誕生祭~襲撃者~
69話目です。
時間が少し遡る。
突如、召喚陣から現れたサイクロプスを見てクロードが指示を出した。
「ライリー、オリビア!全員避難させろ!ミゲルとネイサンは魔法で援護だ!」
クロードはそう言うと馬車に向かい走り出したが、その時にはワイバーンも強襲していて、兵士たちがパニックになりかけていた。
オースティンたちが、サイクロプスに構えるのを見てアンジェラが思わず名前を呟いた。
「オースティン……」
「アンジェラさん……ミゲルお兄様、サイクロプスって強いの?」
「強いが、オースティン様たちなら大丈夫だ。しかし、陛下たちを護りながらとなると」
「ここでは全力で戦えません。正直、厳しいですよ」
「ネイサン!」
「すいません……しかし」
「いいのよミゲル。わたしも冒険者だもの、分かってるわ」
「ともかく、急いで避難しましょう。オリビアは先導をライリーは殿を頼むわ」
サマンサが避難を促すと、アルが馬車の方に歩き出した。
「アル!何してるの!?」
「ごめんねお母様、僕は避難しない」
「アル……戦うの?」
「大丈夫だよフェリ。戦いにもならないから」
「アルベルトっ……オースティンを……皆を、どうか!」
「アンジェラ、大丈夫だから君は自分と子どもの
ことを考えるんだよ」
そう言ってアルは地を蹴り跳び上がった。
「アル……皆、早く避難しましょう!」
オリビアに先導され避難していると、道の角を曲がった瞬間、私とオリビアとライリー以外の人間が消えた。
ミゲルに抱えられていた私は放り出され、ギリギリでライリーに助けられた。
「え!?ありがとうライリー!止まってオリビア!お母様たちが消えたわ!」
「なっ!?どういうことですか!」
「分からないの!角を曲がったらいきなり、ライリーも見たでしょ?」
「はい、確かに見ました!恐らく何らかの魔法かと」
「一瞬、魔力を感じたの……もしかして、転移?とにかく『探索』で探すわ!」
消えたサマンサたちを探している一方、サマンサたちは草原に来ていた。
「ここはいったい……皆、いる?」
「フェリとライリーとオリビアがいません」
「フェリは私が抱えていたはずですが」
「お義姉様、どうやらわたしたちだけ転移されたようです」
「転移?いったい誰が?」
「皆様、冷静でいらっしゃるぅ。もっと取り乱す事を期待していたんですけどねぇ」
「「何者だ!」」
いきなり聞こえた声に反応して、ミゲルとネイサンが2人を庇うように前に出た。
声をかけてきたのはフードを目深に被った者だった。
声からして男だろう。
「おやおや騎士気取りですかぁ?ご立派ですねぇ」
「何者かと聞いている」
「目的はなんですか?」
「せっかちですねぇ。ワタシはゼロと申しますぅ。世界一の一流の殺し屋でぇ、目的はぁ王族をぉ滅ぼすことでぇ~す」
「殺し屋……王族を滅ぼすだと!」
「手始めにぃ王都にいるのを殺してぇ、終わってからぁ他を殺しにいきますぅ~」
「あの召喚陣は貴方の仕業ですか!?」
「正解でぇ~す。ご褒美にぃ貴方からぁ……殺しちゃいますねぇ」
ゼロがそう言った瞬間、ネイサンが吹き飛ばされた。
――ボコッ!
「ネイサン!?」
「次でぇ~す」
――ボコッ!
間近に聞こえた声を認識する前に、ミゲルの体も吹き飛ばされネイサンの近くで動かなくなった。
2人とも腹に穴が開き、血だまりが広がっていく。
「ミゲル……ネイサン……嫌ーーー!!」
「大丈夫ですよぉ。直ぐに同じとこにぃ行けますからねぇ」
「お義姉様!!」
恐慌状態になったサマンサめがけてゼロが腕を突きだす前にアンジェラが出ると2人の魔道具が発動し、結界が張られた。
ゼロが弾かれ距離を取ると、アンジェラはサマンサの手を引きミゲルとネイサンの元に向かった。
「お義姉様!2人ともまだ息があります!治癒を!」
「でも……でも、こんな傷っ!」
「あの子がいます!!生きてさえいれば助けられます!お義姉様!」
「あぁ……そうよっ……あの子がっ」
――バシン!
サマンサは自分の頬を叩くと、しっかり2人を見つめてアンジェラと共に治療を開始しした。
ゼロは再度攻撃するが、結界に阻まれ届かない。
「結界ですかぁ?頑丈ですねぇ。でも、魔力が切れればおしまいですよぉ」
そう言って、ゼロは攻撃し続けた。
そして、徐々に結界にヒビが入りついに砕けた。
「終わりですねぇ?」
ゼロが腕を振り上げるが、サマンサとアンジェラは動くことが出来なかった。
(クロード!)
(オースティン!)
2人は死を覚悟するが、衝撃は訪れず代わりに聞こえたのは頼もしい男の声だった。
「随分、舐めたまねしてくれるじゃねぇか……このクソ野郎が!!」
――バキィ!!
ゼロは攻撃され吹き飛ぶ。
サマンサとアンジェラが目を開けるとそこには、トラスト王国国王レグルスと騎士の格好をしたケイレブが立っていた。
「「レグルス様!?ケイレブ!」」
「おう、大丈夫……じゃないな。ケイレブ、手伝え!」
「はい」
レグルスに従い、ケイレブが治療に加わった。
「お久しぶりです。サマンサ様、アンジェラ」
「ケイレブ、治癒も出来たの?」
「オレは陛下の護衛隊長ですから。あの人、しょっちゅう怪我するので」
「ケイレブ、治せなくていいの。生きてさえいれば、あの子が助けてくれるから!お願いっ!」
「……尽力します」
ミゲルとネイサンの状態を確認して、レグルスは抑えきれない怒気を纏いゼロに近付く。
「いつまで寝たふりをしているつもりだ?」
「あれぇ分かりましたぁ?」
「そのフザケた喋りを止めろ!」
「嫌ですぅ~」
「なら……黙らせてやる!」
レグルスが攻撃をしかけ、ゼロとの戦闘が開始したが、直ぐに異変が起きた。
突然ゼロが苦しみだしたのだ。
「ギャーーー!!いたい、いたい、い゛だい゛ーーー!!」
「何だ……いったい何が?」
ゼロに視線が集まっていると、サマンサの目の前に転移する者がいた。
――シュン
現れたのはフェリーチェとライリーとオリビアだった。
「お母様!無事ですか!?」
「フェリ……フェリーチェ!お願い……ミゲルとネイサンを助けて!」
「「ミゲル様!ネイサン様!」」
「お兄…様?……っ『復元』!」
魔法が発動し、光が収まると穴も塞がり血色も戻ったミゲルとネイサンがいた。
サマンサは2人にすがり付き涙を流し、アンジェラもサマンサの背を撫でながら泣いていた。
ケイレブは目を見開き凝視していた。
「ミゲル!ネイサン!……良かったっ……うぅっ」
「これが、カルロスたちを治した魔法か」
「っ本当に……良かったっ……フェリーチェ……フェリーチェ?」
アンジェラが声をかけるが、フェリーチェの纏う魔力に戸惑った。
いつも暖かく穏やかでキラキラしていた魔力が、冷たくドス黒い魔力に変わっていた。
何よりも、フェリーチェの瞳は暗く濁り何も映してはいなかった。
読んでくれてありがとうございます。
次回、「誕生祭~歪み~」です。




