不本意です!
こんにちは、私はルイスです。
エルフ族代表アネモスの長子でA級冒険者ですが、依頼がない時は国王であるエヴァンの補佐をしています。
最近はいろいろ立て込んでいて、依頼どころではなかったのですが、ようやく解決したので少しはゆっくりできるでしょう。
ちょうど良いので、フェリーチェとアルベルトを我が家に招待しました。
「わぁ~木の家なんですね」
「やっぱりエルフだから?」
「どうでしょうね。木造じゃない家もありますから。私はこちらの方が落ち着くんですよ」
「私もなんか懐かしい……落ち着きます」
「そうだね……いい匂い」
いい匂いと言ったアルベルトから‘ぐぅ~’と音が聞こえた。
「アル、木も食べれるの?」
「いくらなんでも木は食べないよ!?甘い匂いがしたの!」
アルベルトがプンプンしながら言った事に、心当たりがあったので教えてあげました。
しかしおかしいですね?
今の時間帯ならおやつを食べてる筈ですが。
「あなたちが来ると聞いて、茶菓子を作ってると思いますよ。それにしてもアルベルト、おやつを食べなかったんですか?めずらしい」
私が聞くと、目を逸らして答えようとしなかったのでフェリーチェに目を向けると、苦笑しながら答えてくれました。
「実は……今お母様がお菓子を食べないようにしてるんですけど、アルがお母様の前でバクバク食べてお父様に‘他の場所で食べてくれ’って言われたんです」
「おやおや」
「だって……そこにお菓子があれば食べるでしょう?我慢なんてしないよ!だいたい、お母様が食べれないのは食べ過ぎたからだし、僕はいくら食べても太らないもんね!でも、しょうがないから夜食べてたんだよ」
「夜ですか?寝る前に食べてはいけませんよ」
「分かってるよ。だから、フェリを魔法で早く寝かせてからコッソリ食べてたんだ。でも、ライリーとオリビアが気付いてお父様にバレたら、おやつ禁止されちゃった」
ちょっと待ちなさい!
「夜食べても太らないなんて、羨ましいよ」
フェリーチェ、そこじゃありませんよ!
この子は天然なんでしょうか?
それとも……いえ、ここは私がはっきり言わなければ!
「アルベルト、あなた今‘魔法で眠らせて’と言いましたね?」
「うん!フェリが、早く寝ればその分ゆっくり食べられるし、バレたら食べれなくなるからね」
良い笑顔です。
まさか……こっちもですか?
「も~私だって予定があるんだから、眠らせるなら先に言ってよ。」
魔法で眠らせる事は良いのですか!?
あぁ……この子たちの将来が不安です。
痛む頭に手を当てながら、家の中へ案内しました。
中では父が待っていて、2人を見るなりニコニコ笑いながら近付いて来ました。
「良く来たね。さぁこちらに座りなさい。お茶も、お菓子もあるからね」
「は~い」
「お菓子!」
2人に声をかける父は、孫を前にした祖父のようでした。
うちは、誰も結婚してませんからね。
私は、エヴァンから目が離せませんし。
さて、取り合えず。
「2人とも、食べる前に手を綺麗にしなさい」
「「は~い!おかぁ……っし、美味しそう!」」
今……なんて言いかけました?
あなたたち、目が泳いでますよ……父上も、そんなに震えて……風邪ですか?
まったく、今回は聞かなかった事にしましょう。
おやつを食べた後は、‘見ため’同年代の子たちに会わせてみました。
年齢で会わせると、赤子なので話せませんからね。
ただ、2人に会わせた子たちは自尊心が強くて生意気になる年頃で案の定、絡みだしました。
本来なら止めるべきでしょうが、2人なら大丈夫でしょう。
私は今のうちに、父に仕事の報告をしておきます。
2時間後、報告ついでに愚痴を言っていたら遅くなってしまいました。
少し足早に2人の元に向かうと、そこには笑顔で走り回る子どもたちと…………ボロボロになった庭。
ボロボロになった庭?いったい何が!?
私がゆっくり近付いて行くと、気付いたフェリーチェが悲鳴をあげました。
「ヒィッ!ル、ルイスさん!?」
「ゲッ!?もう来た!」
「随分な挨拶ですね?それで……主犯は誰ですか?」
私がそう尋ねると、全員ガタガタしだしました。
‘普通’に尋ねているだけなのですが、何をそんなに怯えているのですか?
更に尋ねようとすると、フェリーチェが魔法で庭を元通りにしました。
エルフの子たちは、ビックリした顔をしていて、アルベルトはホッとしていましたが……そういう事じゃないでしょう?
その後ですか?
もちろん、しっかり叱りましたよ。
「ごめんない!母ちゃん!」
「ゆるしてよ!お母さん!」
「わざとじゃないの!母様!」
「すいませんでした。おかぁ、ゴホッゴホッ……ルイスさん」
「それくらいで許してよ、ルイ……お母さん」
おやおやアルベルト、‘ルイス’で合ってますよ?
何故、そちらに言い直したんですか?
まったく、どいつもこいつも!
「私は、‘母ちゃん’でも‘お母さん’でも‘母様’でもありません!」
 




