スミス家
61話目です。
私は今、アルとオースティンとアンジェラと一緒にスミス家に馬車で向かっていた。
「あの……スミス伯爵の奥さん、レベッカさんも薬で?」
「レベッカは妊娠はしていなかったが、食事や飲み物に少しずつ薬を混ぜられていたらしい」
「気付いたときには、あらゆる臓器が弱っていました。魔法で回復しましたが、いくつかの臓器は治せなかったと聞いてます」
「それって、屋敷の中に犯人がいたってことだろう?」
「あぁ……ギャレットは犯人を捕らえたが、黒幕を聞き出す前に自害した。目的がギャレットの弱みをつくことなのかレベッカ本人がだったのかも分かっていない」
「じゃあ黒幕は捕まってないんですね?」
「残念ながらな」
「あっ、冒険者の方はどうでしたか?」
「今、依頼で国外に行ってるらしくてな。戻ったら連絡が入るようにしてる」
「そうですか」
話しているうちについたらしく、馬車が止まったのでオースティンが先に降りた。
全員が降りると玄関が開き初老の執事が出てきて中に案内された。
(あれ?何だか使用人が……)
案内された部屋の中に入ると、短髪で鋭い瞳をした男が無表情で待っていた。
(美形だけど……怖いな)
私が内心ビビっていると、男が口を開いた。
「私はギャレット・スミスだ」
「初めまして、サヨです」
「僕はアル」
「率直に言わせてもらうが、クロードやオースティンから聞いてアンジェラを見た後でも、にわかには信じられない。だが、少しでも可能性があるならレベッカを治してくれ」
そう言って、ギャレットは深々と頭を下げた。
「頭を上げて下さい。レベッカさんのところに案内してもらえますか?」
「あぁ、だが出来れば君とアンジェラだけにしてもらいたい。男がいるとレベッカが気にする」
ギャレットの言う事はもっともだったので、オースティンとアルは部屋に残して、3人で移動した。
ギャレットが案内した部屋に入ると、痩せ細り弱々しく呼吸する女の人がベットにいた。
「レベッカ!?……まさかこんなに」
「一度は魔法で回復したが、完全には治せなかった。日に日に弱り今では寝ている時間の方が長い」
ギャレットの話を聞き、アンジェラは涙ぐみながら私を見た。
アンジェラに頷きながら、レベッカを心眼で確認すると、胃と腸と肝臓と子宮と肺の片方が駄目になっていた。
(こんな状態でよく……でも、もう……絶対治してみせる!)
私はレベッカの手を握り魔力を高めた。
後ろで、ギャレットが息をのむ気配がしたが、気にせず魔法を発動した。
「『復元』」
治す場所が多いいので、いつもより時間がかかるが集中する。
発動して5分位だろうか、レベッカを包んでいた光が収まり目を向けると、呼吸が落ち着き最初に見たときよりふっくらした可愛い女の人が眠っていた。
握っていた手を放し、ベットを放れるとギャレットがレベッカに近付き頬に触れて呼びかけた。
「レベッカ……レベッカっ……」
すると、レベッカの瞼が震え少しずつ開いていき、その瞳がギャレットを写した。
「……ギャレット……どうしたの……そんな顔しないで」
レベッカの声を聞き、ギャレットは肩を震わせレベッカを抱き締めた。
私とアンジェラは静かに部屋を出てアルたちが待つ部屋に移動した。
「おかえり2人とも。うまくいったか?」
「はい、大丈夫だと思いますけど、後でもう一度みてみます」
「少し時間がかかってましたが、大丈夫ですか?フェリーチェ」
「大丈夫ですよ。治す場所が多くて時間がかかっただけですから」
「そういえば彼には僕たちの事、どこまで話してるんだい?」
「ギャレットはこの国でも信頼できる男だから、全部話してる」
「なら何でこの姿で自己紹介したのさ」
「‘サヨ’と‘アル’がこの屋敷に来たという事実が必要だったからな」
「成る程ね」
オースティンの説明を聞きアルが納得したように頷いた。
私は、この屋敷に来てから気になってた事を聞いてみた。
「そういえばこの屋敷って、使用人が少ないですよね?」
「あんな事があったからな、ギャレットが制限しているんだ」
「ですが、レベッカが回復した事が伝われば、また何かが起きるのではと心配です」
アンジェラが膝の上で手を握り締めていたので、私はそっと手を重ねた。
「ギャレットさんとレベッカさんには私たちが作った‘お守り’を渡そうと思ってます」
「フェリーチェ、アルベルト……いいのですか?」
「はい」
「数はたくさんあるからね。それにせっかくフェリが治したのに、それを無駄にされるのは好きじゃないし……腹が立つ」
「たしかに、あの‘お守り’があれば黒幕に集中出来るな」
「でも過信は出来ません。不足の事態起きないとも限りませんから」
「そうだな……」
「誰か来たみたいだね」
アルに言うと同時にドアがノックされた。
返事をすると案内してくれた執事が入って来た。
「失礼いたします。旦那様が部屋に来て欲しいそうです。宜しいでしょうか?」
「構わない。さっそく行こう」
皆でレベッカの部屋に入ると、少し表情の柔らかくなったギャレットと身支度を整えたレベッカが待っていた。
「久しぶりですねオースティン様、アンジェラ」
レベッカがオースティンとアンジェラに声をかけた後、私たちに目を向け頭を下げた。
「初めまして、わたしはギャレットの妻レベッカです。この度は、助けてくれて感謝しています」
「私からも感謝する」
レベッカに続いてギャレットも頭を下げた。
「初めまして、サヨです。お二人とも、どうか頭を上げてください」
「僕はアルよろしく。ところでもう1つの姿でも挨拶した方がいいのかな?」
アルがイタズラめいた笑みをうかべギャレットに聞くと、レベッカは首をかしげギャレットは目を見開いた後、苦笑して頷いたので変化を解いた。
と言っても、解いたのは私だけでアルは更に変化したのだけど。
「えっと、改めてフェリーチェ・ファウストです。よろしくお願いします」
「アルベルト・ファウストだよ。よろしくね」
2人でニッコリ自己紹介するとレベッカは唖然とし、ギャレットは関心したように見ていた。
「え?……子ども……ファウストって……え?」
「本当に幼児なのだな。確かアルベルトの方はそれも変化した姿と聞いたが、フェリーチェはその歳であれだけの魔法を使いこなし、魔力も豊富なのか。これからが楽しみだな」
「………って、1人で納得してないで説明しなさいよ!どういう事なの?わたしが寝ている間に何があったのよ!?」
混乱するレベッカをよそに、ギャレットがブツブツ言っていると、レベッカがギャレットの襟元に掴みかかり揺さぶりながら叫んだ。
(あれ?なんかさっきまでと違う……混乱し過ぎたのかな?大丈夫かな?)
