動き出すもの
62話目です。
私がレベッカさんを治療してから、半年がたった。
チェイスたちはあれから直ぐに国に戻り、ディアネス共和国とトラスト王国が協力して、帝国に目を光らせているが、ブータンを捕らえてから目立った動きはないようだ。
ベルナルドたちも国民になる事が認められ、仕事をしながら順調に暮らし、帝国の情報も提供してくれていた。
治療所にも新しい治癒師が派遣され、通常の料金で治療が受けられるようになった。
今回の件で教会と‘いい取引が出来た’とルイスが言っていた。
それと残念ながら、治療しようと思っていた冒険者は帰って来なかったので、会うことは出来なかったが、いずれ機会があると思うので冒険者ギルドには、流民の‘サヨ’と‘アル’として顔を出し‘旅をする’と言って別れを済ませていた。
私とアルは当初の予定通り、アンジェラたちから教養や礼儀作法、貴族について学びながら過ごしていた。
「あ~疲れた~礼儀作法は難しいよ。フェリもそうでしょう?」
「私はそうでもないよ。どっちかっていうと歴史とか経済とか苦手かな。数学とかは前世の方が進んでたから楽勝だしね」
「え~ズルいよ。ねぇ今日はこれからどうする?」
「取り合えず体力づくりの散歩かな」
午前中は勉強をしたので、午後から敷地内を散歩することにして、お喋りしながら歩いていた。
「今日もいい天気だね」
{今日も‘お客さん’が来てるね}
「本当だね。毎日、散歩日和で嬉しいよ」
{本当、毎日あきないよね}
「お父様たちもゆっくり出来たらいいのにね」
{お父様に連絡しておくね}
「最近、忙しくしてるから心配だよね。今日も家に僕たちだけしかいないから寂しいよ」
{取り合えず、どっちが目的か探ろうか}
「うん」
{了解}
最近、ファウスト家を見張る者がいた。
観察していると、どうやら目的は2つあるようで、1つはアンジェラさん、もう1つはファウスト家の養子、つまり私たちだ。
前者は、‘アンジェラの体が完治した’という噂が流れたから頻繁に見に来ていて、これは今のところ放置している。
後者は、‘あのファウスト家が幼い2人の養子をとった’という噂が流れてから来るようになった者たちだ。
こちらは、手を出して来なければ放置し、出してきたら捕らえるようにしていた。
2人だけでの散歩は、目的を知るための囮であるが一番は体力づくりなので、それはあくまでついでだ。
今回はどうやら前者だったみたいで私たちが移動してもついてくることはなかった。
夕食を食べて、クロードの執務室に集まり今日のことを報告した。
「そうか、今日はアンジェラだったか。オースティン、そろそろ正式にアンジェラの懐妊の発表しようと思うんだが」
「分かった。しかし、どこで発表するんだ?」
「今度エヴァンの生誕祭があるから、そのパーティーでやろうと思ってる」
「アンジェラには伝えておく。ギャレットの方は?」
「ギャレットの方はパーティー内でそれとなく話して反応を見よう……それと、誕生祝いは喜ぶだろうが、あまり羽目を外さないようになしなさい。アル、フェリ」
「「何で分かったの!?」」
「何でって、そりゃお前たちの顔が何かやらかしそうにしてたからだろ。まぁ兄上は喜ぶだろうがな」
「今回は、2人のお披露目もかねているからな。サマンサから離れないように」
「「は~い」」
私とアルは夜な夜な、エヴァンのプレゼントについて話し合い準備を進めていた。
何をするかはまだ内緒にしているが、クロードたちは生暖かく見守りつつ、やり過ぎないかを心配していた。
しかし、誕生祭の前にファウスト家に嵐が近付いていた。
誕生祭の1週間前、1台の馬車が屋敷の前に停まり玄関を開けて2人の少年が入ってきた。
「ただいま戻りました」
「久しぶりの我が家だな」
「お帰りなさいませミゲル様、ネイサン様」
「久しぶりだなヘンリー、父上と母上に挨拶をしたいのだがどこにいらっしゃる?」
「クロード様は城に、サマンサ様は庭においでです」
「分かった。行くぞネイサン」
「はい、兄上」
2人が庭に向かうと、楽しそうな話し声が聞こえてきた。
「誰か来てるのか?」
「アンジェラさんと、子どもの声……でしょうか?」
さらに近づくと、会話がはっきり聞こえてきた。
「2人とも危ない事はしないでね」
「は~い」
「大丈夫だよ。それよりこれ見て!誕生プレゼントにするやつなんだ」
