決意
60話目です。
外れた首輪を見ながら茫然としている4人を見て、私は話しかけた。
「えっと、大丈夫ですか?どこか悪いなら言って下さい」
「……すまない。まさか本当に壊せるとは……俺はベルナルドだ。感謝する……フェリーチェ」
ベルナルドがお礼を言いながら、私を抱き締めたので驚いたがクロードを見ると頷いたので遠慮がちに抱き返した。
「あたしはカルロッタ、ベルナルドの妻だよ。ありがとうフェリーチェ」
ベルナルドが離すと、次にカルロッタが抱き締めて来た。
(獣人ってお礼するとき抱き締めるのかな?)
そう思いつつ抱き返すと、今度はルーカスとクレアに同時に抱き締められた。
「俺はルーカスだ。ありがとうフェリーチェ」
「わたしはクレアよ。感謝するわフェリーチェ」
(獣人だからじゃないのか。まぁいいや)
私が同じように抱き返して離れると、4人が涙ぐみながらも穏やかに笑ってたのでつられて笑った。
「あっ!お菓子食べませんか?」
「フェリーチェ様、お菓子の前にお食事をしていただいた方がよろしいかと」
「それもそうだね」
オリビアに言われ、先に食事をしてもらう事になり、一緒に運んできた食事をテーブルに並べた。
「つもる話もあるだろうが、先に食事をしてくれ。オリビアを残すから、何かあればこの者に言ってくれ」
クロードに言われて、最初は遠慮していたが空腹には勝てなかったのか食事をしだした。
私はそれを見てからクロードとチェイスとライルと一緒に部屋を出た。
バルドとロイは部屋に残るそうだ。
「そういえばアルはどうした?」
「アルなら談話室でお母様たちとお菓子を食べてるよ」
「あ~あれか、確かに食べやすいよな」
「まだあるなら、俺も食べたいな」
「まだあると思うけど、あんまり食べ過ぎないでね。太るから」
「「え!?」」
私の発言にチェイスとライルが驚いてると、クロードが急に私を抱き上げ歩く速度をあげた。
「わぁ!どうしたのお父様!?」
「サマンサは菓子に目がない。恐らく、かなり食べてるはずだ」
「大丈夫だよ。アルも知ってるから止めると思うよ?」
「それマズくないか?」
「チェイス、何がマズいの?」
「あ~俺もマズいと思うぜ、あのアルに女心は理解出来ないだろう?」
「……あ!」
「急ごう。嫌な予感がする」
クロードはそう言って、さらに速度をあげた。
談話室に近付くとサマンサの声が聞こえてきた。
「本当に美味しいわ。いくらでも入っちゃう」
「お義姉様、あまり食べ過ぎない方が」
どうやら予想通り、サマンサはかなり食べてるみたいだが間に合ったようだ。
しかし、クロードが談話室に1歩踏み入れたときに空気が凍った。
「お母様、アンジェラの言う通りだよ。食べ過ぎたらオークみたいに太るよ」
「………………」
サマンサはアルの言葉に動かなくなって、アンジェラがオロオロしていた。
「「「遅かった……」」」
(アルのバカ!言い方が……よりにもよって例えにオークって)
暫く様子を見ていたが、動く気配のないサマンサにアルが話しかけた。
「お母様、何で固まってるの?」
するとサマンサがゆっくり動きだし、アルに近付いたかと思うとガシッとアルの顔を掴んだ。
「アル、さっき何て言ったのかしら?まさかお母様に向かって‘オークみたい’とか‘太る’なんて言ってないわよね?」
笑いながら言うサマンサの後ろには般若が見えた。
私は思わずクロードにしがみついて震えてしまい、
そのただならぬ様子に、アルは反射的に答えていた。
「ボク ソンナコト イッテナイヨ 」
「そうよね!きっと空耳だわ。でも、アンジェラとアルの言うようにそろそろ止めるわね」
「ウン ソレガイイヨ」
どうやらサマンサのお許しが出たらしい。
サマンサとアンジェラが談話室を出た後、アルに声をかけると‘お母様は何であんなに怒ってたのかな?’とクロードに聞いたので、‘分かってなかったの?’と聞くと、‘なんか本能が逆らうなって言ったんだ’との答えが帰って来た。
((((女心には龍でも勝てないのか))))
問題も解決したところで、クロードとチェイスとライルはオースティンに任せていた地下牢に向かった。
私とアルは少し時間を潰した後、ベルナルドたちの部屋へと向かう事にした。
部屋に行くと、食事がすんだのかお茶を飲んでゆっくりしていた。
「失礼します。体調に変化はありませんか?」
「大丈夫だ。むしろ首輪が外れて楽になった」
「ベルナルドの言う通りだよ。食事まで用意してもらってありがたいよ」
「フェリーチェが作った菓子も美味しかったぞ。なぁクレア」
「えぇ、今まで食べたことないものだったわ。ところで、その子は?」
クレアは私の後ろにいるアルが気になったのか聞いてきた。
まずは自分からという事で、ベルナルドたちが自己紹介すると、アルも口を開いた。
「僕は、アルベルトだよ。フェリと一緒でファウスト家の養子なんだ」
「黒髪に琥珀の瞳……君に血の繋がった兄弟はいないか?」
ベルナルドがそう聞いてきたので、アルは首を傾げながら答えた。
「兄弟?僕と血の繋がった者はいないよ。どうかしたの?」
「いや……昨日、君と同じ黒髪に琥珀の瞳の青年に会ってな。その時は、命の危険を感じたが結果的に我々は助けられたから、お礼が言いたかったんだ」
(命の危険?)
