こっちもトラブル
56話目です。
フェリーチェの話です。
私たちはアルが国境に向かった後、ルフィーナに案内されてギルドの横にある一軒家に入った。
「ここを自由に使って下さい」
「分かりました」
「しかし、本当に無料でいいのですか?ギルドで支払いますが」
「無料で大丈夫です。治療所から苦情がきた時に、お金を受け取っていれば因縁をつけられやすくなるので」
「ではせめて、メイソン殿とブレイク殿の護衛料を」
「必要ない。我等は友人と過ごしているだけだからな」
「そうじゃぞ」
「そうですか」
ルフィーナは肩を落としてギルドに帰って行った。
「2人ともありがとうございます」
「気にするな」
「お前さんらはアンジェラのために頑張ってくれてるんじゃ。ワシらも協力せねばな」
「そういえば、アルの鱗は足りました?」
「足りたぞ。アレでワシらの武器や防具を作れたわい。まだ仕上げがあるから楽しみにしておけブレイク」
「まさか黒龍の鱗で作られた物を身に付けることになるとはな。人生何が起こるか分からないものだ」
「私もビックリしましたよ。アルがいきなり体がムズムズするって言い出して、森に転移したと思ったら龍の姿になって、鱗が剥がれていったんです。何かの病気かと思いました」
「そりゃ誰でも驚くわい。ところでフェリーチェたちは何を作ったんじゃ?」
「これ作りました」
私はアルと作った宝石が付いてないシンプルな黒い指輪を見せた。
「ほぅ、しっかり加工出来てるわい」
「何か付与してあるのか?」
「はい、時空間魔法を付与したのでアイテムボックスと同じ効果があるんです」
「「…………は?」」
「アイテムリングって呼んでます。人数分作ってアルも1つ持って行きました。今、渡しておきますね。使用者権限があって最初にはめた人しか使えませんが、使用者が認めれば譲渡は可能です」
「「………………………」」
そう言って2人の分を差し出したが、なかなか受け取らないので、不思議に思い聞いてみた。
「どうしたんですか?2人とも」
「いや……何でもないわい。しかしなフェリーチェ
、できれば今度から作る前に教えてくれんか?」
「?はい、分かりました」
メイソンが力なく笑いながら言ったので、私は頷いた。
「これをはめればいいのか?」
「はい。ブレイクさん、指にはめて少しでいいので魔力を通して下さい。サイズが変わりますから」
メイソンとブレイクが言われた通りにすると、指輪がぴったりになった。
「その手で触れて‘入れ’って思えば収納されます。逆に出したいものを思いうかべて‘出ろ’って思えば出てきます」
「成る程な」
「便利じゃな」
その後、マジックリングを試しているとドアがノックされた。
入って来たのは10代の少年だった。
「すいません。ここで治療してくれると聞いたんですけど」
「はい、大丈夫ですよ。どうされました?」
「依頼中に腕をぶつけて腫れてきて。剣も握れないくらい痛くて」
「分かりました。見てみますね」
腫れた腕を見てみると、骨にヒビが入っていた。
「骨にヒビが入ってますね。『回復』」
魔法を発動すると、腕が光だし光が収まると腫れがひいていた。
「終わりましたよ。動かしてみてください」
「え!?もう治ったんですか?」
驚きながらも、腕を動かすとみるみるうちに表情が明るくなった。
「痛くない……治ってる!ありがとうございます」
「いえいえ、治ったばっかりですから無茶はしないで下さいね」
「はい!」
少年は頭を下げながら出ていった。
それから何人か治療したが、中には私を見て落胆する人もいた。
しかし、一緒にいるメイソンとブレイクを見て治療を頼まれ、終わると自分の態度を謝ってくれた。
無料で治療出来るということもあり、冒険者が多く来たが、一般の人にも声をかけて欲しいとお願いすると、快く引き受けてくれた。
周りの協力もあり順調にいっていたが、トラブルは治療した人たちが差し入れを持って来てくれて、皆で談笑している時にやって来た。
――バン!
「おい!ここの責任者を出せ!誰が責任者だ!」
ドアを激しく開けながら、チンピラみたいな男が入って来た。
中にいた人たちが一斉に睨み付けるが、男は気にならないのか鈍いのか、彼等に目を向けず私を見ていた。
(‘誰が責任者だ’と聞くわりに、私のこと見てるから知っててやってるよね。さて、ただのタカリか……それとも……)
私は立ち上がり前に出て名乗った。
「初めまして、私が責任者のサヨです。今日はどうされました?」
「フンッ……お前が責任者か。実はな、俺の舎弟がここで治療したんだが、バカ高い金を要求されたばかりか、怪我も悪化したと言っている。どう責任をとるつもりだ!」
「高いお金に、怪我の悪化ですか?」
「そうだ!もちろん責任をとるだろうな!」
ニヤつきながら言う男に、周りの空気がピリピリして来た。
(この段階じゃ、まだどちらか分からないな。それにしてもこの人鈍すぎない?)