先程のお淑やかな態度と違ったので心配していたが
、それは杞憂だった。
「すっかり元通りだな」
「えぇ、あの姿を見たときは心配だったけど、すっかり元気になって良かったわ」
(なんだ、あれがレベッカさんの本来の姿なんだ。良かった!)
オースティンとアンジェラの会話を聞き、安心していると、アルがオースティンに質問した。
「ねぇねぇ、女の人って普段はお淑やかなのに、興奮するとああなるって事は、あれが本質なの?」
「え?……いやっ……」
「だって、何かあると男の方が言い負かされたりしてるし、逆らえない空気?があるっていうか……やっぱりアンジェラにもああいう時ってあるの?」
「は!?……な、何言ってんだフィアフル」
「アルベルトだよ~、なに焦ってんの?」
「焦ってない!……お前が変なこと言うから!」
アルの追撃に、アンジェラをチラチラ見ながら冷や汗をかいてるオースティンの姿に可哀想になり、止めてあげる事にした。
「アル、オースティンさん困ってるでしょう。人それぞれなんだから」
「ふ~ん……ねぇフェリ、ああいうのって何て言ったっけ?し、し、しり?」
「尻に敷かれてる?」
「そう、それ!」
「お前ら……はぁ~」
オースティンは私たちの会話に呆れたように溜め息を吐いていた。
アンジェラはというと会話している間、何も言わずニコニコこちらを見ていた。
正確には、オースティンを見ていたのだが、気にしない事にした。
そんな話をしている間にギャレットがレベッカに説明し終わったのか、取り合えずソファに座るよう促された。
「それにしても驚きました。先程は取り乱してみっともないところを見せてしまいましたわ。どうか、忘れてくださいね」
「「はい」」
お願いしているようで、有無を言わせない空気を纏ったレベッカに私とアルは即答した。
その後、2人に‘お守り’を渡したのだが、かなり驚かれ遠慮されたので遠慮する必要はないと、渡している他の人物を伝えると疲れた顔で受け取っていた。
今後の事はクロードたちと話し合うことになったので、今日は帰ることになった。
ファウスト家に戻るとサマンサが待ち構えていて、アンジェラはサマンサとゆっくりする事になり、私たちはクロードの元に行き報告する事にした。
「ご苦労だったな。レベッカは大丈夫だったか?」
「かなり酷い状態だったよ。生きてるのが不思議なくらい。ちゃんと治して‘お守り’も渡して来たの」
「そうか……これでギャレットが動きやすくなるな」
「だがクロード、どうやって奴等を探すんだ?」
「それには考えがあるが、関係者が集まった時に話す。……今度こそ逃がさん。生きている事を後悔させてやるさ」
「……わ、分かった」
クロードが薄ら笑いで言った内容に、オースティンは顔を引きつらせた。
アルはそれを気にしてないようで、遠慮なくクロードに尋ねた。
「お父様、地下牢にいるのはどうなったの?」
「奴等ならベラベラ喋ってくれたぞ。ベルナルドたちからも情報は手に入れたが、正直この段階で帝国を相手にしてもうやむやにされるだろうからな。今は、各冒険者ギルドに魔道具の件を話して警戒する事しか出来んだろう」
「そう……まぁ仕方ないか。フェリ、分かってると思うけど」
「勝手に動くな、この件はお父様たちに任せる……でしょう?」
「そういうこと。約束だよ?破ったら……フフッ……今度はどんなお仕置きがいいかな?」
「やだやだやだやだ」
心底楽しそうに笑うアルに私はビビリ、クロードとオースティンはどん引きしていた。
「お、お父様!ベルナルドさんたちは、これからどうするんですか?」
「ベルナルドとカルロッタは獣人代表の方へ、ルーカスとクレアはエルフ族代表に会ってもらう事になった」
「そうなんだ。……良かった」
「フェリ?良かったって、彼等が気になるの?」
「気になるっていうか……首輪を外した時にお礼で抱き締められたんだけど、懐かしいような……暖かい感じがして、嬉しかったんだ。だから、ベルナルドさんたちが、この国で暮らせば嬉しいなって思ったの」
「そっか」
アルが優しく笑ったので、恥ずかしくなり視線を反らしてクロードを見ると目を見開き驚いた顔をしていたが、直ぐに元の表情に戻った。
私は不思議に思いながらも追及せず夕食の時間になったので、全員で食堂へ向かった。
読んでくれてありがとうございます。
次回「動き出すもの」