「そこの3人に聞いても‘自分では答えられない’って教えてくれないのさ」
(あ~内緒だもんね)
「しかし、‘答えられない’と言うことは彼のことを知っていると言ってるようなものだ」
(やっぱりお父様に確認してからだよね)
「本当にあの殺気は凄かったわよ。あと少しでも浴びてたら失神してたわ」
(……殺気!?)
私が内心驚いていると、アルがあっけらかんと言った。
「え?結構、抑えてたんだけどダメだった?お礼ならいいよ。たまたまだから、チェイスが止めてなかったら殺ってたし、むしろゴメンね」
「「「「は?」」」」
「ア、ア、アル!何言ってるの!?」
「アルベルト様!?」
「言って良かったのだろうか?」
「いえ、駄目でしょう」
「何が?……あぁそうか、今は子どもの姿だからね」
アルは納得したように頷いて、あろうことか変化を解いた。
そして、現れた姿を見てベルナルドたちがアルを指差しながら目と口を開いたまま固まった。
アルは固まった4人と、深い溜め息を吐く私たちを見て少し焦りながら口を開いた。
「あれ?もしかして、言っちゃダメだった?……ハハッ……記憶消しちゃえば大丈夫だよね!」
「「「待て待て待て待て!」」」
「アルベルト様、記憶を消すかはひとます置いて、クロード様にご報告されてはいかがでしょうか」
アルのとんでも発言に私たちが待ったをかけると、アルは嫌々クロードの元に向かった。
残った私たちは、今だに動く気配のない4人を見ながら、暫く見守ることにしてオリビアにお茶を頼んだ。
まぁ早い話、現実逃避だ。
4人が動きだしたころ、アルが戻ってか来た。
「あっ、動いてる」
「アル、どうだった?」
「頭を抱えながら溜め息吐いてたけど、怒られなかったよ。彼等なら話して大丈夫って言ってた」
((((呆れて何も言えなかったんだ))))
「改めて僕はフィアフル、フェリと一緒に帝国からこの国に来た。わけあって、今は子どもの姿でアルベルトと名乗っているよ。だから、子どもの姿のときはフィアフルの名前で呼ばないでね」
(黒龍なのは話さないんだ)
アルの話が終ると、ベルナルドが戸惑いながら口を開いた。
「フェリーチェと一緒に……ではお前がクロード殿の言ってた守護者か」
「守護者?」
「違うのか?フェリーチェには守護者がいて守っていると言ってたが」
「あぁ、そういう意味なら僕はフェリの守護者だよ」
「そうか、改めて言わせてくれ。この国に連れてきてくれてありがとう」
ベルナルドの言葉に合わせて、3人も頭を下げた。
それからカルロッタが私を見て聞いてきた。
「フェリーチェ、あんたは今……幸せかい?」
何故そんなことを聞くのか不思議だったが、カルロッタも他の3人も真剣な顔で私を見ていたので正直に話した。
「はい、ここにはアルがいてお父様やお母様、オリビアたち屋敷の皆、オースティンさんたちもいますし、チェイスたちみたいに心配してくれる人がいて、私は幸せです」
「そう……そうかい」
私の返事を聞いて4人は何か相談した後、ベルナルドが聞いてきた。
「すまないが、我々の今後について話しがしたい。クロード殿には会えないだろうか?」
オリビアがクロードの元に行き、暫くして部屋にやって来た。
「待たせたな。話と言うのは?」
「忙しいのに申し訳ない。我々の今後について、頼みがある」
「頼み?君たちはもう奴隷ではないから、故郷に帰りたいと言うなら手配するが」
「いや……我々の故郷はもうないのだ。帰る場所も帰りを待つ者もいない」
ベルナルドの言葉に皆が顔をしかめた。
「そうか……では、君たち頼みとは何だ?」
クロードの問いかけに、少しの逡巡のあと望を口にした。
「我々を、この国に受け入れてはもらえないだろうか」
「それは、この国に属するという事でいいのか?それは全員の総意と取っていいのだな」
「「「「はい」」」」
「そうか、個人的には歓迎したいが私だけでは返事は出来ない。2、3日時間をもらえるか?その間、この家に滞在してくれ」
「「「「宜しくお願いします」」」」
読んでくれてありがとうございます。
次回、「スミス家」です。