「まぁ、綺麗ですね。2人で考えたの?」
「はい!……やり過ぎにならないかな?」
「大丈夫よ!こんなに綺麗なんだから。何か言われたらお母様が相手になるわ」
「ありがとう。お母様」
「お父様ってお母様に弱いもんね。ところで、さっきからこっちを見て固まってる人たちは?」
「「「え?」」」
アルに言われ、視線の先を見ると2人の少年が立っていた。
「あら、お帰りなさい。2人とも、前にいるのが長男のミゲルで後ろにいるのが、次男のネイサンよ。あなたたちの兄にあるわ」
「「は?」」
「久しぶりですね。ミゲル、ネイサン元気にしてましたか?」
「「お久しぶりです。アンジェラさん」」
「初めまして、フェリーチェです」
「初めまして、アルベルトだよ」
「「宜しくお願いします。お兄様!」」
「「お、お、お兄様!?」」
にっこり元気よく挨拶すると、2人の叫びこだました。
どういうことかと詰め寄る2人をサマンサがなだめて、談話室に移動して事情を軽く説明した。
「事情は分かりました。まずは、アンジェラさんおめでとうございます」
「おめでとうございます」
「ありがとう」
「フェリーチェ、アルベルト、私はミゲルだ。よろしく」
「私は、ネイサンです。よろしく」
「「よろしくお願いします」」
2人はアンジェラと私たちに挨拶したあと、サマンサを見て言った。
「それにしても人が悪いですね。何故、今まで教えてくれなかったんですか?」
「兄上のいう通りですよ。手紙で教えてくれても良かったでしょう?」
「あら?寮に入ってからろくに手紙もくれず、長期の休みにも帰らず、学校のイベントに行っても構ってくれないのは誰だったかしら?」
「うっ……それは、いろいろ忙しくてですね」
「兄上も私も生徒会役員なので、仕事が」
「あらあらあら、お兄様たちが役員だった時も忙しくしていたけれど、此処まではなかったのに……あの人たちが優秀だったのかしら?それとも、あなたたちが無能なのかしら?どう思います、アンジェラ」
「お義姉様、ミゲルもネイサンも優秀ですもの。きっと何か理由があるのよね?」
アンジェラが2人を見ると、気まずそうに目がキョロキョロしだして、それを見たサマンサが更に追い詰める。
「そうよね……でも、せっかく可愛い弟と妹が出来たのに、帰れないなんて。アルもフェリもお兄様たちに会えないわね」
「え~学校の話とかいろいろ聞きたかったのに」
「しょうがないよフェリ、お兄様たちは優秀だから忙しいんだよ。我慢しなきゃ」
「でも……お兄様が出来て嬉かったのに」
不満げにしながら、シュンとした私たちをサマンサが慰めるように撫でる。
「大丈夫よ。少なくとも今日みたいに1年に1回は帰って来るもの」
「「1回……1回かぁ」」
ジ~っ自分たちを見る幼児の視線に耐えかねたのか、先にミゲルが降参した。
「分かった、分かりました!これからは手紙も書くし、休みも帰るようにします」
「でも、忙しいのでしょう?」
「忙しいですよ。おもに、あのアホのせいで」
「兄上……殿下に向かって不敬ですよ。あの方はただ、いつまでも心が5才児なだけです」
「いやいや、お前の方が酷いだろ……まぁその通りだが」
どうやらネイサンはかなりの毒舌のようだ。
「私も兄上も帰りたいのですが、その度にあの方が問題を起こして、尻拭いが大変なんですよ」
「さすがに、陛下の誕生祭に出ないわけにはいかないから、やっと帰れたんです」
「あら、そうだったの。ごめんなさいね、そうとは知らずに。それにしてもあの子はしょうがないわね。お兄様もクロードを振り回しては、私たちの邪魔をしていたわ。2人とも、大丈夫よ。お母様がお話してみるわね」
そのときのサマンサは慈愛に満ちた顔をしていたが、何故だろう体が震えてしまった。
その後、クロードが帰ってきて改めて私たちの事や、今までの事を話した。
私の素性やアルの招待を聞いても‘そんなことは関係ない、アルは弟でフェリは妹だ’と言ってくれた。
その日は、学校の事や殿下が起こした騒動を聞いて過ごした。
寝る前に2人が言った。
「絶対にあいつに2人だけで近付くな」
「必ず厄介ごとに巻き込まれるよ」
「「は~い」」
真剣に言うので取り合えず返事はしたが、かなり興味があったので、それが顔に出ていたのだろう。
クロードが頭を押さえ溜め息をついていた。
読んでくれてありがとうございます。
次回、「誕生祭~パーティー~」です。




