレンダーが家に飾られるようなものと休みが異なったり、上司から「有給は有って無いようなものだから」と言われたり、土日休みだとしてもどちらかは出勤しないといけないという無言の圧力を感じたりと、明らかに「ホワイト企業」とは呼べないものだったのだ。しかし残業代は出るし、やっていることはまあ楽しいし、周りの人とのちょっとしたふれあいも楽しいし、高卒ゆえ転職先の待遇に不安があり転職できないでいる。だが恒常的な公休出勤と残業のおかげでこうしてオタク生活を満喫出来ているので本人は最近はあまり気にしていないようだ。
ある分岐点にぶち当たるまでは—