「責任ですか……例えばどんな責任の取り方をすれば、貴方は納得されるんですか?」
「え?どんな……えっと、それは!あれだ……あ~何だったか……そうだ、金を出せ!それか治療を辞めろ!」
(言わされてる感半端無い!)
「そうですか……治療は辞められないのでお金を払いましょう。でもその前に、その舎弟さんを連れて来てもらえませんか?」
「は!?な、何故だ!」
「本当に私が治療したのか見るためです。実はトラブル防止のために、この場所に入ると魔力が登録される仕組みなんです。もしかしたら、お金欲しさにいちゃもんをつけて来る人がいるかもしれませんしね。もちろん貴方は違うと思いますので、連れて来てくれますよね」
(まぁ嘘だけど)
「そんな仕掛けが!?お、俺は嘘はついてないが急用が出来たから帰る!」
内心、舌を出しながら満面の笑顔で一気に言うと、男はオロオロしだして、慌てて出ていった。
するとブレイクが立ち上がり後を追った。
「俺が確かめる」
「お願いします」
成り行きを見ていた人たちが、感心したように話かけてきた。
「いや~お見事だな嬢ちゃん」
「確かにな。でもそんか仕掛けがあるなんて知らなかったぜ」
「やだな~そんな仕掛けありませんよ!」
「「「え?」」」
「あれはあの人を動揺させるために言ったんです。あの人、誰かに指示されてるのバレバレでしたから、咄嗟の判断が出来なくて指示を仰ぎに行くと思ったんですよね」
「この子は若いが、よく人を見とるからな。甘くみらんことじゃ」
「「「………………」」」
私とメイソンの言葉に唖然としてたが、女が笑い出した。
「あっはっはっは!こいつは驚いたよ。無料で治療するなんて、とんだお人好しか世間知らずかだと思ってたが、しっかりしてるじゃないか!メイソン様とブレイク様が力を貸すのも分かる気がするよ。あたしはランカ、A級だ。困った事があったらいつでも言いな!女同士の事でもいいよ!」
「はい!ありがとうございます」
「せっかく現れた癒しが……」
「物静かで、可憐な女の子が……」
「何を言っとるんじゃ。サヨは素直で可愛くて優しい子じゃわい」
1つの友情が生まれ、男たちが落胆し、1人の親(?)バカが発動していたその時、ブレイクの方は
黒幕に近付いていた。
(この方向は……やはり奴等が動いたか)
出ていった男が入ったのは、治療所だった。
ブレイクは『隠密』の付与された魔道具を使い中に潜入する。
中に入ると2人の男の話し声が聞こえてきた。
「何だ、もう終わったのか?奴等はおとなしく従ったのか?」
「いえ……それが」
「何だハッキリしろ!」
「失敗しました!許してください治癒師様!」
「何故、失敗したんだ?」
問い質された男はフェリーチェとのやり取りを話した。
それを聞いた治癒師は顔をしかめながら口を開いた。
「どうやらただのバカな小娘ではなかったか。S級パーティーのドワーフと獣人がいたというのは本当か?」
「はい、どうやら護衛をしているようで」
「チッ、厄介だな。よし、罠にかけるぞ、人数を集めて騒ぎを起こし2人を引き離せ。その間に女を連れ出して始末しろ。報酬はたっぷりくれてやる。せっかく教会を欺いて金を引き上げて儲けているのに、台無しにされてたまるか!」
「わ、分かりました」
男が治療所を出ていくと、ブレイクもフェリーチェの元に戻り男たちの計画を話した。
「それはまた……短慮というか、何というか」
「バカなんじゃろ」
「それで、どうするんだい?迎え撃つなら力になるよ」
「「俺たちも!」」
「ありがとうございます。ブレイクさんアレ使いました?」
「あぁ、部屋に入ってから使ったから大丈夫だ」
「なら……今回は向こうの計画に乗ろうと思います」
「は?何言ってんだい!危険だよ」
「確かにそうですけど、ランカさんたちはルフィーナさんに伝えて協力をお願いしてもらえますか?危ないのでさりげなく一般の人を遠ざけて、騒ぎに対応する人を厳選して欲しいんです。余計な怪我人が出ないように」
「それはいいけど、あんたはどうするのさ?治癒師か1人で危険だよ」
「メイソンさんとブレイクさんがいるので大丈夫ですよ。それに私は……治癒師ではないので」
「「「はぁ!?」」」
ニッコリ笑いながら言ったら、かなり驚かれてしまった。
それから直ぐにルフィーナに連絡をとり、冒険者の手配をすると、私が治療した人やその仲間が協力を申し出てくれて着々と準備が進んでいき……その時は来た。
読んでくれてありがとうございます。
次回、「罠」です。




